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髄液糖所見の解釈

Classicalなテーマを扱いますが、調べてみると意外とわからないことだらけです。

髄液糖が低下する機序

・前提の生理学:通常糖は血液からBBBのグルコーストランスポーター(GLUT1)を超えて能動的にCSFに輸送されており、血中濃度と髄液濃度は平衡関係にある
・髄液糖が低下する原因は以下が挙げられる
原因1:髄腔内での糖消費
原因2:BBBのGLUT1(グルコールトランスポーター)の機能不全

カットオフ値

・文献によりまちまちで明確な基準はないですがおおむね糖の髄液/血液比=0.5をカットオフとしているものが多いです(文献により0.4-0.5, 0.6など様々です)
・血糖値の変動から最低2時間ほど遅れて髄液糖と平衡関係になる点に解釈上注意が必要です(つまり糖尿病患者さんなど血糖値が変動している状態での解釈には注意が必要で、食後など特に血糖値が上下しやすい状況を避けて検査を行うべき)
・以下にいくつか調べた文献をまとめます

*参考文献:J Emerg Med. 2001 Aug;21(2):171-8.

■小児での血糖値と髄液糖の関係に関して N Engl J Med 2012; 366:576-578

・背景:髄液糖/血糖値のカットオフ地としてよく”0.6″が使用されているが、その明確な根拠はなく検討
・18歳以下の小児症例(正常例*細菌性髄膜炎・無菌性髄膜炎・シャント・糖尿病は除外)での髄液所見(血糖と髄液採取は60分以内)を検討(計3805例)
髄液糖/血糖値比= 0.56 下図:線形の関係性あり

■”Adam and Victor’s Principles of Neurology” 10th edition p.18の記載

・糖の髄液/血液比は通常血糖値の”0.6-0.7″で高血糖になると”0.5-0.6″になり、低血糖になると”0.85″まで上昇する
*髄液糖の明確な低下基準に関して記載はないが、35mg/dL未満は一般的に低下と記載あり
グルコース静注2~4時間後に髄液と血液が平衡関係になる(血糖値が低下した場合も同様の時間経過になる)
・原因:細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎、癌性髄膜炎、サルコイドーシス、くも膜下出血(最初の1週間)
・細菌性髄膜炎で糖が低下する原因は細菌が糖を消費する機序が考えられていたが、抗菌薬治療で菌がいなくなった後も髄液糖低下が遷延することから、CSFへの糖輸送が障害される機序も想定される

■”Guidelines on routine cerebrospinal fluid analysis. Report from an EFNS task force” European Journal of Neurology 2006, 13: 913–922

・糖の髄液/血液比は通常0.5-0.6(ClassⅣ)
・ 糖の髄液/血液比<0.4-0.5を病的と判断(ClassⅣ)

■「髄液検査データブック」出版:新興医学出版社

・髄液糖は約90分~4時間前の血糖値に影響される・50%以下を低下と判断

髄液糖低下の原因 “hypoglycorrhachia”

癌性髄膜炎についてはこちらをご参照ください。