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高齢発症てんかん Epilepsy in the elderly

「てんかん」というと患者さんの多くも「子供の病気」というイメージを持っておられる方が多いですが(ご高齢の方に「てんかん」の病名を告げると多くの場合びっくりされます)、高齢者の神経疾患は1位:脳血管障害、2位:認知症、そして3位:てんかんと高齢者で非常に多い特徴があります。下図の様にてんかん発症頻度は2峰性であり、小児期と高齢者に多く認めます。

原因疾患

脳血管障害(最多)>腫瘍>アルツハイマー型認知症が原因上位に挙げられます。脳血管障害後のてんかんに関してはこちらにまとめがありますのでご参照ください。

臨床上の特徴

高齢者のてんかん発作の臨床像で若年者と違う点は「発作型は部分発作がほとんど(若年者は全般性が多い)、全般性も二次性全般化がほとんど」、「側頭葉外に起源を持つものが多い」、「前兆に乏しい(めまいを呈することが多い)」、「自動症に乏しい場合が多い」、「発作間欠期の脳波所見で異常が出づらい」という点が挙げられます(最後は臨床像ではなく検査所見ですが)。

発作型は若年者は全般性が多いですが、高齢者はそのほとんどが部分発作であり、一見全般性のようにみえても部分発作の二次性全般化がほとんどであるとされています。病歴上片側の腕から始まり広がったというような病歴がとれるかが重要で、これは目撃者にclosed questionで問診する必要があります。

自動症は多くの場合てんかんを疑うヒントになりますが、高齢者では認めることが少なく、ただぼーっと1点をみつめているだけという場合が多いようです。

また高齢者は独居のことも多く、発作を目撃した人がいない場合が多い点もてんかんの診断をより難しくしています。

発作後のもうろう状態やTodd麻痺がどの程度持続するのか?というのもよく来るコンサルテーションです。tonic-clonic seizureの後意識が改善せず、脳波をとってもNCSEの重積状態ではなく発作後もうろう状態(post ictal state)と思われるがさすがに長過ぎないか?という相談はとても多いです。

post ictal confusional statehは高齢者では若年者と比べて長いことが知られており、高齢者では1-2週間持続することもあると記載されています(Epilepsy Research 68S (2006) S39–S48)。若年者が数十分程度であることとかなり対照的です。Todd麻痺は最大4日間、post ictal stateは最大7-8日間起こったという報告もあります(参考:Age Ageing 1982; 11: 29–34. 古い文献でAbstractしか確認できていませんが)。

「発作間欠期の脳波で異常所見を認めにくい」という点に関しては(60歳以上では間欠期のてんかん性活動の検出は26%と報告:Electroencephalogr Clin Neurophysiol 1998;106:369–73.)、長時間ビデオ脳波が可能な施設であればそれを行うなどの対応が必要です。

これらの点から高齢者のてんかん臨床像はかなり非典型的で診断が難しいことがわかります。おそらく”underdiagnosed”になっているため、閾値を低く疑うことと、通常の脳波でわからない場合は積極的に長時間脳波や脳波ビデオモニタリングなどを検討するべきと思います(実施可能な施設とそうでない場合がありますが)。

治療開始の基準

「初回の”unprovoked seizure”に対して抗てんかん薬を導入するべきか?」という一般的なテーマに関してはまだ答えがありません。ここでは「高齢者の初回”unprovoked seizure”に対して抗てんかん薬を導入するべきか?」というテーマを扱います。

日本のてんかんガイドライン2018年では「高齢者では初回発作後の再発率が高いので、初回発作後から治療開始を考慮する」と記載があり、高齢者の初回発作に関して積極的治療介入を検討する文言があります。

その他の高齢者てんかんのreviewでも“it may be appropriate and reasonable to start treatment as from the first seizure in elderly patients when considering the high risk of recurrence and possibility of a serious subsequent second attack”と記載があります(International Journal of Gerontology 6 (2012) 63e67)。

一般的な初回の”unprovoked seizure”の再発リスクとしては1:発作の原因となる脳損傷、2:画像所見での異常、3:脳波てんかん性異常波、4:夜間の発作が挙げられています(Neurology ® 2015;84:1705–1713)。ここには「高齢者」という項目は含まれていませんが、たしかに既報では高齢者で再発リスクが高いことが指摘されており、通常よりは閾値低く抗てんかん薬の導入を検討して良いかもしれません。しかし、「○○のリスクに該当すれば抗てんかん薬を導入する」というような明確なrecommendationは存在せず、結局個別での判断が求められます。

抗てんかん薬の選択

高齢者では「とにかく少ない量から抗てんかん薬を開始し漸増する」ことが原則です(添付文章の1/4-1/2程度の量)。また他の薬剤を内服している場合も多いため、相互作用副作用また認知機能への影響鎮静作用なども考慮しながら抗てんかん薬を選択します(高齢者は相互作用や副作用の影響で抗てんかん薬中断となってしまう場合が多い)。まず日本のガイドラインでの推奨をそのまま記載します。

*参考:日本のてんかんガイドライン2018での記載「高齢発症てんかんでの選択薬は何か?」より
合併症・併存疾患のない部分発作:CBZ, LTG, ZNS, LEV
合併症もしくは併存疾患がある部分発作:LTG, ZNS, LEV
全般発作:VPA, LEV, LTG, TPM

Lancetのreviewで紹介されていた各薬剤の認知機能や感情への影響、副作用・相互作用をまとめた図を掲載します。

以下が特に高齢者に限定して行われた抗てんかん薬を比較した臨床試験です。これらの研究の共通のメッセージは「カルバマゼピンとseizure freeの効果に差はないが、副作用がカルバマゼピンは多く脱落が多い」ということです。これらの点からのやはり高齢者の抗てんかん薬選択では「いかに副作用や相互作用が少なく継続して使用できるか?」という点が重要になってくると思います。
・CBZ vs LTG Epilepsy Res. 1999;37:81e87.
・GBP vs LTG vs CBZ Neurology. 2005;64:1868e1873.
・CBZ vs LTG Epilepsia. 2007;48:1292e1302.

これらの点から高齢者でカルバマゼピンやフェニトインを処方する機会はほぼないかと思います(ちなみにこれらの薬剤は長期使用による骨粗鬆症のリスクも指摘があります)。

高齢者てんかんに関して皆様もご意見ございましたら是非コメントでご教授いただけますと幸いです。

参考文献
・Lancet 2020; 395: 735–48 高齢者てんかんの素晴らしいreviewでほとんどの内容をこちらから引用させていただきました。
・International Journal of Gerontology 6 (2012) 63e67 こちらも少し古いですが高齢者てんかんの非常によくまとまったreviewです。勉強になります。