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COVID19 mRNAワクチン接種後の心筋炎

日本循環器学会からも声明が発表されていますが、COVID19 mRNAワクチン接種後の心筋炎の報告があります。実は私も先月ER勤務で1例経験しました。詳細は伏せますが若年男性の発熱、胸痛で受診し胸痛部位は胸骨裏の正中で圧痛はなく、吸気時痛などもはっきりしませんでした。COVID19 mRNAワクチン2回目接種の2日後の発症であり、ぐったりしている印象もありその他の胸痛原因も指摘できなかったためトロポニンIを測定したところ5000程度まで上昇があり循環器内科の先生に相談し心筋炎の診断で入院となった症例でした(私が当てた経胸壁心エコー検査では明らかな異常所見は指摘できず、12誘導心電図は正常でした。幸いで軽快してその後退院されました)。私の勤める病院で本日このテーマに関して議論がありました。

ざっくり臨床像をまとめると「若年男性に多く、2回目のCOVID19 mRNAワクチン接種後2-3日後に胸痛を呈し、心電図異常やトロポニン上昇を伴い、通常はあまり重篤化せずに自然軽快する経過をたどる」となるかと思います。心エコー所見は特異的な所見を認めない場合もあり、特に若年者が2回目のmRNAワクチン接種数日以内に胸痛などの胸部症状で受診した場合は心電図・トロポニンIを閾値低く提出してスクリーニングするという方法が実臨床では現実的かと思いました。トロポニンIは心筋障害に関しては感度良く反映しますが、疾患特異的ではない点に注意が必要です(逆に若年者ではそうそう心筋梗塞を起こすことは稀であり、トロポニンIが上昇する疾患が限られるため心筋炎は鑑別上位に挙がります)。

下図の通り若年、男性、2回目接種後に多いことがわかります( 下図Circulation. 2021;144:471–484.より引用 )。

通常の心筋炎は日常臨床での診断難しいラインキング上位にくる疾患ですが、ワクチン後心筋炎は「ワクチン接種後」というキーワードがつく分(その分overtriageになってしまう可能性も十分ありますが)まだ想起はしやすいかもしれません(日常臨床で通常の心筋炎はそもそも鑑別に挙げるのが難しい場合が多いです・・・)。

より臓器得意的な検査としては心筋MRI検査(Gd造影)が挙げられます。

治療に関しては特異的な治療方法の前向き研究はもちろん存在しませんが、supportive careに加えてNSAIDs, コルヒチン、ステロイドを使用した症例報告があることと、免疫グロブリン+アスピリンで治療した報告(川崎病のようですが)、またHFrEF例では通常の心不全管理と同様β遮断薬とACE阻害薬/ARBを使用する場合などが報告されています。多くの症例が自然軽快する比較的軽症な経過であるため上記の治療などを導入せずに対症療法のみで経過を追うケースが多いようです。

このような報告があるものの、日本循環器学会からの声明にも記載されているように全体としてワクチン接種のメリットがデメリットを上回ると考えられるため現状この点がワクチン接種を躊躇する要因にはならないです。下図Circulation. 2021;144:471–484.より引用。