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Mg代謝

MgはNaやKと比べると普段日の目を浴びない電解質ですが、影の存在として臨床上非常に重要なのでここでまとめます。

1:Mg代謝・生理

MgはATPからエネルギーを得る際、細胞膜のNa-Kポンプ機能維持など様々な生理的な役割を担っています。Mgはそのほとんど(99%)が細胞内(特に骨>>筋肉)に分布しており、血中のMgは体内総Mgの1%程度です。

細胞内にそのほとんどがあり、細胞外にはわずかしか存在しない点は「K」と似ています。しかし、Kは素早く細胞内外を行き来することが出来るのに対して、Mgの細胞内外の移動は遅いという特徴があります。このため、細胞外Mgが少し減少すると、血中Mg濃度は減少しやすいです(細胞内シフトが追い付かないため)。

Mgの調節で特に重要なのは腎臓での再吸収・排泄の調整です。他の電解質と異なりMgはほとんど近位尿細管では再吸収されず(15~25%)、再吸収の大部分をヘンレの上行脚で行います(60-70%)。ここでは尿細管腔と細胞の電気勾配を利用して、細胞間”tight junction”を経由して再吸収がされます(paracellin-1蛋白が関与し、この蛋白遺伝子が障害されるのが「家族性高カルシウム尿性低マグネシウム血症」)。さらに遠位尿細管のMgチャネル(TRMP6)からも再吸収を行います(5-10%)。これらの尿細管は血中Mg濃度が上昇すると排泄を亢進し、血中Mg濃度が低下すると排泄を抑制する方向に働き調節します。下図にMg代謝をまとめます。

2:原因

■低Mg血症の原因

低Mg血症は一般入院患者の12%、ICU患者の60-65%程度に認め、commonな電解質異常です。低Mg血症の網羅的な原因を下図にまとめました。

特に腎臓からの排泄亢進消化管からの喪失が2大原因です。

・腎臓からの排泄亢進
上記の機序からわかるようにヘンレ上行脚を障害するループ利尿薬(使用中50%程度に認める)、遠位尿細管を障害するサイアザイド利尿薬が低Mg血症を起こす代表的な原因です。ヘンレ上行脚での再吸収はその他高Ca血症、低K血症でも阻害されます。
慢性的なアルコール依存も尿細管機能障害により低Mg血症をきたすことが指摘されています(これだけでなくMg摂取不足の要素もあるが)。

消化管からの喪失
下痢(嘔吐よりも)が代表的です。下部消化管の腸液Mg 15 mEq/Lであるのに対して上部消化管の腸液Mg 1mEq/Lであることから嘔吐よりも下痢で低Mg血症が起こりやすいとされています。
薬剤としてはPPIが低Mg血症の原因として有名で、長期間投与されている患者ではMg濃度を測定するべきです(Kidney Int. 2013;83:692)。消化管からの吸収不全が機序とされています(腎臓からの排泄亢進ではなく)。PPIは漫然と処方されていることも多く、同じく低Mg血症を引き起こす利尿薬と一緒に処方されていることも多いため注意が必要です。
その他 吸収不良症候群、急性膵炎などでも認めます。

・refeeding症候群
絶食状態から急に食事を再開すると、細胞内シフトが起こり低K血症・低P血症そして低Mg血症が起こります。

■高Mg血症の原因

高Mg血症の原因は低Mg血症と異なりかなり限られ、
・医原性(硫酸マグネシウムの投与)
・腎機能障害での酸化マグネシウム長期投与

が2大原因です。内因性の疾患で高Mg血症をきたすことはまれであり、腎機能障害のときに特に静注薬や経口内服薬でMg濃度が上がり過ぎないように注意する観点が重要です。

3:臨床症状

■低Mg血症の臨床症状

一般的に1.2mg/dl以下までは無症候とされています。

神経筋への影響としては、振戦、テタニー、痙攣、不随意運動、脱力、せん妄、意識障害などが挙げられます。垂直性眼振をきたすことも知られています。

電解質異常合併としても最も重要なのは「低K血症」で(40~60%)、低Mg血症が同時に存在するとK補充に抵抗性であることが有名です。低K血症をみたら必ず低Mg血症がないかどうか確認します。
またCa代謝にも影響があり、「原因不明の低Ca血症」では必ず低Mg血症の合併がないかどうか確認します。

心電図変化として最も重要な所見は「QT延長」です。これはtorsardes pointesなどの致死的不整脈につながりうるため、必ず心電図で確認が必要です。

*まれな症状として神経領域では低Mg血症による小脳失調が報告されています(Cerebellum 2017; 16:988)。43歳男性(内服はPPIオメプラゾール)数週間経過の小脳失調、血中Mg<0.7mg/dL、PPI中止とMg補充により可逆的に失調症状改善。MRI検査では両側小脳にT2/FLAIR高信号、ADC低下はなし、経過と共に改善。

■高Mg血症の臨床症状

一般的にMg:5.0mg/dLまでは無症状ですが、最初の徴候として深部腱反射低下が有名です。
神経:深部腱反射低下に続き、Mg濃度が上昇するにつれ意識障害、筋力低下、四肢麻痺をきたします(重症筋無力症に似た症状を呈する場合もあります)。
心臓:Mgはカルシウム受容体拮抗薬のような働きをするので、4.8~6.0mg/dl以上になると低血圧、房室伝導障害、徐脈などが生じます。
その他:嘔気、嘔吐といった非特異的な症状をきたす場合もあります。

4:検査

■いつMgを測定するか?

Mgは普段routineで測定する項目ではないと思います。具体的にいつMgを測定するかですが、
・背景:下痢・アルコール依存・利尿薬・PPI
・臨床症状:神経症状なんでも・脱力
・検査結果:低K血症・低Ca血症
・心電図:QT延長・心室性不整脈を認める場合
といった点から測定することになると思います。個人的には臨床から低Mg血症を疑うことは難しいため(非特異的な所見が多い)、閾値を低く測定してよいと思います。

■検査

FEMg (fractional excretion of magnesium)

・通常:1.4~1.8%
・腎排泄亢進:3~4%以上(腎機能正常の場合)
・腎外排泄(消化管):2%以下
(解説)
低Mg血症の鑑別で消化管排泄か?腎排泄か?を調べる方法として、FENaと同じようにMg排泄を調べる方法があります。24時間蓄尿が正確ですが、現実的には難しい場合も多いため、こちらを利用することが多いです。
計算式ではPMgに0.7をかけますが、これは血中Mgのうち70%が蛋白結合なくfreeの状態(糸球体濾過される状態)だからです。

5:治療

■低Mg血症の補正

Mg補充の適応としては
・疾患:子癇・気管支喘息・Torsardes pointes(QT延長)・破傷風
・電解質異常:低K血症・低Ca血症
・全身症状:神経症状(痙攣など)
が挙げられます。

*参考:換算式
1 mmol = 2 mEq = Mg: 24mg = MgSO4: 240mg

1:静注 硫酸マグネシウム

一般名:硫酸マグネシウム
商品名:マグネゾール®
製剤:2g/20ml/1A
投与方法:マグネゾール®2g + 生理食塩水100~250ml 1時間かけて投与
*リンゲル液はMg製剤と混ぜると沈殿してしまうため使用しない。
*急速静注は禁忌で、出来るだけ時間をかけて投与する。
*腎機能障害患者では急激にMg濃度上昇がありうるため注意が必要。
(解説)最も素早く血中Mg濃度を上昇させることが出来ますが、注意としては数時間で血中Mg濃度はまた下がってしまう点が挙げられます(血中Mg濃度が上昇すると尿細管再吸収が抑制され、じゃばじゃば尿中にMg排泄が起こるため)。このためMg濃度を持続的に保ちたい場合は1日2回点滴、もしくは持続投与をする必要があります。

*参考:Up to dateでの入院中の安定している低Mg血症患者の静注補正方法
・Mg<1.0 mg/dL: 4~8gを12~24時間かけて点滴
・Mg=1.0~1.5 mg/dL: 2~4gを4~12時間かけて点滴
・Mg=1.6~1.9mg/dL: 1~2gを1~2時間かけて点滴

2:経口内服 酸化マグネシウム

一般名:酸化マグネシウム
商品名:マグミット®など
製剤:様々 250mg/1T , 330mg/1Tなど
(解説)無症状の場合、基本は経口補正が安全ですが、酸化マグネシウムは下剤として本来使用されており、特に背景に低K血症がある場合は下痢により低K血症を助長してしまうリスクがある点とやはり消化管からのMg吸収が悪くなるためMgが上昇しにくい欠点があります。このため安定している患者でも上記の静注で補正する場合があります。

■”Normomagnesemic magnesium depletion”に関して

ややこしい名前ですが、つまり「血中Mg濃度は正常範囲内だが、実際の体内Mg量は不足している状態のこと」を表します。これは血中Mgは体内Mgのうち1%程度しかなく、体内Mg量を正確に反映していないことからきた概念です。これをしらべる負荷試験の方法が教科書には載っていますが、私は実はやったことないためここでは記載しません。臨床的には原因不明の低Ca血症や治療抵抗性の低K血症で血中Mg濃度が正常の場合に、試しにMg投与を行い改善するかどうかをみるということがなされます。

■高Mg血症の治療

原因のところで解説した通り基本医原性なので原因となりうるMg負荷を中止することが重要です。

1:原因となっているMg負荷・薬剤を中止
2:Mg排泄

・CKD eGFR=15~45/ml/min/1.73mm2:生理食塩水負荷+ ループ利尿薬
・CKD eGFR<-15/ml/min/1.77mm2:透析必要となる場合ある

以上Mg代謝に関してまとめました。