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抗LGI1抗体関連脳炎

抗LGI1(leucine-rich, glioma-inactivated 1)抗体関連脳炎は自己免疫性脳炎の中で抗NMDAR脳炎に次いで多い原因として指摘されており認知が広まってきています. 自己免疫性脳炎の総論に関してはこちらを参照ください。抗VGKC関連抗体としてLGI1とCaspr2への抗体が代表的で前者が辺縁系脳炎(中枢神経)を主体に, 後者が末梢神経を主体な臨床像を呈します.

FBDSは発作中の頭皮脳波が正常であることから、心因性などと間違えられることもあり注意が必要です。

LGI1脳炎38例の臨床像まとめ Neurology ® 2016;87:1449–1456

ほとんどの文献がこの論文から臨床像を引用しているため元文献をまとめます.

臨床像
・男性66%, 発症年齢 64歳, フォローアップ期間 27カ月
・臨床像:辺縁系脳炎 90%(34例), Morvan症候群 8%(3例), てんかん 3%(1例)
・初発症状:てんかん発作 53%(最多 FBDS:faciobrachial dystonic seizure 16%, focal seizure 24%, tonic clonic seizure 13%), 認知機能障害 42%(記憶障害24%, 行動障害18%)
変性疾患による認知症と最も誤診されやすいのが抗LGI1抗体関連脳炎であり,認知症と自己免疫性脳炎の関連に関してはこちらをご参照ください。
・てんかん発作に関して:経過中 90%, FBDS 47%(認知機能障害発症から数週間後*特徴的で早期診断に有用), FBDS 40回/日, Tonic-clonic seizure 63%(認知機能障害と同時または随伴) *脳波異常所見を伴わないことが多い
・臨床経過(下図図):発症からnadirまでの期間22週間
・最重症:76%はmRS≧3
・症状:記憶障害 97%, 行動障害 90% apathy 53%, 脱抑制 40%, 自己中心的 38%, 強迫障害 29%, 空間認知障害 52%, 不眠 65%, 体重減少 27%, 自律神経障害 47%, 疼痛 9%, 末梢神経障害 16%

*参考:J Neurol Neurosurg Psychiatry 2018;89:526–534.

検査
・採血:低Na血症 65%
・髄液:細胞数上昇(>5/μL) 16%, 蛋白上昇 16% *髄液正常例が多い
・MRI所見(初回) 片側海馬病変 25%, 両側海馬病変14%, 正常 26%
・MRIフォローアップ所見 海馬硬化症 41%, 海馬T2強調像高信号 35%, 正常 24%
・腫瘍随伴:11%
・LGI1抗体(CBA): 血清 100%, 髄液 53% →血清だけからしか抗体が検出されない場合があり, 必ず血清と髄液両方の抗体を検査する必要がある(これは抗NMDAR抗体などのその他の抗体と異なる点)
・LGI1抗体(免疫染色): 血清 100%, 髄液 88%
*その他のCaspr2抗体, NMDAR抗体, 傍腫瘍抗体は全例検出なし

画像

文献:LGI1脳炎のMRI画像特徴に関して JAMA Neurol. 2024 Mar 18:e240126. PMID: 38497971
・特徴:①T2/FLAIR像高信号域が側頭葉に限局している、②拡散制限なし、③造影効果なし
・ここではLGI1/CASPR2抗体脳炎と画像所見上鑑別になるウイルス性脳炎(ほとんどが単純ヘルペス脳炎)とCJDとのMRI画像所見を比較検討している
・側頭葉外まで病変波及:LGI1 8% vs ウイルス性脳炎 94% vs CJD 75%
・腫脹:LGI1 22% vs ウイルス性脳炎 59%
・拡散制限あり:LGI1 0% vs ウイルス性脳炎 73% vs CJD 80%
・造影効果あり:LGI1 5% vs ウイルス性脳炎 41%

文献:FBDSでは基底核T1高信号を認める場合がある Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2015;2: e161; doi: 10.1212/NXI.0000000000000161
・LGI1抗体関連脳炎48例をFBDS合併(+)26例と非合併(-)22例に分けて画像所見を検討
・FBDS合併26例の患者背景:62.5歳(37-78歳)、男性65%、FBDS部位 顔面85%, 上肢 100%, 下肢 46%, 持続時間3秒(1-20秒), 回数/日 66回/日(10-960)、髄液炎症性変化 21%, SIADHによる低Na血症 48%(Na 128.5mq/L 114-133), 脳波は87%(20/23)で正常
・当初の診断:10例(38%)は元々心因性と判断(19% 5/26は当初CJD疑い)、
基底核T1 or T2WI高信号 FBDS(+) 42% (11/26), FBDS(-) 0% (0/22) p=0.001
→異常信号はFBDSと対側、造影効果はなし
・側頭葉内側病変 FBDS(+) 42%(11/26) , FBDS(-) 91%(20/22) p<0.01
・考察:LGI1 knockout mouseはジストニアを生じる
基底核T1高信号はFBDSを疑う上で重要、虚血が関与している可能性があるかもしれない
・また頭皮上脳波が正常である点から、基底核がFBDSの病態に関与している可能性がある

*参考:基底核T1高信号病変を呈する疾患
・マンガン蓄積(肝不全)
CJD
非ケトン性高血糖性舞踏病
NPSLE
・HIV感染
・MSA
・Fahr病
Wilson病
・薬剤(シクロスポリン)
・Cockayne syndrome
・低酸素または虚血障害
・頭蓋内出血
・ガドリニウム造影を頻回に行う

治療予後
・治療反応性:1st line therapy 効果あり 80%, 治療開始から改善までの期間は2週間, てんかん発作の頻度減少 58%, 認知機能改善 42%
・経過:認知機能の改善, 長期間フォローで健忘は持続する, 再発率は高い, 海馬硬化を伴う

治療

IVIgによるてんかん発作コントロールのRCT ANN NEUROL 2020;87:313–323

・背景:自己免疫性のてんかん発作コントロールは免疫治療>>抗てんかん薬であるが, これまでRCTは1つも行われていないため実施.
・Mayo clinic 17例(LGI1 14例, Caspr2 3例) *元々は30例のsample sizeを目標としていたが到達していない
・IVIg群8例(初日0.5g/kg, 2日目 1g/kg, 3週目 0.6g/kg, 4週目 0.6g/kg)
・プラセボ群9例(生理食塩水投与) *5週目に効果ない場合はIVIg実施へ
*投与期間は抗てんかん薬を変更しない, てんかん発作の記録を患者さんが行う
・primary outcome: てんかん発作の頻度を50%以上減少(ベースラインから5週間後)
 75% vs 22% p=0.044(OR: 10.5, 1.1-98.9)