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両側視床病変 bilateral thalamic lesions

今回は画像の話です。両側視床に病変を認める場合ケースは往々にして遭遇します。ここでは鑑別疾患をまとめさせていただきます。

通常脳の左右対称の疾患では代謝性・中毒を考慮しますが、視床に関しては血管障害・腫瘍も両側性を呈する場合があるため鑑別が多岐にわたり、画像所見のみから鑑別をすすめるのは難しいです。このため実臨床では臨床情報からの鑑別も非常に重要です。

鑑別まとめ

腫瘍 glioma(PBTG:primary bilateral thalamic glioma),CNS lymphoma
血管障害:両側視床梗塞(basilar top syndrome)、脳静脈血栓症
代謝:Wernicke脳症、Fabry病、Wilson病、ミトコンドリア病(Leigh病)、ODS(Osmotic demyelination syndrome)、低血糖、低酸素 rare:GM2 gangliosidosis、Krabbe病
感染:ウイルス性脳炎(特にフラビウイルス関連:日本脳炎、ダニ媒介性脳炎)、CJD(pulvinar sign, hockey stick sign, 造影効果は伴わない)
自己免疫性:抗Ma2関連脳炎、Neuro-Behcet、ADEM
その他:Fahr病, PRES

以下に具体的な画像例を掲載します。

■腫瘍 glioma

均一なT2WI高信号を認め、ADC低下は認めず、造影効果は認めない場合が多いとされています。

■PCNSL

■両側視床梗塞

両側視床は「Percheron動脈」という穿通枝により還流される場合があり、この血管に閉塞をきたすと穿通枝梗塞にもかかわらず両側視床梗塞(±中脳梗塞)をきたします(全脳梗塞の0.1-0.3%程度とされており非常にまれではあります)。両側視床梗塞は臨床的には意識障害、垂直性眼球運動障害、記憶障害をきたすとされています。解剖に関しては下図をご参照ください。

Percheron動脈梗塞を37例まとめた報告(これが既報では最大規模:AJNR 2010;31:1283–89)によると、梗塞範囲は以下の4パターンに分類されます。また梗塞巣をすべて重ねると下図のようになります。視床病変が左右対称が32%、左右非対称が68%と報告されており、中脳病変合併が57%、中脳病変非合併が43%と報告されています。
1:両側視床内側+中脳 43%(最多)
2:両側視床内側(中脳病変なし) 38%
3:両側視床内側+視床前部+中脳 14%
4:両側視床内側+視床前部(中脳病変なし) 5%

以下に具体例を掲載します。最も典型的なのが両側視床+中脳梗塞です(上記pattern1に該当)。中脳の脚間窩に沿って信号変化を認め、V字型の信号変化から“V sign”と名称がついています。

中脳病変を伴わない場合(上記のpattern 2に該当)

また脳底動脈の先端部の塞栓性機序による閉塞を“Top of the basilar” syndromeと表現し、これによっても両側視床梗塞をきたします。Percheron動脈梗塞との鑑別点としては”top of the basilar” syndromeではその他PCAやSCA還流領域にも梗塞を認める点が挙げられます。

■脳静脈血栓症

■Wernicke脳症

両側視床内側部乳頭体などを中心に信号変化を認めます。

■ODS: osmotic demyelination syndrome

視床の外側膝状体よりに病変を認める場合があります。同じ代謝性脳症のWernicke脳症が視床の内側に病変を認めるのに比べて対照的です。ODSに関してはこちらにまとめがありますのでご参照いただけますと幸いです。

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■低酸素脳症

■Fabry病

視床枕T1WI高信号を認めることが特徴的です。

■Fahr病

■Wilson病

■Leigh病

小児のミトコンドリア病で両側視床病変を呈します。MRSが鑑別に有用な場合があります。

■日本脳炎

フラビウイルス関連の脳炎(特に日本脳炎とダニ媒介性脳炎)は「脳炎+両側視床病変」で真っ先に考えるべき鑑別疾患です。感染性脳炎の代表格はヘルペス脳炎ですが、ヘルペス脳炎と日本脳炎の両者を臨床情報のみから鑑別することは極めて難しいため、画像上の病変分布に違いはないかどうかを検討した文献(Journal of the Neurological Sciences 287 (2009) 221–226)では、日本脳炎38例とヘルペス脳炎7例を比較し、病変分布は下記の通りとなっています。
・ヘルペス脳炎:temporal lobe (100%) , frontal cortex (85.7%).,Basal ganglia 42.9% 
・日本脳炎:thalamus (94.7%), mid brain (86.8%) and basal ganglia (63.3%), medialtemporal lobe (49.8%).
→このようにやはり視床病変は日本脳炎に非常に特徴的で注目するべきと思います。また脳幹部病変も伴うことが多いことも特徴です。

また以下の様に経時的に画像をフォローすると当初は左右非対称な病変が反対側に出てくることも指摘されています。

■ダニ媒介性脳炎 以下の画像はJ Neurol Neurosurg Psychiatry 2005;76:135より引用

■CJD

variant CJDで視床枕にT2WI高信号を認めること“pulvinar sign”や視床枕と視床の背内側にT2WI信号変化を認めること“hockey stick sign”が有名です。

■抗Ma2関連脳炎

自己免疫性脳炎の中で両側視床病変を伴う場合は本疾患を考慮します。この脳炎は精巣腫瘍と関連することが多く、臨床病型としては辺縁系脳炎・脳幹脳炎・間脳-視床下部脳炎(高体温と過眠などを呈する)があります(以下の画像はBrain 2004; 127: 1831より引用)。

■PRES

PRESの分布として視床は多い訳ではないですが、視床や脳幹を中心に分布する場合もあり注意が必要です。PRESに関してはこちらにまとめがありますのでご参照いただければと思います。

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参考文献

・AJR 2009; 192:W53–W62:画像はほとんどこの論文から引用させていただきました。

・Journal of Medical Imaging and Radiation Oncology 61 (2017) 353–360:両側視床病変のreview。

・RadioGraphics 2011; 31:5–30:こちらは両側視床+基底核病変の素晴らしいreviewです。