注目キーワード

アルコール性末梢神経障害 alcoholic neuropathy

病態・臨床像

問題点/疑問点:アルコール関連は常にビタミンB1欠乏を合併する場合がありうるため「ビタミンB1欠乏によるニューロパチーとは別の病態なのか?同じ病態なのか?」が問題となります。

■末梢神経病理によるアルコール性ニューロパチーとビタミンB1欠乏性ニューロパチーの違い検討(超重要文献) Ann Neurol 2003;54:19–29

1:アルコール性ニューロパチー(ビタミンB1欠乏なし)36例 *純粋なアルコール性ニューロパチー
臨床像:緩徐進行性の感覚主体の症状を呈した・表在感覚障害と疼痛が主体 かなり均一な臨床像
病理:small-fiber主体の軸索障害

2:アルコール性ニューロパチー(ビタミンB1欠乏あり)28例
臨床像・病理:混合

3:非アルコール性ビタミンB1欠乏性ニューロパチー32例
臨床像:様々であるが、運動主体で急速進行性で表在感覚・深部感覚ともに障害することが典型的
病理:large-fiber主体の軸索障害と広範囲の神経周膜下浮腫が特徴的

電気生理の検討は以下

→まとめ:「純粋な(ビタミンB1欠乏を伴わない)」アルコール性ニューロパチーはエタノールもしくはsmall-fiber主体の軸索障害という比較的均一な臨床像を呈するが、そこにビタミンB1欠乏がかぶると病態が修飾され臨床像の幅が広くなる(実臨床ではこのspectrumにある)

・臨床像のまとめ:緩徐進行性・感覚神経主体(特にsmall fiber障害による疼痛が主体)・軸索障害(axonopathy)・左右対称性length-dependentな障害(下肢遠位に障害が強い)

・アルコール性ニューロパチーのようにsmall-fiber主体の軸索障害により疼痛を主体とする病気としてFAP、Fabry病、DM、シェーグレン症候群などが挙げられるが(small fiber neuropathyに関してはこちらをご参照ください)、これらと違う点として自律神経症状(起立性低血圧や膀胱直腸障害)がアルコール性ニューロパチーでは目立たない点がある。

・病態機序:まだ解明されていない。可能性としてはエタノールの代謝物(特にアセトアルデヒド)による、軸索輸送や細胞骨格の障害がエタノール暴露によって直接生じることなどが関与していると考えられる。

*参考までに私は耳学問で「アルコール性ニューロパチーは”通常歩行可能”で、アキレス腱反射は消失するが”膝蓋腱反射の低下は伴わない”ことが多い」と学びました(文献的にまだconfirmは出来ていません)。

疫学

後述の通り診断基準が明確ではないためsolidな議論はできないが、慢性アルコール依存患者さんの46.3%にアルコール性ニューロパチーを認め、polyneuropathy全体の10%がアルコール性ニューロパチーと報告されている( Journal of Neurology (2019) 266:2907–2919 )。

検査

特異的なバイオマーカーは存在しない。

神経伝導検査:この点に関してもよりニューロパチーの中でアルコール性ニューロパチーとその他を鑑別する電気生理学的な特徴に関しては明確な提唱された報告はなし。

診断基準

私が調べた限りきちんとした診断基準はみつけられませんでした。もしご存じの方いらっしゃいましたら是非ご教授ください。

治療・予後

・特異的な治療法はなく、「断酒」「ビタミンB1補充」が検討。
・ビタミン補充に関してはいくつか研究があるが、前述の通り結局ビタミンB1欠乏が合併しているか?しないか?を厳密に区別して研究が組まれている訳ではないため「ビタミンB1欠乏がない純粋なアルコール性ニューロパチー」に対してビタミンB1補充にどの程度意味があるか?というclinical questionに対する答えは現状ない。
→現状私はビタミンを補充をしてしまっていますが、「何を目標にどの期間投与するか?」という点が明確にならないため結果だらだらと継続してしまうことが多いです・・・。何か良い指標があると良いのですが・・・。

・研究に乏しいため(また禁酒をきちんと守られていない場合も多いため)、natural courseを提示することは難しい。J Neurol Neurosurg Psychiatry 1984; 47:699–703.

参考文献
・Curr Opin Neurol 2006; 19:481–486. 名古屋大学小池先生による素晴らしい総説で必読です
・Ann Neurol 2003;54:19–29 こちらも小池先生の病理を比較した論文ですごすぎます
・Journal of Neurology (2019) 266:2907–2919 アルコール性ニューロパチーに関してのsystematic review and meta-analysis