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肩疼痛へのアプローチ

肩の疼痛は内科でもよく遭遇するproblemで基本的なアプローチを習得する必要があります。拙著「内科診療ことはじめ」に記載している内容とほぼ同じですが、改めてまとめます。

なぜ回旋筋腱板”rotator cuff”が重要なのか?

肩の疼痛は「純粋な肩関節(肩甲上腕関節)自体の問題ではない」ことが多く、実際には回旋筋腱板損傷の問題が多いです。回旋筋腱板は”rotator cuff”で学生自体解剖の授業で必死に構成する筋肉の名前を覚えたと思います。なぜ”rotator cuff”の負担が大きくなるのか?についてまず解説します。

股関節は体重を支えるため股関節部の臼蓋が大きいことが解剖学的な特徴です。四足歩行は前脚も体重を支えていますが、二足歩行になると肩関節が体重を支えなくなるため、臼蓋が股関節と比べて浅く小さいことが特徴です。

このためこのままでは上腕骨は肩甲骨からぽろっと落ちてしまうので、上腕骨を肩甲骨へ引き寄せる力が必要になります。この役割を担うのが”rotator cuff”です。二足歩行ではこのように常にrotator cuffが上腕骨を引き寄せるように頑張っている状態なので、経年的な負担が蓄積すると障害を来しやすくなります。

原因

ポイント
頸部の運動により増悪:神経根症(患側へ側屈または後屈で増悪), 筋筋膜性疼痛(健側へ側屈または回旋で増悪)
2・肩の運動により増悪(または可動域制限):肩関節または”rotator cuff”の問題

ポイント2
・頚椎症性神経根症による疼痛は僧帽筋周囲に認める場合が多い
・肩関節由来の疼痛は三角筋周囲に認める場合が多い

*頚椎症性神経根症に関してはこちらをご参照ください。

肩関節(肩甲上腕関節):炎症性(化膿性、関節リウマチ、結晶性)、変形性関節炎、凍結肩
回旋筋腱板:腱板断裂、肩峰下滑液包炎、石灰沈着性腱板炎、リウマチ性多発筋痛症
:上腕二頭筋腱炎
関連痛心筋梗塞、肝臓、胆嚢、横隔膜など
神経:頚椎症性神経根症、Pancoast腫瘍(腕神経叢の障害)
*Pancoast腫瘍は腕神経叢の下神経幹を障害し、小指~前腕尺側の感覚障害・しびれを呈する場合が多いです(腕神経叢についてはこちらを参照ください)
*内科疾患では心筋梗塞・Pancoast腫瘍を必ず除外する必要があります

診察方法

・関節診察の一般的なことですが、深い部位の関節は触診が難しいです。上肢では肩、下肢では股関節といった体幹部に近い大関節が問題となります。
・このためROM制限や疼痛を誘発する診察法で確認します。
・前述の通り回旋筋腱板の問題が多いため、回旋筋腱板の診察方法が特に重要です。いずれも直接回旋筋腱板を触診することは出来ないため、間接的に回旋筋腱板へ負荷を加えることで診察します。教科書を開くとこの点でたーくさんの診察方法が記載されており嫌になってしまうと思いますが、どの回旋筋腱板に負荷をかけているのか?という点からアプローチすれば分かりやすいと思います。また教科書に記載されている全ての診察を行う必要はありません。

1:肩関節のROM評価

・Apley scratch test(可動域スクリーニング):背側から対側の肩甲骨を触るようにする(上からと下からアプローチ)ことで肩関節のROMを評価する。

2:回旋筋腱板の評価

painful arc sign:肩関節を外転させ、60~120度で疼痛が誘発されれば陽性(0~60度では疼痛誘発なし)。まず自動運動を確認し、その後他動的に確認する。

棘上筋の評価(empty can test):患者の母指を地面に向けた状態(肩関節内旋)で肩関節を外転させ、検者は地面に押さえつけるように力を加える。空き缶の中のジュースを床に捨てる動作に似ているためこの名前がついています。

棘下筋の評価:患者の脇を締めた状態で、肘関節90度屈曲位で肩関節を外旋させる、検者はその動きに抵抗する方向(肩関節内旋)へ力を加える。

3:上腕二頭筋腱の評価

・上腕二頭筋長頭腱は上腕骨の大結節と小結節の間(結節間溝)を走行する。上腕を外旋位にすると触知しやすくなり、同部位の圧痛を確認する。

・Yeargason test:肘90度屈曲位で前腕を能動的に抵抗させることに対して抵抗を加え疼痛が誘発されれば陽性と判断する。上腕二頭筋が前腕回外作用を持つため。

疾患各論

腱板断裂

・前述の通り回旋筋腱板の負担が二足歩行の人では高いため、50歳以降の肩疼痛の原因として極めて多い。臨床的には夜間痛を呈する(患側を下にして寝ることが出来ない)場合が多く、軽微な外傷を契機に発症する場合がある。

・身体所見では後述の回旋筋腱板の診察方法で疼痛誘発を認め、肩関節自体には問題ないため他動的な可動域制限は認めない。

・レントゲンでは評価困難(専門的にはMRI検査で診断する)。

凍結肩(frozen shoulder) 別名:五十肩 肩関節周囲炎 癒着性滑液包炎

・病態は不明であるが、関節・滑液包・腱板の慢性的な炎症、線維化に伴う癒着が原因とされている。

・身体所見では全方向性・他動・自動いずれも可動域制限され、腱板断裂との鑑別点としては他動的なROM制限を認める点が特徴。

・診断は基本的に除外診断。

上腕二頭筋腱炎

・上腕二頭筋腱の烏口肩峰靭帯でのインピンジメント(反復運動・関節の過剰な運動による物理的な圧迫)により生じる。肩関節の酷使や不適切な動作(テニスのサーブ練習、ゴルフの長打練習など)が原因となる。

・身体所見では肩前面に限局した疼痛(上腕外旋位が触知しやすい)とYergasonテスト陽性(後述)。

参考文献
1) レジデントノート増刊号 生理学・解剖学「今こそ学び直す!」
2) 整形外科読影道場 医学書院 仲田和正
3) 臨床でよく出会う痛みの診療アトラス 出版社:医学書院