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POTS: postural tachycardia syndrome

立位不応(orthostatic intolerance:立っていると具合が悪くなる)の鑑別として重要なのがPOTSです。立位に対する異常な心拍数の増加と、起立性低血圧と異なり収縮委血圧は低下しないという特徴を有する症候群です(立位に対する正常の反応はHRが10-30/分上昇し、収縮期血圧は変化なく(保たれ)、拡張期血圧は-5mmHg上昇とされています)。

定義/機序

■定義
・立位(tiltもしくは起立)10分以内に有症状の心拍数30/分以上の増加(血圧低下を伴わない)
*12-19歳の場合は心拍数増加の基準が最低40/分以上の増加が必要 参考:通常心拍数>120/分
・立位での収縮期血圧低下<20mmHg
・立位で増悪する臨床症状とそれらが臥位で改善する
・6か月以上の慢性経過
・その他起立性頻脈になりやすい薬剤や疾患を除外

■機序:単一の機序によるものだけではなく、複数の機序が関与している可能性も想定される。
・neuropathic POTS:下肢の交感神経障害(末梢神経障害)による血管収縮の障害(長さ依存性に下肢の自律神経が先に障害されることによって、下肢に血液が貯留する)
・hyperadrenergic POTS:心臓の交感神経過剰反応(発汗過多、振戦、不安など)
・体液量調節不能:hypovolemia(レニン、アルドステロン濃度が正常よりも低い状態)
・自己免疫機序

臨床像

・疫学:15-50歳、女性(男女比:1:5) *なぜ女性に圧倒的に多いのか?に関しては結論が出ていない。
・失神することは比較的まれとされていますが、presyncopeはしばしば認めるとされます。
・午前中に症状が増悪する場合が多い。
起立に伴う症状:動悸、めまい、胸部不快感、呼吸困難、頭痛、嘔気、脱力感、視野の変化など
*かなり様々な症状なので、一見不定愁訴と勘違いしてしまう場合があるため注意が必要です。
*意外と立位不応(orthostatic intolerance)は「立位不応」というキーワードを病歴から読み解かないとただの不定愁訴として扱ってしまう場合もあるため注意が必要です(ときどき患者さんは立位に限局しているという症状を自覚していない場合がある)。
起立と直接関係のない随伴症状
 ・関節可動域の拡大:(結合組織疾患が背景:Ehlers-Danlos syndromeが最も多い)
 ・起立と関係のない症状:慢性疲労症候群、睡眠障害、片頭痛、線維筋痛症、機能性の腸管障害
 ・運動耐容能の低下

*立位不応(orthostatic intolerance)の鑑別(私案)
・低髄圧症
・起立性低血圧
・POTS
・PPPD
・副腎不全
検査:造影MRI・ホルター心電図・Tilt検査(もしくはScholleng試験)・心エコー検査

■Mayo clinicでのPOTS症例の検討 Mayo Clin Proc 2007;82:308

・152例、女性86.8%、年齢30.2±10.3歳、平均罹病期間4.1年
・起立での心拍数上昇平均44/分
・内臓の自律神経障害:約半数で認める(TST, QSARTで検査)
・発症様式:亜急性経過13.8%、insidious5.9%、急性12.5%
・臨床症状:ふらふら77.6%、前失神60.5%、脱力50.0% 動悸75.0%、震え37.5%、息切れ27.6%、胸痛24.3% 発汗低下5.3%、発汗過多9.2% 疲労48%、睡眠障害31.6%、片頭痛27.6%、筋痛15.8%
・増悪因子:運動もしくは熱 53.3%、食後 23.7%、月経関連 14.5%
・各種検査:抗gAChR抗体:14.3%陽性、Hyperadrenergic status:29%(NE立位>600pg/mL)、低用量(24時間尿中Na<100mEq)28.9%
→この文献では亜急性経過で自己抗体陽性例が意外といることから自己免疫性機序もある一定数考慮する必要があるとしている。

治療

POTSの治療目的は立位の耐容能を増して日常生活や運動を円滑に行うことが出来るようにすることです。非薬物療法と薬物療法で起立性低血圧と同じものに関してはこちらを参照ください。以下はPOTSに特異的な治療法があるわけではないですが、一部を解説します。

水分/塩分接種:2-3L水と10-12g 塩分接種によるhypovolemiaの改善(Ⅱa)

運動:運動により症状が増悪してしまうため、患者さんは極度に運動を避けるようになってしまう場合がありますが、これは悪循環につながりうるため徐々に強度を上げていくプログラムで取り組むべきとされています。(Ⅱa)

β遮断薬:hyperadrenergic POTSで特に有用 プロプラノロール 10-20mg/日
・量が多すぎると耐容能が低下するため、少量なのがポイントでまずは10mg/日から開始する
・ビソプロロールとメトプロロール、イバブラジンも報告あり
・個人的にはやはりβ遮断薬で血圧低下により逆に増悪する懸念があるため、ミドドリンを最初から併用して管理する方が良いと思っています。

コリンエステラーゼ阻害薬:副交感神経刺激 ピリドスチグミン
・私はピリドスチグミンの使用経験がなく、是非教えていただきたいです。

*SNRIは症状を増悪させるため使用するべきではない

以下は”2015 Heart Rhythm Society Expert Consensus Statement on the Diagnosis and Treatment of Postural Tachycardia Syndrome, Inappropriate Sinus Tachycardia, and Vasovagal Syncope”より引用。

参考文献
・Curr Neurol Neurosci Rep (2015) 15: 60