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てんかん重積とMRI所見の対応

今までてんかん重積(periictalとpostictalを含みます)と頭部MRI画像検査の対応関係に関しては耳学問のみできちんと調べられていなかったため勉強した内容をまとめます。ここではてんかんの原因となるMRI画像所見(例えば異所性灰白質など)に関しては扱いませんのでご容赦ください。まず先に結論である「ポイント・まとめ」を提示します。

ポイント・まとめ

大脳皮質、視床枕、海馬などがてんかん重積での頭部MRI検査でDWI高信号(ADC低下)を呈する好発部位である(その他は脳梁膨大部やcrossed cerebellar diaschisisによる小脳も)。またT2WI高信号、軽度腫大を認める。BBB破綻により髄膜にGd造影増強効果を認める場合もある。

・これら頭部MRI検査でのDWI高信号部位はてんかんの結果(障害を受けやすい部位)をみているだけに過ぎず、てんかん起源部位(=原因)の同定には必ずしも役立たないと考えられる(やっぱり脳波検査が重要)。
*参考 てんかん重積で障害を受けやすい部位(興奮毒性により障害されやすい部位):海馬(CA1, CA3)・偏桃体・臭内野・小脳皮質・視床(特に視床枕)・大脳皮質 引用元: Diagnostic imaging: Brain 3rd edition

・同部位はperfusion画像では過灌流である(MRA検査でもhypervascularityを認め、ASLも診断に有用である)。

・これの画像変化は通常可逆的(数日~数週単位)である。

・なぜ画像変化を呈する患者と呈さない患者がいるかどうかは分からない(発作持続時間が長時間になると信号変化を呈しやすい傾向は既報で指摘されている)

視床枕は他の疾患であまり障害されない部位であるが(鑑別は後述)、皮質との相互性の繊維連絡 “pulvino-cortical pathways” を持っておりこれがてんかん重積により活性化することで病変を呈すると考えられる。

*参考:自験例

画像所見の鑑別

ポイント:動脈血管支配に一致した分布か?+画像の経時的フォローアップで所見が変化するか?

脳血管障害動脈血管支配と一致した分布かどうか?が鑑別上最も重要なポイント。
単純ヘルペス脳炎こちらにまとめがあるのでご参照ください。
MELAS:乳酸アシドーシスやその他の所見・血管支配に一致しない・MRSでのlactate peakなどが重要なポイントです。
・皮質性脳炎:特に抗MOG抗体関連疾患の皮質性脳炎
・膠芽腫(GM: glioblastoma multiforme)

参考:神経内科疾患の画像診断 第2版 著:柳下章先生

視床枕病変”pulvinar sign”の鑑別

・「視床枕(ししょうちん)」は視床の背側に位置する普段はあまり日の目を浴びない解剖構造ですが、同部位に病変を認める場合は鑑別をある程度絞ることができるため有用な所見となります。

1:視床枕「単独」の病変を呈することがある疾患
てんかん重積:上記の通り
CJDこちらを参照
Fabry病:T1高信号を呈することが有名です(こちらを参照)
Wernicke脳症:その他乳頭体や中脳水道に病変を伴う場合もありますが、pulvinar病変だけの報告もあります

2:その他(視床枕以外)の病変を伴う疾患
・脳血管障害:私が調べた限りで「視床枕に限局した脳梗塞」の症例報告は見つけられませんでした(視床枕+別の部位の梗塞の報告はあります 例:Neurology . 2016 Aug 23;87(8):e82. 下図)。視床枕は前脈絡叢動脈と後大脳動脈からの二重支配を受けているため虚血に強いとされています。Percheron梗塞(こちらを参照)や脳静脈洞血栓症(こちらを参照)で同部位の梗塞を認める場合があります。
・自己免疫性脳炎:これも他の線条体などを含む病変で、視床枕単独の病変による脳炎の報告は見つけられませんでした
・ADEM:これも通常視床枕に限局するというよりも、視床のその他部位を含むことが多いです
・腫瘍:同上

*上記の1、2の分類は管理人の調べによるものです(文献に記載がある訳ではありません)。
*両側視床病変に関してのまとめはこちらをご参照ください。

参考:Expert DDx: Brain and Spine 2nd Edition

文献の紹介

まず自分のノートみたいになってしまい恐縮ですが、色々読んだ文献をまとめます。

■てんかん重積と画像所見のreview Andrew J. Cole先生 Epilepsia, 45(Suppl. 4):72–77, 2004

・DWI高信号を呈し、ADC map低下を占めることから「細胞性浮腫」>血管性浮腫が病態と推定されるが、画像フォローの結果からこれらは可逆性であることが示されている
・同部位は過灌流である(perfusion MRI, PETなど)
・DWI高信号部位はてんかんの原因ではなくあくまで結果を見ているに過ぎないと考えられる
てんかん発作の起源の推定には役立たないと思われると考察
・なぜ信号変化が起こる患者と起こらない患者がいるのか?が不明

■複雑部分発作の画像所見10例を解析 Kristina Szabo先生 Brain (2005), 128, 1369–1376

原因が様々なのにもかかわらず画像所見はどれも似通っている(海馬または視床枕または皮質)
脳波所見では明らかにてんかんのfocusとなっていない部位(皮質)にもDWI高信号を認める
→上記よりMRI画像所見からてんかん発作の起源を同定することは困難である

*Epilepsia, 49(8):1465–1469, 2008では実際にてんかんのfocusとMRI所見が解剖的に離れた位置にある症例を提示し、ただ単に側頭頭頂葉や視床枕がてんかんの活動にsensitiveなために画像変化を伴い、てんかんの起源同定には役立たないと上記文献を引用しながら考察している。

*実例としてAnn Neurol. 2021 Jan;89(1):190-191.より発作とフォロー後のDWIとperfusionの画像変化(視床枕)を提示します。

■DWI信号変化の皮質、視床枕の分布と関係 J Neurol (2016) 263:127–132(日本からの報告)

てんかん重積106例の頭部MRI画像検査
・患者背景:てんかん重積の持続時間≦120分: 71.7%, >120分: 28.3%
・発作の分類 全般性発作: 4.7%, 部分発作: 95.3%
・Todd麻痺合併: 42.5% 発作の既往: 31.1% 元々抗てんかん薬の内服: 17.0%

結果
・DWI高信号の分布:cortex: 24.5%, cortex + pulvinar: 17.9%, 高信号なし: 57.5%
・病変分布(全体):前頭葉 2.8%, 側頭葉 31.1%, 後頭葉 32.1%, 頭頂葉 25.5%
*pulvinar病変を含むもの:前頭葉 0%, 側頭葉 89.5%, 後頭葉 84.2%, 頭頂葉 52.6%
*cortex病変のみ:前頭葉 11.5%, 側頭葉 61.5%, 後頭葉 69.2%, 頭頂葉 65.4%
・原因:陳旧性脳梗塞 21.7%, 陳旧性脳出血 17.9%, 特発性 15.1%, アルツハイマー型認知症 13.2%, 急性期脳梗塞 6.6%, 急性期脳出血 4.7%, 外傷 4.7%

考察
・*既報(97例の報告)DWI高信号の分布:cortex: 61.9%, cortex + pulvinar: 34.0%, pulvinar: 4.1%
・視床枕:大脳皮質と相互の繊維連絡”pulvino-cortical pathways”を持つことが関係しているのではないか?
・特に「側頭葉」は視床枕と関係が深いことが知られており(Cereb Cortex 2009; 19: 1462–1473)、今回も視床枕病変を有する患者で有意に側頭葉病変が多かったことと対応しているかもしれない

*管理人メモ
・自験例も脳波所見でのfocusとDWI高信号部位がやや解離している症例の経験があり