1:K代謝の生理学
低K血症のchapterで詳しく解説したので、詳細はそちらをご参照ください。
K負荷に対する生体の反応をまとめると
1:細胞内シフトによる緩衝
2:腎臓からの排泄(6~8時間以内に起こる)
の2点になります。低K血症のところでも解説しましたが、基本的に腎臓はKを排泄する力が十分にあります。よって高K血症が持続するためには、必ず腎でのK排泄障害が背景にあります。
2:高K血症の原因
高K血症の原因は
・細胞内シフト(+細胞崩壊)
・腎排泄低下
の2つの問題に分類されます(下図)。
以下にそれぞれに関して解説します。
■腎機能障害
腎機能障害は高K血症の原因有名ですが、腎機能障害単独では通常GFR<15ml/minにならないとKは上昇しないとされています。そのくらい腎臓は通常K排泄する能力があります。しかし、これはあくまで腎機能障害単独の話であって、その他の要素(具体的には薬剤)が組み合わさってKが上昇することが多いです。
■薬剤:ACE阻害薬・ARB・スピロノラクトン・NSAIDs
高齢者でのACE阻害薬(or ARB) + NSAIDsでの高K血症は頻度が多く注意が必要です(機序に関してはNSAIDs, AKIの記事をご参照ください)。
3:症状
K:6.0mEq/L以上の患者の主訴をまとめると、(ACADEMIC EMERGENCY MEDICINE 2008; 15:239参照)
・息切れ 19.8%・脱力 18.6%・意識変容 7.8%・失神 5.4%・無反応 4.2%・その他 43.1%
とどれも非特異的な症状ばかりで、症状から高K血症を疑うことは困難です。私も救急外来でなんとなくだるいという患者さんを採血してみたらK=7.0mEq/Lでぎょっとするという経験があります。非特異的なだるい、倦怠感、脱力といった症状では電解質を確認するようにしたいです。
また何といっても重要なのは「失神」です。「血圧低下+徐脈」をきたす疾患の鑑別は限られるため覚えておきたいです。
Heart:AMI(下壁)、AV block、徐脈性不整脈
Endocrine:副腎不全、甲状腺機能低下症、低体温
Drug:β-blocker、CCB
Electrolytes:高K血症
Neurological:Spinal schock, 迷走神経反射
4:心電図
高K血症の検査で最も重要なのが心電図です。心電図→K、K→心電図とどちらの流れも重要です。下図のようなK値と心電図形態の関係がよく教科書には載っていますが、実際には相関に乏しいため注意が必要です(K値が低いから心電図もきっと大丈夫とはならない、逆もまたしかり)。
先の救急受診のK>6.0mEq/Lの心電図は
・T波変化:T波増高(34.5%)、非特異的ST変化(33.3%)、ST上昇(4.2%)
・洞不全:洞性徐脈(4.2%)、洞停止(1.8%)
・房室伝導障害:1度房室ブロック(16.7%)、心室内伝導障害(QRS>120msec)(11.3%)、脚ブロック(6.0%)
と様々な所見を認めます。不整脈→電解質(特にK)チェック!という流れを必ず確認したいです。心電図で不整脈を認めると不整脈を治療することで頭がいっぱいになってしまいますが、かならず背景に電解質異常がないかどうか?確認したいです。前回の心電図を準備することもお忘れなく!
5:治療
■治療開始基準
・K > 6.5 mEq/L
・心電図変化あり
上記いずれかを満たす場合は治療介入を開始します。
■治療の目標
Kの生理学的背景を踏まえて高K血症の治療では以下の3点を意識します。
1:細胞膜安定化
2:細胞内シフト
3:排泄
以下に治療法をまとめます。 (下図はCrit Care Med 2008; 36:3246参照)
以下にそれぞれの治療法を解説します。
■グルコン酸Ca (Ca-gluconate)
機序:心筋細胞膜電位安定化により致死的な不整脈(VT,VF)が起こりにくくなる(直接K濃度を下げる効果はない点に注意)
投与方法:カルチコール®10~20ml iv (1~3分かけて緩徐に投与)
効果発現:数分
効果持続:30~60分
注意点
*出来るだけゆっくりとivする(速いと血圧上昇など循環動態に影響)
*禁忌:ジゴキシン投与中の患者(細胞内Ca濃度が上昇しすぎてしまうため)
*グルコン酸Caは肝臓代謝であるため、shock患者においては塩化Caを用いる必要がある。
(解説)細胞膜電位安定化による不整脈を防ぐ治療法で、Kを下げる訳ではない点に注意が必要です。なのでカルチコールだけ投与しておしまいというケースは基本ありません。同時にGI療法やSABA吸入、利尿薬、透析などの治療をすすめていきます。
■GI therapy(glucose-insulin)
作用機序:細胞内シフト
治療効果:最大(K値:0.5~1.5mEq/L程度下げる)
効果発現:20分程度
持続時間:4~6時間
方法:
50%Glu 40ml+ Insulin(ヒューマリンR) 4(~10)単位 iv
*50%Glu40ml + Insulin 4単位で覚えるのが良い(低血糖リスクも低いので)
*持続投与の場合:10%Glu 500ml + Insulin 10単位 div
*腎不全患者ではインスリン作用遷延し、低血糖になるriskが高いためフォローが重要。
(解説)グルコン酸カルシウム投与とほぼ同時に開始することが多いです。(透析患者ではすぐに透析してしまった方が速い場合もあるため、まれにGI療法をスキップする場合もあります)。グルコースとインスリンの配合比はどれがBestというものはなく好みの領域です。個人的には低血糖を頻回に気にするのが大変なのでインスリンは少な目の容量にしています。あくまで細胞内シフトであり、体外にKを排泄している訳ではないため、通常GI療法をはじめながら利尿薬も開始することが多いです。
■β2刺激薬(SABA)吸入
作用機序:細胞内シフト
治療効果:K値:0.5-1.5mEq/L程度下げる
効果発現:30分
持続時間:2時間
方法:SABA:0.3~0.5ml + 生理食塩水:2ml ネブライザーで吸入
*40%は効果なく、GI therapyと併用しないと意味がない
(解説)あんまり使わない(というかここでこだわって時間が経過するのが良くない)。GI療法と併用して使用します。SABAの投与量 に関しては通常の喘息と同じ量を使う先生もいれば、それよりも5~10倍程度濃い濃度で使用する先生もいます。個人的にはここはあまりこだわらなくても良いのではないかと考えています。
■吸着陽イオン交換樹脂
作用機序:K排泄促進(腸管内でKと結合して便中へ排泄する)
ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(ロケルマ®):K選択性
*水分により消化管内で膨化せず(消化管合併症が少ない)
製剤:懸濁用散剤 5g, 10g/包
処方例
1: 非透析患者の場合
開始用量:ロケルマ® 1回10g 1日3回 2~3日間
開始用量以降:ロケルマ® 1回5g 1日1回
2: 透析患者の場合
ロケルマ® 1回5g 1日1回(非透析日に内服)
禁忌:なし
既存のK吸着薬との違い:効果発現が早い・消化管副作用が少ない
10g投与1時間0.4 mEq/L , 4時間で0.7mEq/L 低下
JAMA 2014;312:2223 正常化まで中央値2.2時間
過去の薬剤(ロケルマ®登場後使うことはない)
・ケイキサレート®(ポリスチレンスルホン酸Na) *Na負荷があり
・アーガメイトゼリー®、カリメート® (ポリスチレンスルホン酸Ca)
(処方例)カリメート® or アーガメイト15~30g 3x
*腸閉塞禁忌
(解説)イオン交換樹脂はいかんせん効果発現に時間がかかるため急性期治療には不向きで慢性期で使用することが多いです。
■利尿薬
作用機序:尿中K排泄
処方例:フロセミド40mg~ iv
(解説)ループ利尿薬を基本的には使用します(無尿や脱水ではない限り)。ほとんどの場合で腎機能障害があるため、利尿薬抵抗性で40mg→80mg→160mgと倍々で増量していき、尿量が得られない場合、Kが下がらない場合は透析に切り替えるという戦略になる場合が多いと思います。これは施設ごとに違うかもしれませんが、あまり利尿薬に期待しすぎず最初から透析の可能性を念頭において動いた方が安全だと個人的には思います。
■透析
透析でKどのくらい低下するか?:1時間で1mEq/L低下→次の2時間で2mEq/L低下→4時間で正常化
total 70-90mEq除去する
(解説)最終的に必要となる場合も多いです。腎代替療法の適応は下記の”AIUEO”が有名で、高K血症はそのなかの”E: electrolyte”に該当します。
以上高K血症に関してまとめました。