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神経内科専門医試験について

今年度はCOVID19流行の影響もあり例年よりも遅れて2022年2月13日に神経内科専門医試験が実施されました。神経内科専門医試験は受験する人数も少ないこともあってなかなか情報が世に出回っていないですが、個人的にどのように勉強したかなどに関してまとめたいと思います(ここでは1次試験に限定した内容です)。あくまでも個人的な見解なのでご了承ください(詳細は日本神経学会のホームページをご確認お願い致します)。

実際の問題形式

必修問題 100問

出題者の先生方からは約80%の正答率を求められています。神経学会から発表されている講評をみると例年平均点は約70%前後のようです。「筋皮神経と同じ髄節支配の末梢神経はつぎのうちどれ?」「次の抗てんかん薬のうちNaチャネル遮断薬でないのはどれ?」といったような比較的シンプルな問題が多く、基本的に1択問題です。各分野万遍なく出題されるため、捨てる分野を作ることは得策ではないと個人的には思います。

一般・臨床問題 100問

2021年の専門医試験は一般問題と臨床問題が合わさって計100問の出題となりました(それまではそれぞれ100問ずつの出題でした)。この一般問題が全体を通じて最も難しいです。細かい知識を問う問題や極めて珍しい病気に関して問われることも多くあります。ときどき「これはさすがに誰も分からないのでは?」という問題も出題されます。例年平均点は約55%前後のようです。最初にこれらの問題を解くと難しさになかなか絶望します・・・(笑)。

臨床問題は国家試験の臨床問題と同じように症例が提示されて、それに関して問題が3つ程度付随する形式になっています。例年の平均点は約70%弱のようです。

おすすめの学習法・本

1:過去問

日本神経学会が出している唯一公式の過去問集です。この本は受験する全員が解いています(さすがにこれを全く解かずに受験する方はいないのではないかと思います)。全ての過去問が掲載されている訳ではなく、編集者の方々が選んだ良問が掲載されています。唯一の問題点は2013-2015年の過去問から抜粋されているため、やや内容が古くなっているという点です。ただ神経解剖や症候などの知識は今も昔も変わりませんし、出題の雰囲気がわかると思うのでまずこれから取り組むことをおすすめします(解説もかなりしっかりと書かれています)。

2:ガイドラインの内容をきちんと把握する

昔の神経内科専門医試験はとにかく問題が難しかった(正答が解答者によって大きく割れた)という噂をよく聞きますが、近年は日本神経学会からガイドラインも多数発刊されており、ガイドラインに沿った内容(記載がある内容)が多く出題されている印象があります(もちろん全く分からない問題も多少出題されますが・・・)。過去問を解くときにガイドラインと照らし合わせながら解くのが良いのではないかと思います。

3:神経学会の「専門医育成セミナー」を受講する

毎年4-5月に開催される日本神経学会総会では必ず若手神経内科医向けの「専門医育成セミナー」が開催されます。これはその年専門医試験を受験されるのであれば必ず受講した方が良いと思います。試験という枠組みにとらわれずとても素晴らしい内容で勉強になります。本セミナーの内容を踏まえたような出題も少しあるので受講しておいた方が良いと思います。

+α:本ホームページの「神経」関連の記事が参考になるかも・・・

ありがたいことに本ホームページの神経関連の記事を読んでいただき試験勉強いただいた方も多くいらっしゃるようです。元々本ホームページは試験勉強のために書いている訳ではないため、どこまで試験対策になるかは分かりませんが・・・参考になりましたら幸いです。

*以下は参考までにみんな持っている本を紹介させていただきます

色々な方の話を伺うと「神経内科ハンドブック」で専門医試験の勉強される方が多いようです。私はこちらの本を持っていないため自験談を語れず申し訳ないのですが過去問を解きながら辞書的に使用される場合が多いようです。参考までに紹介させていただきます。

いつから勉強するのか?

これは「どのような病院でどのくらい臨床に携わっていたか?」と「神経内科の外来をどのくらいやっていたか?」という点にかなり依存すると思います(特に外来経験が浅いと認知症・パーキンソン・頭痛はなかなか厳しい)。私は大学院や研究室などに所属せず臨床だけをずっとやっており、卒後3年目以降は大学病院に2年間・市中病院に3年間(うち1年間は総合診療内科+神経内科掛け持ち)という診療経験でした(神経専門病院の勤務歴はございません)。大学病院では変性疾患や免疫疾患が必然的に多く、市中病院では脳血管障害やてんかん、髄膜炎脳炎などが多くを占めていました。

変性疾患や神経筋病理、電気生理検査を集中的に学ぶ期間が短い先生にとって、この神経内科専門医試験はかなり勉強時間の確保が必要になると思います。やはり一度早めに(半年前ごろ)上記の過去問を解いてみることをおすすめします。そこで雰囲気をつかんでいただき、改めて一から勉強するのが望ましいと思います。

分野ごとの対策・本

神経解剖・神経症候

古(いにしえ)から変わることの無い知識として君臨しています。個人的には神経内科専門医試験を勉強する上でこの神経解剖と神経症候の知識をブラッシュアップすることが最も有意義な勉強と思います(最も力を注ぐべき分野と思います)。”drop foot”の鑑別方法を改めて整理する、”drop hand”で橈骨神経麻痺と脳梗塞の鑑別方法を整理する、円錐上部症候群と円錐症候群の違いを理解する、C8髄節障害と尺骨神経麻痺の鑑別を整理する、伝導失語はどの神経経路の障害なのか理解するなど日常臨床でよく利用する知識を改めて整理するのにとても良い機会と思います。

髄節やMMTなどの勉強する上で最もすごいのは園生先生のMMT教科書です。

私は神経症候に関しては基本的に岩田先生の本で勉強していました(神田先生の本で勉強されている方も多いようです)。

末梢神経・筋疾患

この分野は電気生理や病理との対応関係も問われますし、神経支配の解剖や症候との関係も深いところで十分な勉強時間が必要とされます。その他疾患ではギランバレー症候群、CIDP、POEMS症候群、アミロイドーシス、手根管症候群、糖尿病性ニューロパチーなどが代表的な疾患知識として問われます。

教科書では「末梢神経・筋疾患 診断トレーニング」という本が非常に素晴らしい内容でおすすめです。問題集という体裁ですが、とても内容が充実しており個人的には自分自身の臨床でこの内容を踏まえて役立ちました。試験勉強という枠にとらわれずに素晴らしい本だと思います。この問題集より難しい問題は神経内科専門医試験ではほとんど出題されないのでこれが解ければ基本的に大丈夫だと思います。

筋疾患に関して筋炎関連はおそらくどの病院でも出会うと思いますので勉強する機会も多いかと思います。ただ特に慢性経過の筋ジストロフィーや小児期からの筋疾患は神経専門病院や大学病院に集約されることが多いため、普段急性期病院主体の勤務ではあまり診療する機会に乏しいかもしれません。筋疾患に関しての教科書はのちに紹介させていただく筋病理の本と、臨床に関しては少し昔の発刊ですが「筋疾患ハンドブック」が良い本です。

頭痛

頭痛関連は扱うテーマが限られているので、一度しっかりと勉強すると点数を確保しやすい分野と個人的には思います。私は「頭痛の診療ガイドライン2021」を読んで一通り勉強しましたが(めちゃ分厚くてびっくりします・・・)、これでまず点を取れると思います。外来で片頭痛を診療する機会は非常に多いと思いますが、片側頭痛やTACsはそこまで遭遇頻度が高くないと思いますので一度ガイドラインできちんと勉強して知識を整理すると良いと思います。片頭痛は治療法のオプションが増えている”hot topic”で今年はCGRPに関しての問題は出題されませんでしたが、今後きっと出題されるのではないかと思います。

てんかん

「てんかんガイドライン2018」をきちんと読んでまず基本的な抗てんかん薬の適応・副作用などをきちんと把握することがまずは重要です。JMEや側頭葉てんかんなどの病型はよく出題されていますし、症候と部位の対応関係も重要です。脳波が出題されることもありますが、典型的な脳波が出題されることがほとんどで解釈に難渋するような問題は少ない印象です。てんかんは特に「妊娠」や「自動車運転」などの社会的な要素との関連も大きいので、日常臨床でてんかん診療をしていると調べていることも多いかもしれませんがきちんと確認することが重要です。

これは試験勉強から離れるかもしれませんが、より深く勉強したい方は「てんかん専門医ガイドブック」が素晴らしい内容なのでおすすめです。この本の最後に「てんかん専門医試験」の問題と解説が掲載されていますが、これらをとても簡単にしたものが神経内科専門医試験では出題されている印象があります。

多発性硬化症・NMOSD

これも日常臨床でどの程度MS患者さんのフォローをしているか?によって相当とっつきやすさが違うと思います。McDonald診断基準(2017)、各DMTの特徴・禁忌・事前確認事項、MRI画像の特徴、またPMLに関してなどの勉強が必要です。多発性硬化症はガイドラインがとてもよくまとまっており、一度通読すると良いかと思います。

重症筋無力症・LEMS

この分野は特に電気生理検査との対応で出題されることが多いです。RNSTに関しては一度復習をおすすめします(こちらの記事もご参照ください)。MGは近位筋の方がwaningの検出感度が高い点、RNST陽性≠MG(ALSなど末梢神経障害によっても起こる)、LEMSはJ-shapeにならずに持続的に下がる点と、強収縮後にCMAP ampが回復する点などが重要です。また血液浄化療法の問題もよく出題されており、IAPPはIgG4の効率が悪いためIgG4であるMuSK抗体陽性例では適応にならない点などが重要です(血漿交換に関してはこちらをご参照ください)。

髄膜炎・脳炎

この分野も必ず出題されます。結核性髄膜炎、真菌性、細菌性やウイルス性脳炎(特にヘルペス脳炎)が多いです。単純ヘルペス脳炎のガイドラインは2017年に刊行されており、一度目を通されることをおすすめします。抗ウイルス薬の使い方は神経内科医にも求められるテーマなので作用機序からおさえておくと良いと思います(抗ウイルス薬に関してはこちらもご参照ください)。

脳血管障害

こちらも脳卒中ガイドライン2021が発刊されているため、こちらの内容に沿って勉強していれば問題ないかと思います。普段脳血管障害診療の機会が多い方でも、改めて各DOACの注意点、薬剤の切り替え方法、抗血栓薬の作用起点、DAPTの適応、ICA狭窄へのアプローチ、EC-ICバイパス検討の基準となる脳血流SPECTなどに関して確認しておきたいです。CHADS2 score, HAS-BLED scoreの計算、今はあまり使用されなくなったABCD2 scoreの計算なども出題されるためこれらのスコアやrt-PAの禁忌事項などは「暗記」が必要です。

パーキンソン病

臨床問題での出題が多い印象があります。その中でMIBG心筋シンチの解釈やDATscanといった核医学の知識や、PSP, MSAなどとの鑑別点などが問われることが多いです。過去問では遺伝性パーキンソン病の知識も結構出題されており、個人的には経験に乏しく難渋しました。近年はデバイス治療も進歩していますが、私は恥ずかしながらDBSやLCIGの導入を今まであまり経験できていないためこれらの問題があまり解けませんでした。

脊髄小脳変性症

こちらもガイドラインの内容から基本的に出題されます。日本で多い病型はどれか?pure cerebellarはどれか?などの病型ごとの知識も問われるため確認しておいた方が良いです。MSAの声帯外転麻痺や”floppy epiglottis”に関してもよく問われます。痙性対麻痺に関しては病型などの細かい点に関しては過去にほとんど出題はありません。

運動ニューロン疾患関連

ALSの診断基準だけでなく、頚椎症性神経根症とALSの違い(髄節性・頸部筋力・舌萎縮など)に関する問題や”split hand”の問題、胃ろうや気管切開の管理といった点、在宅ケアに向けた点もよく出題されます。実際の臨床の流れに即した問題が多いです。

睡眠医学

RLSやRBDに関して睡眠医学領域からかならず1問は出題されます。個人的にはPSGの経験がないため苦手な分野ですが、RLSとRBDの基本的な点に関しておさえておけば(+ナルコレプシー)良いと思います。睡眠生理に関しては試験対策という訳では全くないですが、河合先生の本がとても読みやすく個人的にはとても勉強になりました。

認知症

外来診療の経験が少ない若手神経内科医にとって認知症は苦手としていることが多い分野と思います(私もそうです)。高次脳機能との関連が大きく、失語・視空間認知・失行・記憶障害などの診察方法・解剖の対応関係などを学ぶ必要があります。ここは社会制度やマクロ病理との対応関係も重要な点です。私自身はマクロ病理の経験が非常に乏しかったため、この分野は結構難渋しました。本番でも最も自信がなかった分野です。

これは試験対策ではないですが私はこちらの本で高次脳機能に関しては主に勉強させていただいておりました。カラフルでMRI画像との対応もありとても分かりやすく素晴らしい内容でした。

病理

筋病理は「臨床のための筋病理」一択なのではないかと思います(みんな持っています)。筋病理も大学病院や神経専門病院でないとなかなか系統的に学ぶ機会に乏しい分野かと思います。私も大学病院で勤務していたときは1年間では十分に習得しきれず、2年目のときにとりあえず「目を養う」ことを目的に出来るだけ病理カンファレンスに出来るだけ参加していました(それでもまだまだ不十分ですが・・・)。

末梢神経病理に関してはこちらの本「カラーアトラス末梢神経の病理」をみんな持っています。

マクロ病理は私がもっとも苦手な分野で恥ずかしながら正直ほぼ一夜漬けで試験に臨みました・・・。まわりでもマクロ病理が最も苦手としている先生が多い印象があります。私は東京都医学研・脳神経病理データベースさんのホームページで勉強させていただきました(こちら)。本は「神経病理インデックス」を持っていることが多いかと思います。病理の画像が分からないとそれ以外に頻度がなく全く解けない問題もあるため、病理分野を捨てることはおすすめしません。

神経眼科領域

HESSチャートの読み方、眼球運動、瞳孔、点眼試験の解釈を把握しておくと良いです(滑車神経麻痺を苦手としている神経内科医が多いかもしれません・眼科の先生は”Parks 3 step”を理解されているため神経内科医としても身に付けておきたいと個人的には思っています)。本ホームページは筆者の興味がある分野でもあり神経眼科領域の記事が比較的多いと思いますので勉強の一助になりましたら幸いです。

試験の枠にとらわらずより深く神経眼科領域を勉強されたい方は「神経眼科 臨床のために」が個人的にはおすすめです。

中毒

地味に毎年必ず数問は神経が関係する中毒関連の問題が出題されます。中枢神経で最も多いのは一酸化炭素中毒で、特に画像所見との対応が良く問われます。それ以外は末梢神経障害の中毒が多いです。今年の試験では抗がん薬の副作用としての末梢神経障害に関して問われる内容もありました。特別な対策用の本などはないかと思います。

電気生理検査

この分野は「日ごろ電気生理検査をどのくらい自分で行っているか?」に相当依存すると思います。私は大学病院時代に電気生理をしっかり行うプログラムで、現在も神経伝導検査と針筋電図はよく行っているので神経内科専門医試験の電気生理問題は基本的に難しくありませんでした。問題文から「技師さんに任せていないで自分で検査をやっているよね?」というのを確認する意図が伝わってくる問題も多いなと思います(写真で「この検査は何神経を調べている?」といった問題など)。基本的に問われる内容は神経伝導検査(repetitive nerve stimulation testを含む)と針筋電図に集約されており、SEPやVEP、MEP、表面筋電図などの問題は少ない印象があります(時々giant SEPの問題があったりしますが)。

試験勉強の枠にとらわれない話ですと電気生理の勉強において王道はやはり木村先生・幸原先生の教科書です。筋電図は前述した園生先生の本がとても勉強になります。

独断と偏見で自分なりに神経内科専門医試験に関して勉強することをまとめてみました。個人的には今回の神経内科専門医の勉強は自分自身の臨床においても改めてガイドラインの知識の整理や、神経症候や解剖の整理になりとても勉強になりました。試験勉強はつらいものですが少しでも実臨床に役立つ実りある学習になると良いなと思います。

本記事の内容はあくまで個人の見解なのできっと勉強方法は人それぞれと思いますので参考になりましたら幸いです。