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閉鎖的な組織は必ず劣化する

まず最初に断っておきますが、以下は組織を運営する側というよりも専攻医などの若手医師向けの話になるかと思います。私は今まで初期研修を市中病院、後期研修を大学病院と田舎の市中病院、そして現在はまた新しい市中病院と計4つの病院で働いてきました。そこで色々な組織をみながら自分なりに学んだ教訓は風通しの悪い閉鎖的な組織は必ず劣化するということです。

ある程度の共有事項をその病院・組織の文化として持っておくことはもちろん素晴らしいことだと思います。急性期脳梗塞での血管内治療やrt-PAへのフローなどは院内の同線など病院ごとにプロトコルを作成するべきですし、医療安全面でのルール(例:KCLの混注方法)も事故防止のためきちんと院内ルールを作っておいたほうが良いです。また医療は通常「引継ぎ」があるため、日勤帯のDrから夜勤帯のDrへ引継ぎをするときに「あーはいはい、そういうことね」とある程度バックグラウンドの知識が共有されていると診療は非常にスムーズです。引き継がれた瞬間にpracticeが「がらっ」と変わってしまうと医療の一貫性に混乱をきたしますし、長期的な治療プランを立てづらくなります。

ただここでの注意しなければならない点は①「普段のプラクティスに疑問を持たなくなる」ことと、②一度自分達の中で当たり前になったことに新しい知見が介入してきた場合に「拒絶反応を示す」もしくは「新しい知見を調べない」ことの2点です。更にやっかいになると「うちの病院は〇〇というやり方だから」という歪なプライドが醸成されることです。正直ここまでくると修正はかなり困難になってきます(残念ながら実際にしばしばあります)。

私は初期研修の時に誤嚥性肺炎は喀痰をグラム染色して、多くの場合はその結果アンピシリン・スルバクタムにすると学んでいたため、他施設の先生が誤嚥性肺炎にセフトリアキソンを処方しているときに素直に受け入れる前に「えっおかしいんじゃない?」と拒絶反応を示してしまいました。当時の私はとくに何も調べもせずに誤嚥性肺炎というものは嫌気性菌カバーを外してはいけないと思い込んでいました。しかしその後よくよく調べてみるといわゆる昔の肺化膿症のような嫌気性菌主体の病態とはまた異なり、かならずしも嫌気性菌が主病態な訳とはかぎらないためセフトリアキソンを使うこともreasonableであることを学び、何も調べずに今までの習慣と違うからといって拒絶反応を持った自分が恥ずかしくなりました。「慣れ」というのは本当に恐ろしいもので、普段と違うものを思慮なく排除してしまう危険性があります。こうした事態は閉鎖的組織では往々にしておこり、修正がされないまま時が流れるので独自の文化が醸成されてしまいます。

では具体的に「このような風通しの悪い閉鎖的な組織に陥らないためにはどうすればよいか?」という点ですが、重要なのは「他流試合を厭わない=知り合いが少ない文化の違う病院へ行って医療を行う」「短期研修という形でもDrを病院同士相互に受け入れる体制を構築する」などが挙げられると思います。新専門医制度が良いか悪いかは私は当事者ではないのであまり申し上げられないですが、唯一良い点があるとするとこの後者の「短期間他の施設で研修ができる」点にあると思います(なのでこの点を充分に考えて専攻先は選んだ方が良いと思います)。

前者の他流試合に関してですが、新しく赴任した文化が違う病院で「前の病院はこうでした」の一点張りで信頼を獲得することは不可能です。「なぜそうした方が良いのか?」といった根拠を示す必要がありますし、自分が今までなんとなく当たり前にやってきたことの根拠を言語化して説明しないと認めてもらえません。これは今までの自分のプラクティスを見直すとても良い機会になります。「あれっ・・今までこうしてきたけど、実はこれって根拠がなくて変なのかな・・・?」と今まで疑問に思わなかった点を考え直すきっかけになります。

また新しい病院では今まで独学では決して学びえなかった新しい知識を得ることができるかもしれません。確かにインターネットにより「最新知識へのアクセス」というハードウェア面は改善していますが、「知りたいことしか知ろうとしない」という人間の怠惰な習性は変化していません(#ハッシュタグ文化だその代表ですが)。このため同じ環境にいるとある知識の枠組みから飛び出すことは難しく、多面的な知識が身につかない場合が往々にしてあります(これは自分の経験上もそうであり一部自省的に述べています)。

同じような考え方の医者で周囲を固めると確かに「楽」なのですが、成長の幅は激減します。そしてそのような他の組織との交流をあまりしようとしない風通しの悪い組織は必然的に劣化していきます。人は自分の経験からしかものを語ることができませんしこれはあくまで個人的な見解ですが、様々な医師と交流を重ねて風通し良く臨床経験を積んでいくことが臨床医の成長にとって重要なのではないかと思います。もしこれから専攻医になる先生などがいらして一意見として参考になりましたら幸いです。