1:眼振(がんしん)とは?
眼振は一言で表現すると、「病的にずれた眼位を元に戻そうとする眼の動き」のことです。眼振を観察すると「だらーっ」と1方向へ眼球が動き(緩徐相)、そのあと「きゅっ」と素早く逆方向に眼球が動く(急速相)2つのフェーズから成り立っています。
最初の「だらーっ」と動く緩徐相が病態(勝手に眼球が病気のせいで動いてしまう)を反映しており、そのあと「きゅっ」と動く急速相が生理的に眼の位置を戻そうとする動きを表現しています。後者の「きゅっ」とした動き(急速相)の方が観察者にとっては分かりやすいため、この方向を眼振の方向と定義しています。右左は必ず患者さんにとっての左右で表現します(例えば下図の場合は「右向き眼振」と表現 観察者から見た左右ではないため注意)。

眼振の記載方法は下図を参照ください。

2:眼振の分類
眼振には様々な種類がありますが、簡単に分類すると以下の3つに分けられます。眼振が嫌になってしまう原因として、種類が多すぎることと、病態との対応関係が理解できないことが挙げられますが、以下の3つを覚えれば実臨床のほとんどの場面で対応することが出来ます。眼振の機序でそれぞれどうしてこのような眼振が起こるかを説明する。

2:眼振の機序
■前庭動眼反射
眼振の機序の理解には「前庭動眼反射」の理解が必要です。「前庭動眼反射」は頭部を回旋しても1点を見続けようとする反射経路です(急に頭がきゅっと動いても1点を見続けるため)。三半規管の中のリンパ液が頭部回旋によって動く(流れる)ことで前庭神経(正確には膨大部の有毛細胞)が刺激され、種々の神経経路を経由して頭部回旋と逆の方向に眼が向くという反射経路です。細かいことを忘れてしまっても、「頭と逆の方向に眼が向く」と覚えておけばOKです。

■三半規管障害の場合(BPPV)
三半規管障害の代表的な疾患はBPPVです。BPPVの眼振は三半規管の中に耳石が落ちてしまうことによって、リンパ液に流れが生じて勝手に前庭神経が刺激されてしまうことで生じます。

頭位を変換することで、耳石が落下するとリンパ液に流れが生じ、耳石が落ちた三半規管と対側に眼球はながれます(緩徐相)。そのため、眼振は患側向きに生じます(急速相)。

逆の方向へ頭位変化をすると、今度はリンパ液が逆方向に流れるため前庭神経は抑制される。これによって逆向きの眼振が生じる(頭位変換による方向交代性眼振)。

より詳しく下にまとめます。安静時から頭位を変換すると、頭位変化直後は耳石はリンパ液に浮いたままの状態で耳石はすぐには落ちません。このため眼振は生じず、臨床的にこれが数秒の潜時と対応します。そして数秒経過すると、耳石が落ちることで非生理的な半規管内にリンパ液の流れが生じて、前庭動眼反射の経路が活性化(もしくは抑制)されることで眼振を生じます。


■前庭障害の場合
次に片側の前庭障害の場合をみてみます。上記の前庭動眼反射の経路が片側そもそも障害されている状態です。すると患側と逆向きに眼を動かす機序が弱くなってしまうので、相対的に患側側に眼が流れてしまいます。患側向きに眼がながれてしまう(緩徐相)ため、それをもとに戻そうと対側への眼振(急速相)が生じます。これが、水平固定性眼振の機序です。


■中枢(小脳・脳幹)障害の場合
中枢性眼振の機序は様々ありますが、このうち注視誘発性眼振に関して解説します(これは前庭動眼反射は関係ありません)。注視方向に眼位を保つことが出来なくなってしまうことが主病態です。このため、眼位は自然と正中にながれてしまうため(緩徐相)、注視方向への眼振(急速相)が生じる。これが、注視誘発性眼振です。

このほかにも中枢性眼振として垂直方向性眼振がありますが、これは中枢性に特異的な所見ですが頻度はまれです(あればラッキーな所見で無いからといって中枢性を否定でいない)。またこれは難しいのですが、前庭障害で勉強した水平性眼振を小脳下部障害では認める場合もありますので注意です。

4:診察
眼振の診察では「注視抑制を外す」という作業が重要です。 注視抑制とは、ある1点をじっと見ると眼振が抑制されてしまう現象のことです。
注視誘発性眼振は中枢由来のため注視抑制はかかりませんが、末梢性の眼振(具体的にはBPPVでの頭位変換による方向交代性眼振や、前庭障害での水平方向固定性眼振)では注視抑制が働くため眼振が出づらくなる。
このため末梢性の眼振を見るときは注視抑制を外すために、必ずフレンツェル眼鏡を装着するようにします(おそらく多くの病院では救急外来においてあるはずです)。フレンツェル眼鏡なしで「めまい」診療は不可能なため、使い方になれるようにしたいです。
診察の順序としては、まずフレンツェル眼鏡を付けない状態で自発眼振と注視誘発性眼振があるかどうかを評価し。その後フレンツェル眼鏡を装着した状態で、自発眼振、またBPPVでの誘発法としてDix-Hallpike法やhead roll testを実施する流れになる。自分の中で眼振を診察するときの診療の型を作りスムーズに観察できるように練習を重ねよう。

以上眼振の病態と定義、分類、具体的な診察の手順に関して解説しました。。眼振はどうしても苦手意識を持ったしまうことが多い分野ですが、「めまい」診療での客観的指標として欠かすことが出来ません。ここでは細かい定義や、厳密に細かい分類にはこだわらず出来るだけシンプルに眼振の分類とその対応関係をまとめました。