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「めまい」へのアプローチ

0:めまいの分類

「めまい」が生じる解剖部位は「三半規管」「前庭」「中枢(小脳・脳幹)」の3つに分類されます(下図参照)。

「三半規管」に関係するのはBPPV(良性発作性頭位めまい症)、「前庭」に関係するのは前庭神経炎Meniere病、「中枢」に関係するのは多くは脳血管障害であり、小脳梗塞・小脳出血・PICA梗塞による延髄外側症候群が挙げられます。このように障害される解剖部位と病態・疾患はほぼ1対1対応の関係なので、「どこの解剖部位が障害されいるか?」に着目して分類・アプローチすると分かりやすいです。

この対応関係を下図にまとめました。ここで注意が必要な点は「回転性めまい」や「浮動性めまい」といっためまいの性状からは分類しない点が挙げられます。患者さんが正確にめまいの性状を医療者に表現することは難しく、また再現性がない場合も多いため、めまいの性状を重要視しすぎずにアプローチすることが重要です。

1:「三半規管」の障害

■機序・特徴

三半規管の障害の代表的な疾患はBPPVです。BPPVは耳石が卵形嚢から三半規管の中に落ちることでリンパ液に流れが生じ、それによって前庭神経(正確には膨大部の有毛細胞)が刺激されることで生じます(体が回転していると勘違いしてしまう)。

三半規管はその名の通り3つありますが、前半規管はほとんどなく臨床的には考えなくてよく、外側半規管型後半規管型がほとんどです。

耳石がリンパの中で動くためには頭位変換が必要であり、具体的には頭が前に倒れる、後ろに倒れる、回旋するといった動作が誘発因子となります。この頭位変換を病歴できちんと確認する必要があり、例えば「寝返りをうったとき」、「高いところのものを取ろうと頭を動かしたとき」といった病歴が重要です。ただ立ち上がっただけでは耳石が動くことは考えにくいため、立ち上がってのめまいといった病歴はむしろ「起立性低血圧」を示唆するため注意が必要です。

耳石が落ちることでリンパ液に流れが生じますが、じっとしていると自然とリンパの流れも止まるため通常は「めまい」症状は1分以内に改善します。

次にBPPVでの眼振は頭位変換に伴う方向交代性眼振となります。安静時には眼振は認めない点に注意しましょう(リンパ液の流れは止まっているため眼振は出現しない)。眼振の機序に関しては詳しくまとめたのでこちらをご参照ください。

■誘発法

“Dix-Hallpike法が陰性だったのでBPPVは否定的です”というプレゼンをたまに受ける場合がありますが、これは正確には不十分なプレゼンです。それぞれの半規管ごとに対応する誘発方があり、それぞれの三半規管に対して対応する誘発法があり、Dix-Hallpike法はあくまで後半規管型のBPPVに対する誘発法で、水平半規管型には意味がありません(水平半規管型の誘発には有用ではありません)。水平半規管型ではHead roll test(上図で示した通り臥床状態で左もしくは右を向かせる方法で誘発します。Supine roll testなど色々な呼び名がある)をする必要があります。

ここでは後半規管型の誘発法である”Dix Hallpike法”に関して解説します。

右後半規管の場合を考えます。後半規管は水平面でななめ45度の角度後方に位置しているため、右に45度頭部を回旋することで、頭部を懸垂する際に耳石が垂直に落ちやすくなります

次に素早く(1-2秒で)頭部を懸垂頭位へもっていきます。このとき患者さんの頭がきちんと懸垂頭位になるように座る位置を調整しましょう。これによって地面向きの回旋性の眼振を認めます。

以上三半規管の障害をまとめました。

2:「前庭」の障害

■機序

前庭の障害の代表的な疾患は前庭神経炎やメニエール病です。「前庭動眼反射」を理解することが、眼振の機序の理解にもつながるため説明します。「前庭動眼反射」は、頭部を回旋しても視線を一点からそらさずに見続けるための反射機構です。

例えば、頭部を左に回旋した場合に、そのままでは眼は左を向いてしいますが、三半規管の中のリンパ液が流れて前庭神経が刺激されることで目を逆向き(つまり右向き)に向くが出来ます(これは慣性の法則で頭部回旋により三半規管内のリンパ液が流れることによります)。

■診察法

この前庭動眼反射がきちんと機能しているかどうかを調べる方法として“head impulse test”があります。
やり方はまっすぐ検者の鼻を被検者に見続けてもらい、被験者の頭部を素早く他動的に回旋させます。正常では被検者の視線は検者の鼻先からずれません。

しかし、前庭神経の障害がある場合は「前庭動眼反射」がうまく機能しないため、いったん視線が外れてそれからまた鼻先を見るという時間差が生じます。この場合「前庭動眼反射」の経路に機能障害があることを意味します。実際には軽度のタイムラグが軽度の場合も多く、異常所見を検出するにはこの診察に習熟する必要があります。(なかなか判断に難しい場合が多いので日々診療で実践し、異常の患者さんの所見をきちんと覚えることが大切です)。まずは健常の人でどうなるかを練習して実践しましょう。

前庭系の評価は本当に限られていて3つくらいしかありません。画像でも前庭系の評価は出来ないため診察方法に習熟しましょう。

■眼振

次に眼振ですが、前庭障害の場合は「(水平)方向固定性眼振」となります。これも眼振のチャプターで解説したのでこちらをご参照ください。

下図を参照にしながら説明すると、左の前庭神経が障害されると、眼を右に動かす前庭動眼反射の経路が障害されるため、眼は必然的に左に流れる(黒矢印)ようになります。するとそれを直すために眼振は反対向き(赤矢印)に生じます。

前庭神経の障害の原因としては前庭神経炎が代表ですが、脳幹部の障害で前庭神経核が障害される場合もあります。頻度は三半規管の障害に比べるとずっと少ないですが、代表的な所見に習熟しましょう。

3:「中枢」の障害

最後に中枢の障害に関して解説します。小脳が何をしているのか一言で表現すると「主動筋と拮抗筋のバランス・協調性を担っている」と表現できます。指先をある1点にまっすぐ伸ばす動作にしても、肘の伸展と屈曲に関与するそれぞれの筋肉がバランスよく働かないとガクガクした動きになってしまい、スムーズに指先を動かすことが出来ません。
このように何か動作をするにあたっては主動筋と拮抗筋のバランスを保つことが重要であり、小脳はこの役割を担っています。

私たちが神経診察でみている所見は、その「主動筋と拮抗筋のバランスが崩れた結果」です。
1:測定障害(dysmetria)という所見は、スムーズに動かせないために思ったところで動きを止めることが出来ず、行き過ぎてしまうことを表します。
2:動作分解(decomposition)という所見は、主動筋と拮抗筋のバランスが悪いことで動作がなめらかに行えず、一つ一つの筋肉がバラバラに関与してしまうため、動きがぎくしゃくしてしまう現象を表しています。
3:反復運動拮抗障害(dysdiadochokinesis)は、主動筋と拮抗筋を交互に運動させることで、その切り替えがスムーズにいかなくなる現象を表しています。特に「スピード」・「リズム」・「大きさ」・「肘の固定」の4点に注目しましょう。脇をしめてやると安定するため簡単になってしまうので、必ず脇をしめずに肘が宙に浮いている状態でやりましょう。

診察方法はこのようにたくさんありますが、「主動筋と拮抗筋のバランスが崩れているかどうか」という根本の病態は変わらないので、その目で診察しましょう。またこれらの診察に共通な特徴として、「スピードを上げると所見が明瞭になる」「何度も同じ動きをすると学習するため上達する」という点があります。これらの点に注意するために、「ゆっくりやりすぎない」・「1回目、2回目の所見を重要視する」という心がけをしたいです。

また小脳所見を取るうえでの前提条件として「麻痺がないこと」が挙げられます。麻痺がある状態では失調は十分に評価できないので、必ず麻痺がないことを確認した上で評価をしましょう。

小脳・脳幹の障害の病因としては「脳血管障害」が代表的です。小脳梗塞は原因血管・梗塞部位によって、その症状の出方が異なります。
1:SCA(上小脳動脈)の梗塞では、典型的な片側四肢の失調や構音障害が主体の場合が多いです。
2:AICA(前下小脳動脈)の梗塞は非常にまれではありますが、内耳への血管支配もあるため、片側性の難聴を突然きたし(通常中枢神経病変で難聴となることは少ないため例外的)、突発性難聴と間違われる場合もあるため注意が必要です。
3:PICA(後下小脳動脈)の梗塞が一番難しく、小脳虫部の梗塞だと四肢の失調や構音障害がはっきりせず、体幹失調のみの場合があり、この場合はじっさいに患者さんを歩かせないと失調がわからない場合があります。

下図の様に、SCA領域の梗塞や複数血管領域が関与する梗塞では必ず「めまい以外の神経所見」を伴いますが、PICA領域の梗塞は16.3%が「めまい単独」の症状でありその他の神経所見を伴わない場合があります。このためPICA領域の梗塞は注意が必要であり、歩けない場合は頭部MRI検査の適応と判断してよい根拠となっています。

5:めまい診療での画像検査

ただ注意が必要なこととしてはMRIを取れば脳梗塞が分かる訳ではない点があります。後方循環の脳梗塞(特に脳幹部の梗塞)は発症早期はDWIでも検出することが出来ない場合が多く、下図に示すように、前方循環の梗塞(ACAやMCAなど)では発症早期からDWIの偽陰性は低いが、後方循環の梗塞では発症早期は偽陰性が多いことがしられています。

このことからもわかる様にMRIを取れば脳梗塞かどうでないかが分かるわけではありません。あくまで病歴・神経所見から脳梗塞が疑われるかどうか?を判断する必要があります。MRIで画像上映っていないことが帰宅可能の免罪符となる訳ではありません。

臨床的に脳血管障害を疑う病歴・神経所見があるが頭部MRI検査が陰性の場合は(特に延髄外側症候群 Wallernberg症候群は初期に画像で検出できることは基本的にない)、経過観察目的に入院として48時間経過してから再度画像検査を再検するといった対応が必要となります。

このように臨床的に中枢性を疑う(もしくは否定できない)場合は頭部MRI検査がたとえ陰性であっても、脳梗塞疑いに準じて対応する必要があります。つまり、MRIを撮る前にマネージメントは全て決まっているということです。MRIを撮影する前に、病歴・診察から臨床診断をすることが重要です(そもそもBPPVや前庭神経炎は臨床診断で画像で診断できるものではない)。

6:めまい診療の流れ

■末梢性、中枢性というめまいの分類に関して

めまいの分類でよく末梢性、中枢性という分類方法がありますが、私はこの分類方法に反対です。

理由の1点目として末梢性には「三半規管」と「前庭」が該当しますが、同じ末梢性に属しておりながらそれぞれへの診断アプローチが全く違う点が挙げられます。基本三半規管の問題であれば”Dix-Hallpike法”などで眼振を誘発できることが診断に重要で、前庭の問題であれば前庭動眼反射が消失しているということが診断に重要です。末梢性という漠然としたアプローチではなく、三半規管の問題か?前庭の問題か?というより特異的なアプローチが実際には求められます

理由の2点目としてはめまいのアプローチとして”HINTS”(head impulse test, nystagmus, test of skew)が有名ですが、これを末梢性と中枢性の分類に利用すると勘違いしているケースが多いことが挙げられます。”HINTS”はあくまでもBPPVを除外した上で「前庭由来のめまい」と「中枢由来のめまい」を区別するための方法であり、「BPPVも含めた末梢性」と「中枢性」を区別するためのものではありません。これは本当によく勘違いされています。

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このように末梢性と中枢性は間違いの元になりうるため、きちんと上記の「三半規管」・「前庭」・「中枢」のどの解剖部位の問題なのか?へアプローチする姿勢を身に付けたいです。

■めまい診療のまとめ

診療のアプローチとしては、中枢性or末梢性という分類やHINTSだけに頼らずに、「三半規管」、「前庭」、「小脳」それぞれが障害された場合の「眼振のパターン」、「誘発法」、「脳神経や小脳失調の神経診察」をきちんと把握し、アプローチする総合的な姿勢が重要だと思います。

画像検査に関しては、MRIは先ほど解説したように後方循環では急性期に偽陰性の場合があるため、MRIで脳梗塞の除外は出来ません。脳梗塞を疑う場合はMRIがたとえ陰性であっても入院となります。このため「MRIを取る前に勝負は決まっています」。画像検査をしてから、「あれっ何も映っていないな・・・。うーん・・・。」と考え込まないように、常に画像検査の前に自分のなかで臨床診断をもって臨みましょう。

最後にめまい診療のフローチャート(私案)を載せます。

以上「めまい」の診療に関して解説しました。BPPV、前庭神経炎はいずれも臨床診断で検査では診断できません。また後方循環の脳梗塞も初期はMRIで何も映らないことが多いです。このように私たちが普段頼りがちな検査が通用しないことがめまい診療の難しい点もあり、臨床能力を試される場面でもあると思います。難しい症候ですが、今回の内容が少しでも参考になれば幸いです。