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NPSLE: neuropsychiatric SLE

NPSLEは疾患に特異的なバイオマーカーが確立していないこともあり、非常に難しい疾患群です。SLEの治療中に免疫抑制剤を使用している関係で易感染性による合併症や、PRESなどの薬剤を誘因とした合併症など多くの鑑別疾患を除外した上で除外的に診断するアプローチが求められ臨床的な総合力を求められると感じております(中枢神経疾患全般に関する知識/経験が求められる感じがします)。結局スッキリする内容をまとめられくて恐縮なのですが、勉強した内容を記載します。

分類

・primary NPSLE:SLE自体に由来する
・secondary NPSLE:SLE治療に合併する病態
・その他

病態

1. 血管障害による虚血:局所性NPSLE(血管障害)、びまん性NPSLE(認知機能障害)
2. 炎症:びまん性NPSLE(psychosis/急性錯乱状態)に関与

臨床像

SLEの疾患活動性との相関関係:50-60%:SLE発症~1年以内に起こる
*SLEの活動性が落ち着いている状態で発症することもあるため、「SLEの活動性が落ち着いているため、NPSLEではないとはいえない!」

頭痛:SLEに特異的な頭痛の病型はないとされている(Brain 127: 1200-1209, 2004)。SLE自体による無菌性髄膜炎、血栓症によるCVT、その他中枢神経感染症に注意が必要。頭痛単独では通常患者(非SLE患者)と同様のアプローチで良いとされています。

脳血管障害:50-60%は疾患活動性が高い状態で起こる。リスク因子:抗リン脂質抗体、弁膜症、高血圧症、高齢。対応は非SLE患者と同様に行う。

認知機能障害:多くのSLE患者がmild-moderateの認知機能障害を呈し、benign courseをたどります(重度の認知機能障害を呈するのは全体の3-5%程度)。domainとしては注意、視覚記憶、言語記憶、遂行機能、精神運動速度が挙げられます。

てんかん発作:1回の発作が多く、2回以上の発作を呈するのは12-22%と報告されている。

舞踏運動(不随意運動):APS、抗リン脂質抗体と関連している。55-65%の患者は数日から2,3か月で軽快する舞踏病を1回経験する。

急性錯乱状態(Acute confusional state)

精神症状(幻覚・錯覚):PSL1mg/kg以上の治療でのsteroid psychosisは10%以上に生じるとされ、精神病症状よりも気分障害が多いとされています。

脊髄症:3椎体以上の長大病変、横断性脊髄炎を急性に呈し(灰白質障害が主体)、視神経炎を合併する場合もありNMOSDとの関連も指摘があります。脊髄障害に関してはこちらのまとめもご参照ください。

脳神経障害:Ⅷ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅵ>Ⅴ・Ⅶが障害されやすいとされています。

末梢神経障害

検査

■血液検査

抗 ribosomal P 抗体:かならずしも有用性は確立していない

■髄液検査

・NPSLEに特異的な髄液所見はありませんが、まず他疾患(特に中枢神経感染症)を除外するアプローチ上髄液検査の果たす役割は大きいです。抗酸菌培養、真菌培養(場合によってはクリプトコッカス抗原)
髄液IL6: カットオフ値 4.4 pg/ml 感度87.5%,特異度92.3%(NPSLE45例後ろ向き検討:Clin Rheumatol 28: 1319-1323, 2009)、と報告されていますが何でも髄液IL6は上昇してしまいます。正直こんなに感度、特異度が高いとは到底思えません。

■脳波検査

・これもNPSLEに特異的な脳波所見がある訳ではなく、痙攣を呈するNPSLEで再発を予測するのに使えるツールという程度の位置づけになります。

■画像検査:推奨はGd造影を含めて・T1, T2, FLAIR, DWI

・これもNPSLEに特異的な画像変化はありません(この所見があればNPSLEらしいといえるほどの特異的な所見はない)。血管障害を反映した皮質下に微小梗塞様所見を最も多く認めるとされます。以下の線条体脳炎パターンの報告と脳内石灰化が目立つ点が感度は低いものの比較的特徴的な所見として挙げられています(後者は若年者で脳内石灰化が異常に目立つ場合はNPSLEを一度考慮してもよいかも)。
*自己免疫脳炎らしい所見+血管障害の所見の組み合わせはSLEを鑑別に挙げる(東京慈恵会医科大学放射線医学講座松島理士先生のおっしゃっていたclincal pearls)
・無菌性髄膜炎の画像を呈する場合もあります。

■線条体脳炎のパターンに関する報告(5例) AJNR Am J Neuroradiol 39: 2263-2269, 2018

診断

・NPSLEの診断に特異的で確立したバイオマーカーは存在せず、症状も他の感染症などでも呈しうるため診断に常に悩むのが現状です。
・このため他疾患の除外した上で診断する過程を経ることが多いです。
・またどうしても診断が難しい場合はステロイドを導入して診断的治療としてアプローチする場合もあります。

*NPSLEとの鑑別で重要な疾患:PRES(こちらを参照)・PML(こちらを参照)

治療

ステロイド+IVCY
±血漿交換
→難治例:リツキシマブ検討(保険適応なし)

参考文献
・Journal of Autoimmunity 74 (2016) 41 e 72
・Ann Rheum Dis 2010;69:2074–2082. “EULAR recommendations for the management of systemic lupus erythematosus with neuropsychiatric manifestations: report of a task force of the EULAR standing committee for clinical affairs”
・Nat. Rev. Rheumatol. 10, 338–347 (2014);