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肝機能障害の原因精査

  • 2023年1月27日
  • 2024年11月9日
  • 消化器

肝逸脱酵素について

・AST,ALTの上昇は「肝逸脱酵素の上昇」であり、それだけで「肝障害」を意味する訳ではない。心筋や骨格筋の障害、溶血、甲状腺機能異常などで上昇するため、「AST,ALT上昇」≠「肝機能障害」である。「AST, ALTが上昇しており肝障害を認めます」というプレゼンテーションがあるが、これは根本的に間違っている。
「肝機能障害」を反映するものは肝臓から合成される蛋白質でPT-INRやアルブミンなどである(Child-Pugh分類から分かるように)。
・肝逸脱酵素は個人内でも変動が大きく、AST,ALT,bilは初回正常上限値2倍未満かつ無症候性の場合はまずフォロー(再検で約30%は正常化と報告されている:Ann Intern Med. 2008;148;348-352.)。

*AST, ALTに関してのまとめ

・AST:半減期18時間、ALT:半減期48時間、肝細胞にはAST/ALT=1.5-2の比率で存在。AST、ALTは10-30%日によって変動がある。
・肝障害で急性に増悪している時期はAST/ALT>1となるが、48時間以内の経過でAST/ALT<1となる。
・アルコール性肝障害はAST/ALT>1となる点が特徴。
・AST/ALT>3:アルコール性肝炎もしくは肝細胞障害以外の原因を考慮する
・AST, ALTとLDHのバランス:肝細胞障害ではAST,ALT>LDH、横紋筋融解ではCK,LDH>AST,ALT
*透析患者ではAST,ALTいずれも低値になるため解釈に注意が必要。
参考文献:”Wallach’s interpretation of diagnostic tests 11th edition”

ALT>30 U/L を精査基準へ 奈良宣言2023(こちら

確認するべき病歴

飲酒量、輸血歴、性交渉(男性同性間性的接触者MSM; Men who have Sex with Menに関しても)、刺しゅう、違法薬物の使用、食べ物(イノシシ、魚介類、豚、いのしし、しか生食)、渡航歴

肝機能障害の代表的な原因5つ

1:アルコール性
2:NAFLD(nonalcoholic fatty liver disease: 非アルコール性脂肪性肝疾患)
3:ウイルス性(特にHBV, HCV)
4:薬剤性 各薬剤を確認したい場合はLiverToxのサイト(こちら)が詳しい
5:自己免疫性(AIH, PBC)
*その他:甲状腺機能異常症、shock liver、Wilson病、ヘモクロマトーシス、EBV感染、CMV感染

私は肝機能障害と判断した場合は、上記5つをとりあえず暗記するように研修医の先生には指導しています。
*肝機能障害のABCD: A(Alcohol, Autoimmune), B(HBV), C(HCV), D(Drugs)

各疾患の簡単な紹介

AIH: 自己免疫性肝炎
中年以上の女性に多い
検査:IgG上昇(TP/Alb解離など)、抗核抗体90%>抗平滑筋抗体 40%
治療:ステロイド>抵抗例アザチオプリン

・PBC(primary biliary cholangitis) 原発性胆汁性胆管炎 *原発性胆汁性肝硬変から名称が変更
中年以上の女性に多い
無症候性(または掻痒感)でみつかることが多い
検査:胆道系酵素上昇+抗ミトコンドリア抗体 AMA(抗核抗体スクリーニングで抗細胞質抗体陽性の場合にチェック忘れない:こちら)*M2抗体特異度高い
*自己免疫疾患(シェーグレン症候群、関節リウマチ、橋本病など)合併が多い AIHなどoverlapに注意
治療:ウルソデオキシコール酸(UDCA)第1選択>抵抗例はベザフィブラート検討 N Engl J Med 1991; 324: 1548-1554.

*参考:PSC 原発性硬化性胆管炎
・再発性胆管炎、IBD合併に注意
・検査:MRCP狭窄所見、抗体などなし
・治療:有効な治療はなく、肝移植など必要になることもありうる

検査

1:採血

・血算(血液像での破砕赤血球)、CK、甲状腺機能 *必ずCKと甲状腺機能をチェック
・逸脱酵素:AST, ALT, LDH, γ-GTP, ALP, Bil(直接・間接)
・肝合成能:Alb, PT-INR
・アンモニア

(以下の検査は疑う場合に検討 太字のHBV, HCV検査を筆者は過去に検査なければ全例確認している)
・その他:IgG, IgM, ANA(抗核抗体), AMA(抗ミトコンドリア抗体)
・ウイルス関連:A型肝炎(抗HAV-IgM)、B型肝炎(HBs抗原、抗HBs抗体、抗HBc抗体)、C型肝炎(抗HCV抗体)、E型肝炎(HEV-IgA)、EBV(VCA-IgM, VCA-IgG, EBNA),CMV(antigenemia,IgM), HSV(IgM,IgG), VZV(IgM,IgG)

2:腹部エコー検査

*参考:Child Pugh分類

123
肝性脳症なし軽度(Ⅰ・Ⅱ)昏睡(Ⅲ以上)
腹水なし軽度中等度以上
Bil (mg/dL)<2.02.0-3.0>3.0
Alb (g/dL)>3.52.8-3.5<2.8
PT (%)>7040-70<40
評価:Grade A: 5-6点 Grade B: 7-9点 Grade C:10-15点

*参考 肝臓線維化の評価:M2BPGi、ヒアルロン酸、Ⅳ型コラーゲン、FIB-4 index(年齢、AST, ALT、血小板数から計算される値)、エコー検査の肝エラストグラフィー

HBV検査の解釈まとめ

急性肝炎での推移

慢性肝炎での推移

参考:上図の引用元
https://www.cdc.gov/hepatitis/statistics/surveillanceguidance/HepatitisB.htm
https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5708a1.htm.

HBs抗原急性または慢性B型肝炎を意味する
 ▶HBV感染後1~10週で陽性, 急性感染の場合は4~6か月後に陰性化
HBs抗体:既感染またはワクチン接種後を意味する
HBc抗体HBV感染状態(活動性は判断できない)を意味する. 一度感染すると終生陽性が持続する
(一般的にHBc抗体というとIgG-HBc抗体のことを意味する)
 ▶ワクチン接種後HBc抗体は陰性 *HBs抗体陽性の場合にHBc抗体を確認することでワクチン後なのか?感染後なのか?を鑑別する
 ▶免疫抑制剤投与前は必ずHBc抗体を測定する
  ▶IgM-HBc抗体は上記HBs抗原/抗体がいずれも陰性になってしまう”window期”に唯一陽性となる場合がありHBVによる肝炎が疑われる場合に提出する

HBe抗原/抗体:肝炎の病勢評価目的に提出
 ▶HBe抗原が陰性, HBe抗体が陽性になることをセロコンバージョンと表現(活動性低下を意味する)
HBV-DNA:ウイルス量の評価目的に提出(肝炎・免疫抑制剤投与による再活性化)

治療方針
・治療目標:HBVを体内から完全に排除することは困難→肝炎鎮静化+発がん率の低下

*核酸アナログ製剤
・エンテカビル(ETV)バラクルード®わずかに薬剤耐性
・テノホビル・ジソプロキシル・フマル酸塩(TDF)テノゼット®妊娠希望でも可能
・テノホビル・アラフェナミド(TAF)ベムリディ®副作用少ない

B 型肝炎治療ガイドライン 第4版・簡易版 2022年6月 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編

HBV再活性化

isolated anti-HBc

HBc抗体のみ陽性(HBs抗体陰性, HBs抗原陰性)のパターンに関して調べた内容をまとめます。

・ccc(covalently closed circular) DNA:HBV DNAは肝細胞内にcccDNAとして存在する.cccDNAはHBc-Ag産生(c=core antigen)→HBc-Abはウイルス感染を反映する
・HBs-Ag:HBs-Agを介して肝細胞内に侵入する s=surface
・HBs-Ab:B細胞産生のウイルスに対しての中和抗体→T細胞も活性化し感染した肝細胞を破壊する

*参考 HBc抗体偽陽性の可能性に関して:別のアッセイで再検とされているが日本では難しい?(また免疫治療を導入する場合、それによって抗体偽陰性になる可能性もあるため判断難しいかもしれない)

再活性化・リスクに応じた対応

isolated HBc抗体陽性でのHBV再活性化リスク評価

High risk>10%Moderate risk 1-10%Low risk <1%
B-cell depleting agents (rituximab)Corticosteroids at high or moderate doses TNFα inhibitors (infliximab > others) Systemic cancer chemotherapy (Anthracycline derivatives> others) Cytokine-based therapies Immunophilin inhibitors Tyrosine kinase inhibitors Proteasome inhibitors Histone deacetylate inhibitorsLow dose or intra-articular corticosteroids Abatacept Tocilizumab Methotrexate Azathioprine, 6-mercaptopurine DAAs

・再活性化リスク因子(HBV側):HBV DNAベースラインのウイルス量、HBe抗原陽性、HCV or HDV慢性肝炎併存

薬剤
・抗CD20抗体治療(リツキシマブ):最もHBV再活性化リスクが高い 血液腫瘍領域 >10%(16.4%とmeta-analysisで報告あり)、関節リウマチではもっと低い
・TNFα阻害薬:リスク0-8.3%

リスクに応じた管理

①high risk: 抗ウイルス薬予防投与(HBV DNAによらず)

②moderate risk: HBV DNA測定
・陽性の場合:抗ウイルス薬予防投与
・陰性の場合:モニタリング AST, ALT, HBV DNA, HBs Ag 1か月後+3か月ごとにフォロー

③low risk:モニタリング

参考文献:J. Clin. Med. 2020, 9, 202

B 型肝炎治療ガイドライン 第4版・簡易版 2022年6月 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編

・日本ではHBs抗体も提出としているが、海外の推奨ではHBs抗体は不要としているところもある
・確かに既感染かどうかを調べるためにはHBc抗体のみで必要かつ十分
・前述のisolated HBc-Abを検討する上ではHBs抗体も提出

中止可能かどうか?

①スクリーニング時に HBs 抗原陽性だった症例では、B 型慢性肝炎における核酸アナログ投与終了基準を満たしていること。
*参考:B型慢性肝炎での核酸アナログ製剤中止の必要条件
1) 患者背景における必要条件
・核酸アナログ薬中止後には肝炎再燃が高頻度にみられ、時に重症化する危険性があるこ
とを主治医、患者共に十分理解している。
・中止後の経過観察が可能であり、再燃しても適切な対処が可能である。
・肝線維化が軽度で肝予備能が良好であり、肝炎が再燃した場合でも重症化しにくい症例
である。
2) 核酸アナログ治療における必要条件
・核酸アナログ薬投与開始後 2 年以上経過
・中止時、血中 HBV DNA(リアルタイム PCR 法)が検出感度以下
・中止時、血中 HBe 抗原が陰性

②スクリーニング時に HBc 抗体陽性または HBs 抗体陽性だった症例では、
(1)免疫抑制・化学療法終了後、少なくとも 12 か月間は投与を継続すること。
(2)この継続期間中に ALT(GPT)が正常化していること(ただし HBV 以外に ALT 異常の原因がある場合は除く)
(3)この継続期間中に HBV DNA が持続陰性化していること。
(4)HBs 抗原および HB コア関連抗原も持続陰性化することが望ましい。

AGA guideline “American Gastroenterological Association Institute Guideline on the Prevention and Treatment of Hepatitis B Virus Reactivation During Immunosuppressive Drug Therapy” Gastroenterology 2015;148:215 – 219

・high risk>10%:予防投与推奨 免疫抑制終了後最低6か月継続(B細胞除去療法の場合は終了後最低12か月継続)
・moderate risk 1-10%:予防投与推奨 免疫抑制終了後最低6か月継続
・low risk<1%:ルーチンでの予防投与に推奨しない
*抗HBs抗体により予防投与の可否を判断することは全てのリスク群において推奨しない
*予防投与の代わりにHBV DNAをモニターして上昇したら治療する(=rescue treatment)ことを推奨しない
*HBs抗原・抗HBc抗体・陽性の場合HBV DNAを測定することを推奨(moderate, high risk)

HCV

感染経路:血液感染(体液感染は稀) 母子感染5-10%, 水平感染:針刺し,輸血,肛門性交(通常の性交では稀である) 不顕性感染が多い(潜伏期間2週間~6か月)
原則:HCV抗体提出→陽性の場合HCV-RNA測定
スクリーニング推奨:18-79歳の全員に対してHCVスクリーニングを推奨
*Screening for Hepatitis C Virus Infection in Adolescents and Adults US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA. 2020; 323(10):970-975.
治療抵抗:⾮代償性肝硬変を含む「すべての」C型肝炎症例
治療薬:DAA(Direct Acting Antiviral) 直接作⽤型抗ウイルス薬
SVR(Sustained Virological Response) 95%以上、治療期間8-12週、重大な副作用 1.9%, 副作用に伴う内服中止 0.4%
治療の効果:肝炎~肝硬変への進行抑制、肝がん発生率・死亡率の低下
肝細胞癌サーベイランス 肝癌診療ガイドライン 2017 *元々肝細胞癌の原因1位はHCV感染

超⾼危険群⾼危険群
B型肝硬変、C型肝硬変B型慢性肝炎、C型慢性肝炎 (BC以外の)肝硬変
3〜4ヶ⽉に1回のAUS +腫瘍マーカ6ヶ⽉に1回のAUS +腫瘍マーカ

胆道系酵素上昇

1:γ-GTP, ALPいずれも上昇→胆汁うっ滞
2:γ-GTP単独上昇(ALP正常)アルコール>薬剤(フェニトイン、バルプロ酸など)
3:ALP単独上昇(γGTP正常):肝臓以外の原因 骨疾患など

腹部 エコー検査病態疾患検査
異常あり肝外胆管拡張結石・狭窄・胆管癌・ 膵臓癌・PSCなどMRCP (MR胆管膵管撮影)
肝内腫瘤肝細胞癌などCT・MRIで精査
異常なし肝内胆管閉塞PBC・薬剤性抗ミトコンドリア抗体 薬剤歴
浸潤性疾患サルコイドーシス・ アミロイドーシス・ 肉芽腫・リンパ腫など肝生検検討

その他の肝炎ウイルス

HAV

・感染経路:糞便-経口感染 MSMが多い
・潜伏期間:平均4週間
・検査:HAV-IgM抗体 感染後5-10日で検出可,4-6か月で消失
・治療:支持療法のみ(2か月以内に自然寛解)
*慢性肝炎へ移行することはない(急性肝炎のみ)
・ワクチン:不活化ワクチン・任意接種 暴露2週間以内のワクチン接種で予防可能 エイムゲン®3回

HEV

・感染経路:糞便-経口感染 汚染された水、食べ物(豚、イノシシ、鹿)
・潜伏期間:平均6週間 無症候性が半数程度あり
・治療:支持療法のみ

参考:ALP上昇の鑑別

・粟粒結核
・血管炎
・ABPC/SBT副作用(γGTP上昇)
・サルコイドーシス(肝臓はALPのみ上昇の場合がある)
・骨転移
・甲状腺機能亢進症

ビリルビン上昇

病態生理

・通常ビリルビン(Bil)> 2.5mg/dLで黄疸(皮膚、眼球強膜の黄染)を認める(エラスチンがビリルビンと結合しやすいためエラスチンが豊富な強膜から認めることが多い)。
総ビリルビン=直接ビリルビン+間接ビリルビン(通常検査で測定するのは総ビリルビンと直接ビリルビンであり、間接ビリルビンは引き算で計算して出す)
*直接ビリルビン=抱合ビリルビン、間接ビリルビン=非抱合ビリルビン
・代謝:ビリルビンは赤血球が脾臓で分解され、間接ビリルビンが産生され、肝臓でグルクロン酸抱合を受け、直接ビリルビンになり、胆管を経由して胆汁として腸管に排泄される。
・ビリルビンは日差変動が15-30%程度あり、絶食により上昇、また検体が光に当たることで値が低下する(1時間で最大50%)。
・溶血のみで(背景に肝機能障害なく)ビリルビンが5mg/dLを超えることはまれ。

ビリルビン上昇の原因

1:間接ビリルビン上昇
・産生亢進:溶血性(TMA:血栓性微小血管症 TTP, HUS, DIC,自己免疫性)、無効造血、血腫再吸収、大量輸血
・抱合障害:Gilbert症候群、Crigler-Najjar症候群

2:直接ビリルビン上昇
・胆管閉塞
肝内:PBC、薬剤性
肝外:結石、狭窄、胆管癌、膵臓癌、PSC
・肝細胞性:肝炎、薬剤性、肝硬変
・浸潤性:転移、膿瘍、肉芽腫、アミロイドーシス
・遺伝性:Dubin-Johnson症候群、Rotor症候群、胆汁輸送蛋白異常

胆管閉塞肝細胞障害浸潤
ビリルビン値6-20mg/dL >10mg/dL:腫瘍を示唆する(結石より)4-8mg/dL正常もしくは <4mg/dL
AST, ALT◯軽度上昇 <200 U/mL◎著名に上昇 500-1,000 U/mL△軽度上昇 <100 U/mL
ALP◎著名に上昇 上限値3-5倍 *<上限値3倍 15% :特に閉塞が不完全、良性疾患の場合△正常~軽度上昇 上限値1-2倍◯上昇 上限値2-4倍
PT慢性経過で上昇重度で上昇変化なし

参考:内科診療ことはじめ