シクロフォスファミドは非常に古い薬剤で、神経内科領域でも免疫疾患で使用することがあります。ANCA関連血管炎での末梢神経障害(現在GPAはリツキシマブを使用することが、EGPAはメポリズマブを使用することになってきていますが)、自己免疫性脳炎(こちら)やNORSE(こちら)での2nd line therapyあたりが代表的なところかと思います。
神経免疫疾患の領域はリツキシマブが保険適応になっているものが乏しいため、やむを得ずにシクロフォスファミドを使用せざるを得ない場合があります。普段頻回に使用する訳ではないため慣れていないところもありI先生に沢山ご教授いただき本当にありがとうございます。
*投与方法レジメンは病院ごとにセット登録になっていたり違いがあるかと思いますので院内ルールに従うためここでは参考になるかと思います。
作用機序:DNAアルキル化(細胞周期に依存せずに作用する)
商品名:エンドキサン®
製剤:100mg, 500mg/注射用 50mg/錠
副作用:出血性膀胱炎・膀胱癌・悪性腫瘍・生殖機能障害(若年女性には基本使用しない)・免疫抑制(易感染性)・骨髄抑制
間欠的静脈注射(パルス療法) IVCY
間欠的静脈注射(パルス療法)
投与方法:500~1000mg/m2/回 + 生理食塩水250mL 3時間かけて点滴静注・4週間あけて投与
*750mg/m2と記載している文献が多いが確固たる根拠はなし
*(例)実際には1000~1500mg/回を点滴静注
*パルス療法の場合一度投与してしまうと4週間後まで投与できない場合があるため中途半端な量を投与するとその後追加できないデメリットがある
出血性膀胱炎予防(代謝物のアクロレインが膀胱粘膜を刺激)
1:2-3L/日の点滴投与
2:ウロミテキサン *十分な予防効果のエビデンスなし(使用する病院・使用しない病院どちらもあり)
商品名:メスナ® 作用機序:アクロレインと結合
製剤:100mg/1ml or 400mg/4ml
作用機序:出血性膀胱炎の予防効果(シクロホスファミド以外では使用する場面なし)
投与量:1回あたりシクロホスファミド1日量の40%
投与時間/間隔:シクロホスファミド投与時+4時間後+8時間後 計3回
投与方法:ウロミテキサン400mg + NS50ml:30分かけて投与
内服療法 POCY
内服:2mg/kg/日 (例)100mg/日
*寛解導入の段階から使用すること可能
*朝内服分1(入眠中の膀胱貯留を防ぐ目的で朝分1とする)
*積算量に応じて悪性腫瘍リスクが増加する点に注意であるが、3か月など寛解導入のみに使用する分には積算量そこまで問題とならないことが多い
間欠静注投与(パルス療法) IVCYと内服療法 POCYで違いはあるのか?
歴史的背景まとめ
(ANCA関連血管炎に対してのシクロフォスファミドの臨床試験から)
シクロフォスファミド積算量が増加すると副作用も増加 Ann Intern Med. 1996 Mar 1;124(5):477-84.
→シクロフォスファミドを減量し効果を維持できないか?
→シクロフォスファミドの代わりにアザチオプリンで維持を行うことが可能 N Engl J Med 2003 Jul 3;349(1):36-44.
→経口内服ではなく間欠静注投与では積算量を減らすことができないか?:両者で寛解率に有意差なし・間欠静注投与群で白血球減少が有意に少ない ”CYCLOPS” Ann Intern Med. 2009;150:670-680.
→積算量は減るが上記の長期フォローアップ(4.3年)では副作用は有意差なく、むしろ再燃予防効果は経口内服の方が間欠静注投与よりも高い結果 Ann Rheum Dis. 2012 Jun;71(6):955-60.
結論:経口内服よりも間欠静注療法を優先する絶対的根拠はない
神経免疫疾患に関してのシクロフォスファミドのエビデンスはあるのか?
・結論から申し上げると調べた限り前向き研究はないです。その他後ろ向きや観察研究からの推察になります。
・このため現状はrheumatology領域で使用するシクロフォスファミの投与方法を模倣して投与することになると思います。
・神経免疫領域ではよくシクロフォスファミドのパルス療法がおこなわれると思いますが、実はパルス療法の方が経口内服より優れているというエビデンスはありません。上記の通り長期であれば経口内服の方が再燃抑制が優れているデータがあるくらいです。
・経口内服の方が効果発現が遅いのではないか?という懸念も、先述の”CYCLOPS”からはなく両者の効果は時間経過でも有意差はないです。
結局いつから導入するべきなのか? 2nd line therapyという位置づけは?
・最も知見の多いANCA関連血管炎は寛解導入の最初からシクロフォスファミドを併用するレジメンになっています(最近はリツキシマブですが)。なのでいつから導入するか?という点に関して臨床上迷う事はないかと思います。
・シクロフォスファミドの作用機序として骨髄抑制がくるのが最低1週間はかかるため、導入してすぐに効果が出る訳ではないという点を考慮すると最重症例では出来るだけ早期からシクロフォスファミドを導入することは理にかなっています。結局炎症の極期にきちんと炎症をたたき、だらだらと中途半端な免疫治療を続けることは避けなければいけません。発症1か月後にシクロフォスファミドを導入したとしても結局炎症の極期を過ぎている時期に導入することになるため効果に乏しく負け戦になってしまいます。
・ただ現行の治療推奨は1st line therapyにおいて10日(文献によって2週間以内など)に効果を認めない場合は2nd line therapy導入するとされています。しかし実際には1st line therapyが効果あったと判断するのもなかなか難しい場合もあります。
・すると本来は最初の段階で超重症な経過が予想される場合(これも本当はリスク因子が抽出されると良いのかもしれませんが)では早期から2nd line therapyを併用することが理にかなっているとも個人的に思います。
・ただ実際に自己免疫性脳炎やNORSEで難しいのは「感染症を初期段階で徹底的に除外することが難しい」という点です。ステロイドパルス単独くらいであれば問題ないですが、血漿交換をまわしてさらにシクロフォスファミドを投与するとなるともしも感染症の場合は大惨事になってしまいます。ここが神経救急の超急性期判断として非常に迷うところだと思います。
先日NORSE症例で非常に難渋した症例がありこれは初期からシクロフォスファミドを入れませんでした。その後地方会などでやはりNORSE症例に積極的なシクロフォスファミド投与により予後を改善している例の報告などをみるときちんと考えないといけないなと思い勉強した次第です。
どうしても「普段使い慣れていないから使わない」「副作用が怖いから使わない」という思考回路に安直に流れてしまうことがありますが、きちんとリスクを理解して初期段階で最も強く免疫を叩かないといけないという基本原則に基づいて治療戦略を組み立てる必要があるのかなと思いました。
この領域はかなり施設によってプロトコールに差があったり、慣習的なやり方の違いがあるかもしれませんが是非ご意見いただけると嬉しいです。