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初回の非誘発性発作(unprovoked seizure)へのアプローチ

簡単におさらいすると「てんかん(epilepsy)」は病名で、「発作(seizure)」は脳細胞の異常興奮に由来する症状(総称)です。発作の中に「痙攣(convulsion)」を呈するものも「非痙攣性(non-convulsive)」のものもあります。そしてこの発作が中毒や脳出血急性期などの誘因があるものを「急性症候性発作(acute symptomatic seizure)」と、誘因がない「非誘発性発作(unprovoked seizure)」の2つに分類する流れになります。言葉の違いに関しては別の記事があるためこちらをご参照ください。

今回は日常臨床で最も悩む「初回の非誘発性発作に対してどのようにアプローチするか?」という点について調べた内容をまとめていきます。primary careや救急領域でも重要なテーマです。

てんかん診断基準

1:24時間以上の間隔で2回以上の非誘発性発作(または反射性発作)
2:1回の非誘発性発作(または反射性発作)+その後10年間にわたる発作再発率が60%以上
3:てんかん症候群と診断 引用元:Epilepsia 2014;55:475

かつては非誘発性発作が「2回」あることがてんかん診断の必要条件でしたが、現在は「1回」の非誘発性発作でも再発のリスクが高い場合はてんかんの診断となることが特筆するべき点です。マネージメントから逆算した診断とも言うことができ、結局のところ「発作再発リスクが高い状態は2回目の発作を待つ前に抗てんかん薬を導入することで早期診断・治療介入をしよう」という意図が背景にあります。

これも文献によって大きく異なるところですが、初回の非誘発性発作後の再発リスクは発作後最初の1-2年で21-45%と高く、1年で32%, 5年で46%と報告されています。このように全てを均した(ならした)状態では通常60%というリスクに到達しないため初回発作だけでは「てんかん」の診断基準を満たしません。

そもそも本当に初回発作なのか?

実はここが最も重要な点です。患者さん・ご家族は「初回の全身性痙攣」と認識した上で「はい今までおなじようなことはないです。初回です。」と医療従事者に伝えます。救急搬送となるケースもそのほとんどが「GTCS: generalised tonic clonic seizure」です。
・ただ実は前にFAS(focal awareness seizure)やFIAS(focal impaired awareness seizure)を起こしている場合が多々あります。例えば「一過的に言葉数秒でないことがあった(失語発作)」や「ぼーっと1点をみつめて口をもごもごしていた」などの症状で、これらの症状を患者さん・家族も発作と認識していない場合が多々あります。
・このため私たち医療従事者はこれらFASやFIASの典型的な臨床像を熟知した上で、「こういった症状が過去にありませんでしたか?」と能動的に問診することが極めて重要です。受動的な問診ではこれらを拾い上げることは決してできません。
・以下を”Evaluation of First Seizure and Newly Diagnosed Epilepsy” CONTINUUM (MINNEAP MINN) 2022;28(2, EPILEPSY):230 – 260.より引用させていただきます。“It is the first convulsive seizure that typically brings the patient to medical attention. Many people presenting with a “ first seizure ” have a history of prior seizures, which may not have been recognized, and thus have epilepsy.”。とにかく病歴が何よりも重要です。

再発のリスク因子は何か?

上記の議論が済んだ上で本当に初回の非誘発性発作であった場合を考えます。ここで重要なのが「初回の非誘発性発作において再発のリスク因子は何か?」という点で以下が挙げられます。

1:過去の脳損傷 RR=2.55 (95% confidence interval [CI] 1.44–4.51) 1~5年
2:脳波てんかん性異常所見 RR=2.16 (95% CI 1.07–4.38) 1~5年
3:頭部画像検査での異常所見 HR=2.44 (95% CI 1.09–5.44) 1~4年
4:夜間発症 OR=2.1 (95% CI 1.0–4.3) 1~4年

*関係ない因子:年齢・性別・発作の家族歴・発作型・重積での発症・24時間以内に複数回の発作
引用元:Neurology ® 2015;84:1705–1713

ただ注意点としてこれらは複数の研究から導いたものであり、リスク因子がいくつあると発作再発は何%と推定できるscoringが存在する訳ではありません(そのようなスコアリングがあるとリスク評価上便利なのですが・・・)。

ERで実施するべき検査は何か?

1:全例実施するべき検査
採血検査:血算・血糖値・生化学(電解質含む)・Ca・Mg・CK・NH3(アンモニア)
+α:抗てんかん薬血中濃度(元々内服している場合)・血漿浸透圧(特に中毒疑う場合)
血液ガス検査:PaCO2, Lacなどを確認
頭部単純CT検査

2:以下は状況に応じて検討するべき検査
・尿中薬物スクリーニング検査:toxidromeから疑う場合に検討
・頭部MRI検査:後述の通り(外来の可能性も十分あり)
・髄液検査:後述の通り(必要ない場合も十分あり)

*参考:急性症候性発作の原因は以下です。

外来で行うべき検査は何か?

上記リスク因子から脳波検査頭部画像検査は初回の非誘発性発作で必須です。

頭部画像検査

発作の原因となりうる構造異常(structural abnormality)を検出することが頭部画像検査の目的です。
初回の非誘発性発作では頭部MRI検査まで基本的に全例必要(Epilepsia 1997;38(11):1255-1256.)です。
・神経所見が正常(患者さんにとってのbaseline)に戻っている場合はMRI検査は「外来」で予約しての頭部MRI検査でOKです(ERで緊急で撮像する必要はありません)。
(シークエンス例):FLAIR axial+海馬垂直のcoronal, DWI, T1WI, T2WI, T2*WIいずれも axial, MRA

・なぜ頭部MRI検査が必要なのか?:皮質形成異常や異所性灰白質などの構造異常や低分化型のgliomaなどはCT検査では検出できず、MRI検査でないと判読できません。また皮質形成異常などの読影がかなり専門的なので注意が必要です。

*実際に行うかどうかはまた別の議論ですが、より詳細な検査方法に関しては”HARNESS-MRI protocol”(3D-T1WI、3D-FLAIR、Coronal high resolution 2D-T2WI)が近年提唱されていることを尊敬する放射線科O先生より文献ご紹介いただきました。

脳波検査

・脳波検査をどのタイミングで行うか?というのも悩ましい点です。施設の脳波へのアクセシビリティやすぐに脳波検査が出来ない夜間帯の救急受診などではこの点は非常に難しいところです。原則としては容易に予測できると思いますが「発作直後の方が異常所見を検出しやすい」です(古い報告では24時間以内が最も良いとされています Lancet 1998;352(9133):1007-1011.)。ではどのくらい直後までなら許容されるのでしょうか?

■初回の非誘発性発作発症後時間と脳波上てんかん性活動検出の関係に関して Epilepsy & Behavior 111 (2020) 107315
・初回の非誘発性発作患者170人(成人>16歳症例・中央値50.7歳・女性40.6%)が救急脳波(ER滞在中)を実施したデータを後ろ向きに解析(”acute symptomatic seizure”やてんかんの既往, てんかん重積例などは除外している)。
・てんかん性活動は脳波上34.1%の症例で検出(非てんかん性の異常活動は46.5%, 正常所見は19.4%)。
・下図の通り発作後16時間以内が検出52.1%(16時間以降20.2% p<0.001)という結果。

→この研究の素晴らしい点は「元々てんかんと診断されていた患者はきちんと除外されており、初回の非誘発性発作に限定している」というpatientの選び方です。また救急脳波を行っているのでほとんどの症例で発作の直後に脳波を実施できている点がすごいところです(日本で可能な施設はなかなか少ないのでは・・・)。現実的には施設の脳波検査体制によるところが大きいと思いますが、なかなか16時間以内というのは同日か翌日すぐ脳波ということになるので難しい場合もあるかもしれませんね。

間欠期脳波検査の限界

・一般的にてんかん患者さんで間欠期脳波検査でてんかん性放電を検出できるのは12-50%と報告されています(J Clin Neurophysiol 2010;27(4):239-248.)。
・また正常人でも3%程度にてんかん性放電を認める場合があるとされており、脳波検査だけでてんかんと言える訳ではありません(この脳波過剰読影による「てんかん」誤診断はとても多いです)。
・このことからわかる通り「間欠期の脳波検査陰性≠てんかん除外」である点に注意が必要です。てんかんの診断基準に脳波検査に関して記載がないことからわかるように、脳波検査単独でてんかんの診断も除外も出来ません。必ず臨床的な病歴と一緒に解釈する必要があります。

初回の脳波検査で異常所見が指摘できない場合に脳波検査を繰り返すか?→調べ未

髄液検査

・髄液検査が初回から必要な場合は特に「脳炎・髄膜炎」を疑う場合に実施検討します。その他ではほぼ新しい情報を提供しません。
・具体的には「発熱を伴う場合」・「発作前に異常行動や精神症状を訴える場合」・「発作がなかなか頓挫せず治療抵抗性の場合」などです。これらの場合は初回発作であったとしても救急現場で髄液検査を行うべきです。

どうような場合初回でも抗てんかん薬を導入するか?

・現状は一律このような条件を満たしたら抗てんかん薬を導入するというような決まりや推奨は存在しません(「〇〇だったら抗てんかん薬を導入」というような決まりがあれば臨床医はラクなんですがそういったものはほとんどないですよね・・・・)。またこの疑問に答える前向き臨床研究は存在しません。結局抗てんかん薬によりメリットと副作用などのデメリットを考慮した個々の症例ごとの判断となります。

・現実的には上記再発リスクが高い患者さんは相談の上で抗てんかん薬を導入する場合もあります。これは患者さんの社会的背景なども総合的に加味する必要があります。

・また高齢者の場合は上記の検討では再発リスクとして記載がないですが、既報では再発リスクが高いことが知られており、初回の非誘発性発作であったとしても抗てんかん薬を導入することが現実的には多いです(「高齢発症てんかん」に関してはこちらにまとめがありますのでご参照ください)。

生活指導を忘れない

抗てんかん薬を導入するにせよ、しないにせよ生活指導は必須です。ついつい医者は抗てんかん薬の議論にばかり目がいってしまいがちですが、実際にはこれらの基本的な生活指導を忘れずに行うことが極めて重要です。なかなか忙しい外来でこれらを全て指導するのは大変なのですが忘れない様にしたいです。

1:誘因除去(生活+薬剤)

・特に誘因となる「飲酒を控える」ことと「不眠に注意・疲労を貯めないようにする」ことを集中的に指導します。
・また発作の誘因となる「薬剤」を中止することも極めて重要です。以下に注意が必要な薬剤のリストを掲載します。

*参考:発作誘因となる薬剤まとめ
・抗菌薬(ペニシリン系:特にペニシリンG (unsubstituted penicillinsと表現されています)、セファロスポリン系:全ての世代であり、特に第4世代セフェピム、カルバペネム系:イミペネム>メロペネム、フルオロキノロン系:特にシプロフロキサシン(腎機能障害、てんかん既往、テオフィリン投与中の患者において))、イソニアジド*NSAIDs併用禁忌 まとめこちらを参照
ベンゾジアゼピン系離脱・バクロフェン・バルビツール酸
・抗うつ薬(TCA>SSRI)
・抗精神病薬
・トラマドール・フェンタニル
・抗ヒスタミン薬(第1世代)
・アデノシン拮抗薬:テオフィリン・カフェイン
・中毒:コカイン・局所麻酔薬など
・抗腫瘍薬:メトトレキサートなど

2:家族への指導

・また再発は初回発作直後が多いことからわかるように、発作直後は出来るだけ家族が付き添える環境の指導や(これは現実的に難しい場合などもありますが・・・)、家族が何かあった場合にすぐに救急車を呼べる体制にしておくことが重要です。
・また「実際に本人に発作が起こってしまった場合に家族がどう対応するか?」の指導(二次的外傷を避けるために周囲の安全確保+体を横にする(嘔吐による誤嚥や窒息予防目的)+口に物や手を絶対に入れない)も重要です。

3:日常生活・仕事の制限

・日常生活ではシャワーは行って大丈夫ですが、発作後に湯舟に使った入浴1人での水泳は危険なので避けてもらうようにします。
・仕事でも例えば大工さんのような高所で仕事をする方やクレーンの操縦などに従事されている方は危険が伴うので必ず会社に相談してもらうよう相談します。夜勤シフトで睡眠リズムが乱れやすい職種の方は日勤帯に統一できないか?などを相談し必要あれば産業医にも診察いただくようにお願いします。

4:自動車運転

・社会生活における影響としてとても重要なのが「自動車運転」に関してです。この点も何も指導がないまま返されてしまっている場合がままあるかと思いますので要注意です。 日本てんかん学会「てんかんと運転に関する提言」最終案 では以下の様に記載があります(太字は筆者が付けたものであり原文にはありません)。

(4)てんかんではない発作、診断時点ではてんかんと確定できない発作について
(i) 誘発発作(急性症候性発作、状況関連性発作)は、その後 6 ヶ月間発作がなく、原因が
除去されている場合。ただし、医師の判断により 6 ヶ月未満でも、「発作が再発するおそれ
がきわめて少ないもの」とできる。
(ii) 初回の非誘発発作で、その後6ヶ月間発作がない場合

・このため初回の非誘発性発作は現状6か月間発作がないことを確認してからの運転再開が安全と現状は考えます。

*私は最近はこの 日本てんかん学会「てんかんと運転に関する提言」最終案 を印刷して(インターネット上からダウンロード可能です)該当部分に赤丸をつけて患者さんに渡してきちんと説明しています。運転の可否に関してはトラブルになりやすい点なので、この点はこちらにまとめがあるためもしよければご参照ください。

抗てんかん薬を導入しない場合も外来でフォローアップするべきなのか?

この点も決まりはありません。文献上も決まったプロトコルを推奨しているものはありませんでした。もしご存じの方いらっしゃりましたら是非ご教授いただきたいです。

フォローする場合は頭部MRIが経時的に変化することは通常ないので、「脳波所見をフォローしたい場合」になるかと思います。初回脳波が判断に悩む場合などはフォローを検討しても良いかもしれませんが、前述の通り時間が経過すればするほどてんかん性活動の検出は下がるので難しいです。

さいごに

あくまで個人的な印象ですが、初回の非誘発性発作に対して生活指導もほとんどされないまま帰されてしまっているケースが非常に多いと感じます。患者さんからすると発作は人生における一大事なので正しい医学情報を十分に提供する必要が医療者側にはあります。論文をいくつか読んでいて驚いたのはオーストラリアには初回発作の人が発作後2週間以内に受診する専用のクリニックというのがあるようです(!)。ここまで医療を細分化するべきか?というのはさておき、やはりきちんとした指導が入ることは患者さんの安心や社会生活、人生プランにおいてもとても重要なことなので、この分野はより教育がなされるべきではないかと感じています。もし参考になりましたら幸いです。

参考文献
・Neurology ® 2015;84:1705–1713 ”Evidence-based guideline: Management of an unprovoked first seizure in adults Report of the Guideline Development Subcommittee of the American Academy of Neurology and the American Epilepsy Society” AANとAESによるガイドラインで必読文献です
・Foster E, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2019;90:1039–1045. 初回の非誘発性発作に関するJNNPのreview、かなり細かいことまで書かれており勉強になります。
・Evaluation of First Seizure and Newly Diagnosed Epilepsy CONTINUUM (MINNEAP MINN) 2022;28(2, EPILEPSY):230 – 260.