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帯状疱疹ウイルス感染症と中枢神経合併症

帯状疱疹ウイルスは神経合併症を多く引き起こすため注意が必要な感染症で、コンサルトもよくあるテーマです。取り急ぎの記事のためまだ記載途中の部分もありますが徐々に足していきますのでご容赦ください。

臨床像

VZVの再活性化はもちろん免疫不全で問題となりますが、加齢による生理的な免疫低下によっても起こるため注意が必要です。以下全てに共通ですが「VZV中枢神経感染では必ずしも皮疹を合併しない」という点に臨床上は注意です。上記2点より閾値を低く髄液VZV-DNA PCRを提出するべきです(筆者は髄膜炎や脳炎を疑う場合は全例提出しています)。

髄膜炎/脳炎

小児期
・小児の場合は水痘ウイルス初感染での小脳炎が多いとされています。
・合併頻度:0.5-1.5/1000(帯状疱疹ウイルスによる小脳炎症はほとんどなし)
・基本的には予後良好(死亡例の報告もあるが)

成人期
・ウイルス性脳炎の中で原因としてHSVに次いで頻度が高いと報告されています(suspected viral encephalitisの髄液検査で4.4~11%陽性)
・VZV脳炎に特異的な症状というものは指摘されておりません。

■中枢神経感染症に関しての予後まとめ・後ろ向き研究 European Journal of Clinical Microbiology & Infectious Diseases (2021) 40:2437–2442

・2000-2015年の単施設VZV髄膜炎・脳炎症例36例の後ろ向き解析 内訳:髄膜炎21例・脳炎15例
・年齢51歳・17%は免疫抑制例
・予後:死亡例なし・33%(12例)は神経学的後遺症あり
・予後不良因子:年齢だけが独立した予後不良因子

脊髄炎

調べ中

VZV血管障害

VZVは脳血管障害を合併しやすいことが有名で代表的なのが”VZV vasculopathy”です。

■VZV vasculopathyまとめ(”VZV vasculopathy”に関して最も代表的な論文) Neurology ® 2008;70:853–860

・30例まとめ rash 63%(19例) 髄液細胞数上昇67%(20例) 画像異常所見97%(29例)
・障害される血管サイズ:large/small 50%, small 37%, large 13%
・皮疹からどのくらい経過してから神経障害おこるか? 4.1か月
・検査:髄液 DNA 30%(9例), IgG 93%(28例)
<ざっくりまとめ>
皮疹から数週間や月単位後に出現する場合が多い
皮疹を伴わない場合がある
髄液細胞数上昇を伴わない場合もあり・VZV-DNA検出は稀

剖検例では実際に動脈血管壁にCowdry Aの封入体(+周囲の炎症細胞浸潤)を認めており血管壁にVZVが直接感染する機序が推定されています(下図 DはVZV抗原の免疫染色)。元文献:(A,B)Stroke 1986;17:1024–1028, (C)Consultant 2005;45:S13–19, (D)J Neurovirol 2002;8:75–79.

どのぶいの帯状疱疹が中枢神経感染症合併症を起こしやすいか?

■三叉神経V1領域帯状疱疹と中枢神経合併症 Acta Ophthalmol. 2008: 86: 806–809

・三叉神経第1枝領域の帯状疱疹での合併についてデンマーク後ろ向き研究1999-2005年のデータ
・110例免疫正常例 5.5%(6例)で中枢神経神経合併症あり
・内訳:単独脳神経麻痺4例、髄膜炎1例、脳炎1例 *post-herpetic neuralgiaは除外している *3例は遅れて(3~6週間後)合併症をきたしている

検査

帯状疱疹ウイルスに関して最もややこしいのは「髄膜刺激徴候や神経所見を全く伴わない症例でも髄液中の細胞数増多やDNA検出を認める場合がある」という点です。つまりまったく神経所見を伴っていなくともsubclnicalに神経根から髄膜や中枢神経へ炎症が及んでいる可能性があるということです。普段は「細胞数上昇→髄膜炎」という思考回路が成立する場合が多いですが(もちろん必要十分条件ではないですが)、帯状疱疹ウイルスの場合は検査だけで診断できない点がやっかいです。

■重要文献:神経所見を伴わない帯状疱疹髄液所見の検討 NEUROLOGY  1998;51:1405-1411

・50例の帯状疱疹・免疫正常例(男性28例・女性22例、年齢59歳)*髄膜刺激徴候・脳炎・脊髄炎の徴候全例なしを前向きに検討
・部位:脳神経14(内訳11眼/1上顎/2下顎), 頚髄7、胸髄22、腰髄7例
・84%:疼痛+皮疹 12%:運動障害 6%:眼症状
・46例は髄液検査、16例はMRI検査を実施
<結果>
・なんらかの髄液異常所見 28/46例 61%
・細胞数上昇5-1440/μL 21/46例 46% *4週以上持続6/14例 43%
・蛋白上昇12/46例 26% 580-1250mg/dL *4週以上持続2/14例 14%
・DNA陽性例10/46例 24%
・IgG抗体10/46例 23% OCB+ 4/43例 9%
・IgG index上昇 1/41例 2%
・MRI異常所見 9/16例:56%
<ざっくりまとめ>
なんらかの髄液異常は約60%、細胞数上昇は約45%、DNA陽性は約25%に認める結果

治療

・単純ヘルペス脳炎と異なり残念ながら現状は帯状疱疹ウイルスでの中枢神経感染症に対しての抗ウイルス薬の前向き試験は存在しません。このためエビデンスレベルは下がりますがガイドラインでの推奨を紹介します。

■IDSAの脳炎ガイドライン ”The Management of Encephalitis: Clinical Practice Guidelines by the Infectious Diseases Society of America”  Clinical Infectious Diseases 2008;47:303–27

・抗ウイルス薬:ACV 10-15mg/kg q8hr 点滴静注 10~14日間治療 *前向き臨床研究なし
・ステロイド:使用を支持するデータはなし
*上記は脳炎のガイドラインで髄膜炎単独での抗ウイルス薬使用に関してのガイドラインでの推奨は存在しません。

参考文献
Nature Clinical Practice.Neurology. 2007;3(2):82-94.