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便秘 constipation

1:便はどのようにしてできるか?

・便の作られ方

便は結腸で水分吸収を行い、S状結腸で便の形態を整えることで作られます。便は30%:腸内細菌70%:水分で構成されており、水分含有量が80%程度で泥状便、90%程度で水様便となります。一般的に食後から24~72時間で排出されるとされ、これよりも速いスピードで便が腸を通過してしまうと水分を十分に吸収しきれずに下痢に、これよりも遅いスピードだと便秘となります。

結腸:水分吸収→S状結腸:便の形体が出来る(食後から24-72時間排泄)
<便の成分>
・腸内細菌:30%
・水分含有量:70%(→80%:泥状便、90%:水様便)

・便の性状評価方法:ブリストルスケール

便の性状を客観的に評価する方法としてブリストルスケールというものがあります。病院によっては看護師さんがブリストルスケールで統一して便性状を記載しているところもあります。評価者によって表現が異なることでの混乱を避けるために是非使用したいです(以下)。

2:原因

まずは便秘をきたしうる器質的背景疾患を除外する必要があります。以下に便秘をきたしうる代表的な原因を記載します。

<原因>
・腸管疾患:大腸癌腸閉塞、炎症性腸疾患
・電解質/内分泌:糖尿病、甲状腺機能低下症、電解質(Ca/K/Mg)
・膠原病:強皮症
・神経疾患/自律神経障害:Parkinson‘s disease、MS、Stroke、Amyloidosis、認知症、脊髄疾患
薬剤:抗コリン薬/TCA/抗精神病薬/抗histamine薬/頻尿過活動性膀胱治療薬、Ca製剤/CCB、鉄剤、利尿薬、opioid、NSAIDs

*高齢者での便秘
1:腸管筋層間神経叢ニューロン減少→消化管運動低下する
2:排便機能低下
*女性では会陰が加工することで肛門括約筋圧が減少し、排便に必要な直腸肛門角改題緑が低下して便秘につながる。
・夜間頻尿を控えるために水分摂取を控えている
・運動量の減少
・環境変化:ショートステイの利用、入院などによりストレスになり交感神経優位になり便秘へ容易になりうるため注意が必要です。

3:便秘診療のapproach

便秘患者さんを診療する際、以下の3つのapproachで介入します。
1:器質的疾患の除外
2:生活指導:排便姿勢、歯科治療、食べ物(食物繊維)
3:薬物介入:浸透圧性下剤→刺激剤の頓用

患者さんが入院中、定期外来、救急外来かによって上記のアプローチがかなり異なります。

・入院中患者の場合

入院中高齢者の便秘は「せん妄」・「直腸潰瘍」のリスクになるという点が重要です。高齢者はうまく症状を訴えることが出来ず、便秘がせん妄の誘因となってしまう場合があります。また、ベッド上臥床しがちの方は適切な排便姿位をとることができず、直腸潰瘍に容易になってしまいます(高齢者が多く入院する病棟ではよくあることだと思います)。直腸潰瘍は一度なってしまうと繰り返すことも多く管理に難渋することもしばしばあるため排便状況を気にしておきたいです。 生活指導だけではこのような患者さんは限界があるため、実際には薬剤治療を導入することが多いです。

・定期外来患者の場合

定期外来患者では慢性の便秘において特に「大腸癌」が実は背景にないかどうか?処方薬の副作用で便秘になっていないか?の2点に注意しながら、生活指導をきちんとおこなうことが重要です。

大腸癌は特に長期の経過で見逃してはいけない疾患です。問診では「便意で目が覚めることがあるかどうか?」や「便がほそくなったことはないか?」、「体重減少はないか?」、「血便はないか?」などを確認します。

・救急外来の場合

救急外来での便秘診療は特に難しく、「いつもの便秘で浣腸をしてほしい」という患者さんは沢山来ますがその中に怖い疾患が隠れている場合があります。特に注意が必要な疾患は「腸閉塞」です。自分は研修医のとき30歳代男性精神疾患既往にある方が「便がでなくておなかが苦しい」という主訴で受診して、その場で浣腸などしましたが改善せず、結果「急性膵炎による麻痺性イレウス」だった苦い経験があります(診断が付くのに数時間かかってしまいました・・・) 。

便秘は結腸の問題なので、回盲弁の機能が保たれている限り通常「嘔気・嘔吐」を引き起こすことはありません。なので嘔気・嘔吐があることは便秘ではないことのヒントになります。あと重要なのは腹部所見で、腹膜刺激症状・徴候があるかどうかをきちんと丁寧に診察することが何より重要です。

4:生活指導

・排便姿勢

膝をかかえるような前傾姿勢(例えば和式トイレ)をとることで直腸肛門角が直線に近づき排便しやすくなります(下図)。

和式トイレが理想ですが、洋式トイレでも前傾姿勢で肘を膝につき、かかとを上げる(もしくは低い台の上に足を載せる)ことで排便しやすい姿勢になります(下図参照)。

・歯の調整

歯の調子が良くないと咀嚼が多く必要となる食物繊維の摂取を避ける傾向がでてきてしまいより便秘となってしまうため見逃しがちですが注意が必要です。義歯が合っているかどうか?かみ合わせの問題はないか?など確認し、必要あれば歯科医に相談しましょう。

・食べ物での介入

食べ物での便秘改善では以下の2点が特に重要です。
1:便に水分を含ませ便をやわらかくする
2:便量を増す→腸管(特に直腸)を刺激して排便運動を促す
これらの役割を担うのは「食物繊維」で、「水溶性食物繊維」が水分を含み便をやわらかくする効果を、「不溶性食物繊維」が便量を増すことで排便運動を促す効果を持ちます。食物線維の摂取目標は:20-30g/day(日本人の平均摂取量:14.5g/day)とされています。以下にこれら便秘に効果がある食べ物をまとめました。外来患者さんの便秘指導では食事指導は特に重要です。

また直腸の活動は朝が最も活発で、かつ食事直後は消化管蠕動運動が亢進しているため排便しやすい状況にあります。このため「毎日朝食後に排便を試みる習慣」をつけることも重要です。

5:薬剤治療

基本的には上記で対応しますが、脳梗塞入院、ほとんど自分で動くことが難しく食事も決まっている場合など生活指導だけではどうしても対応が難しい場合があります。

薬剤を使用する場合、まずは浸透圧性下剤を使用し、刺激性の便秘薬は連用で弛緩性便秘となってしまうため頓用にとどめることが基本です。以下に薬剤の一覧を載せます。

各薬剤の解説

酸化マグネシウム(マグミット)
作用機序:浸透圧により腸管内に水分を引き寄せる
発現:6~24時間、緩徐に作用する(効果判定は数日かける
注意:腎機能障害(高Mg血症のリスクがあるため)
*高齢者(酸化マグネシウム投与中)の倦怠感、意識障害、脱力では高Mg血症を鑑別に入れることが重要です。
(処方例)マグミット330mg 6T3x
*330mg 3T3xから開始して下痢がなければ330mg 6T3xへ増量する方法もあります
併用注意
・高Mg血症リスク上昇:活性型vitaminD製剤
・効果減弱:抗菌薬(テトラサイクリン、ニューキノロン)、ビスフォスフォネート製剤
(高齢者で元々便秘でマグミット内服中に熱で何となくキノロン処方という現場はたびたび目撃してしまいます・・・・。)

ラクツロース(モニラック)
(処方例)6.5g(10ml)1回あたり使用
高アンモニア血症で使用します。

ルビプロストン(アミティーザ)
作用機序:小腸粘膜CIC-2活性化(Cl ion channel)→小腸腸管内腔へのCl-輸送により浸透圧を生じ、腸液を分泌させ、便の水分含有量を増やす効果強く、即効性も比較的高い
高齢、腎機能障害などで酸化マグネシウムが使用しづらい場合に良い適応となる注意投与初期に嘔気が出現する場合あり、その場合は1Cp1xへ減量する必要がある
(処方例)アミティーザ24μg 2Cp2x朝夕食後
*海外では8μgの製剤もあるが日本は現状24μgのみ

刺激性
センノシド(プルゼニド、アローゼン)
作用機序:腸管運動刺激
半減期:8~10時間 *眠前内服して翌朝の排便効果を期待しています(内服してすぐに効果があるわけではないため注意です)
連用すると弛緩性便秘のriskがあるため頓用での使用が望ましいです。大腸メラノーシス(大腸粘膜の黒色変性)→病的意義に関しては分からない。
(処方例)センノシド12mg 1~2T まずは頓用

ピコスルファートナトリウム(ラキソベロン)
作用機序:腸管運動刺激
(処方例)ラキソベロン1回10~15滴眠前

座薬
炭酸水素ナトリウム(レシカルボン座薬)
作用機序:炭酸ガスの刺激により直腸を刺激し、便意誘発を図る挿入後5-15分程度で効果発現
*依存性は低いとされています。

グリセリン浣腸
*高齢者にて消化管穿孔のリスクがあるため注意(基本的に高齢者では使用しない!)

参照:Gノート「便秘」