この領域がややこしい理由は臨床病型と病理分類が1対1対応になっていない点にあります(これは仕方のないことなのですが)。このため似たような名前が違う意味で使われている点に十分注意する必要があります。FTD(前頭側頭型認知症)は臨床診断名であり、FTLD(前頭側頭葉変性症)は病理診断名です。病理は更にTDP43, tau, FUSを背景病理に持つことにより大きく3つに分類され、さらにこれと関連する遺伝子があります。とってもややこしいですがまとめたいと思います。
臨床病型の分類: FTD(frontotemporal dementia:前頭側頭型認知症)
FTD(frontotemporal dementia:前頭側頭型認知症):認知症の症候群(臨床診断名)
・bvFTD(behavioral variant frontotemporal dementia):行動障害型前頭側頭型認知症 *指定難病
・SD(semantic dementia):意味性認知症 *指定難病
・PNFA(progressive non-fluent aphasia):進行性非流暢性失語症
*LPA(logopenic aphasia:語減少型失語)は背景にアルツハイマー型病理を有する場合が多く責任病巣も後方なのでFTDの臨床病型には分類されない
bvFTD(behavioral variant frontotemporal dementia):行動障害型前頭側頭型認知症
・脱抑制:社会的なマナー、礼儀の欠落、反社会的行動、悪意なし
・無関心、無気力:興味があることには熱心(その他は無関心)、身だしなみを気にしなくなる
・共感や感情移入の欠如(going my way):喜怒哀楽減る・妻が病気で寝ていても平気でパチンコに行く
・固執、常同性:何キロも同じコースを毎日歩く・散歩の途中で万引き・同じもの
・改訂版セルフモニタリング尺度(Revised Self-Monitoring Scale):行動異常の検出、進行の評価
意味性認知症 SD: semantic dementia
・病理:TDP43(特にType-Cと関連することが多い)
・双方向性呼称障害(two-way anomia):語頭音ヒントを与えても正答できない (例)「(検者)え・・・?」「(患者)え・・・・?」
・表層失読:そのまま音読みしてしまう (例):「八百屋」→「はっぴゃくや」
・ことわざの補完現象の消失:「犬も歩けば棒に?」と尋ねても続かない
・語義失語:音韻は正確に受容されるが、意味に結びつかず「・・・て何ですか?」と質問を繰り返す
(例)「(検者)鉛筆を持ってください」→「(患者)鉛筆ってなんですか?」
*記憶障害全般に関してはこちらをご参照ください。
PNFA(progressive non-fluent aphasia):進行性非流暢性失語症
失語の記事(こちら)をご参照ください。
病理分類: FTLD(frontotemporal lobar degeneration:前頭側頭葉変性症)
FTLD(frontotemporal lobar degeneration:前頭側頭葉変性症):病理診断名
1: FTLD-tau 遺伝子変異: MAPT
2: FTLD-TDP(TDP43-proteinopathy) 遺伝子:GRN, C9orf72, VCP, TARDBP
3: FTLD-FUS 遺伝子変異: FUS
病理・臨床病型・遺伝子の対応関係
下図は Lancet Neurol 2015; 14: 114–24 より引用。
下図はFront Psychiatry 2019;10:75より引用です。
BRAIN 2017: 140; 3329–3345
前頭葉機能の評価
・MMSEは前頭葉機能の評価を苦手としています。
・FABなど含めてこちらにまとめがありますのでご参照ください。
治療
・DMTsは存在しません。日本のガイドラインにはSSRIに関する記載がありますが(適応外で推奨2C)、十分な検討はまだされておらず、SSRIはうつ病でも認めるように躁症状でむしろより不安定にさせてしまう場合があるため私は使用しておりません。
・コリンエステラーゼ阻害薬はむしろ症状を悪化させる場合があるため注意が必要です
参考文献
・脳神経内科診断ハンドブック 中外医学社