注目キーワード

肝機能障害の原因精査

肝逸脱酵素について

・AST,ALTの上昇は「肝逸脱酵素の上昇」であり、それだけで「肝障害」を意味する訳ではない。心筋や骨格筋の障害、溶血、甲状腺機能異常などで上昇するため、「AST,ALT上昇」≠「肝機能障害」である。「AST, ALTが上昇しており肝障害を認めます」というプレゼンテーションがあるが、これは根本的に間違っている。
「肝機能障害」を反映するものは肝臓から合成される蛋白質でPT-INRやアルブミンなどである(Child-Pugh分類から分かるように)。
・肝逸脱酵素は個人内でも変動が大きく、AST,ALT,bilは初回正常上限値2倍未満かつ無症候性の場合はまずフォロー(再検で約30%は正常化と報告されている:Ann Intern Med. 2008;148;348-352.)。

*AST, ALTに関してのまとめ

・AST:半減期18時間、ALT:半減期48時間、肝細胞にはAST/ALT=1.5-2の比率で存在。AST、ALTは10-30%日によって変動がある。
・肝障害で急性に増悪している時期はAST/ALT>1となるが、48時間以内の経過でAST/ALT<1となる。
・アルコール性肝障害はAST/ALT>1となる点が特徴。
・AST/ALT>3:アルコール性肝炎もしくは肝細胞障害以外の原因を考慮する
・AST, ALTとLDHのバランス:肝細胞障害ではAST,ALT>LDH、横紋筋融解ではCK,LDH>AST,ALT
*透析患者ではAST,ALTいずれも低値になるため解釈に注意が必要。
参考文献:”Wallach’s interpretation of diagnostic tests 11th edition”

確認するべき病歴

飲酒量、輸血歴、性交渉(男性同性間性的接触者MSM; Men who have Sex with Menに関しても)、刺しゅう、違法薬物の使用、食べ物(イノシシ、魚介類、豚、いのしし、しか生食)、渡航歴

肝機能障害の代表的な原因5つ

1:アルコール性
2:NAFLD(nonalcoholic fatty liver disease: 非アルコール性脂肪性肝疾患)
3:ウイルス性(特にHBV, HCV)
4:薬剤性
5:自己免疫性(AIH, PBC) *AIH: 自己免疫性肝炎, PBC: 原発性胆汁性胆管炎

私は肝機能障害と判断した場合は、上記5つをとりあえず暗記するように研修医の先生には指導しています。

検査

1:採血

・血算(血液像での破砕赤血球)、CK、甲状腺機能 *必ずCKと甲状腺機能をチェック
・逸脱酵素:AST, ALT, LDH, γ-GTP, ALP, Bil(直接・間接)
・肝合成能:Alb, PT-INR
・アンモニア

(以下の検査は疑う場合に検討 太字のHBV, HCV検査を筆者は過去に検査なければ全例確認している)
・その他:IgG, IgM, ANA(抗核抗体), AMA(抗ミトコンドリア抗体)
・ウイルス関連:A型肝炎(抗HAV-IgM)、B型肝炎(HBs抗原、抗HBs抗体、抗HBc抗体)、C型肝炎(抗HCV抗体)、E型肝炎(HEV-IgA)、EBV(VCA-IgM, VCA-IgG, EBNA),CMV(antigenemia,IgM), HSV(IgM,IgG), VZV(IgM,IgG),

2:腹部エコー検査

HBV検査の解釈まとめ

HBs抗原急性または慢性B型肝炎を意味する
 ▶HBV感染後1~10週で陽性, 急性感染の場合は4~6か月後に陰性化
HBs抗体:既感染またはワクチン接種後を意味する
HBc抗体HBV感染状態(活動性は判断できない)を意味する. 一度感染すると終生陽性が持続する
(一般的にHBc抗体というとIgG-HBc抗体のことを意味する)
 ▶ワクチン接種後HBc抗体は陰性 *HBs抗体陽性の場合にHBc抗体を確認することでワクチン後なのか?感染後なのか?を鑑別する
 ▶免疫抑制剤投与前は必ずHBc抗体を測定する
  ▶IgM-HBc抗体は上記HBs抗原/抗体がいずれも陰性になってしまう”window期”に唯一陽性となる場合がありHBVによる肝炎が疑われる場合に提出する

HBe抗原/抗体:肝炎の病勢評価目的に提出
 ▶HBe抗原が陰性, HBe抗体が陽性になることをセロコンバージョンと表現(活動性低下を意味する)
HBV-DNA:ウイルス量の評価目的に提出(肝炎・免疫抑制剤投与による再活性化)

参考:内科診療ことはじめ