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不思議の国のアリス症候群 Alice in Wonderland syndrome

患者さんからの訴えでしばしば遭遇するのが「不思議の国のアリス症候群」です(実際に経験されたことがある先生もいらっしゃるかもしれません)。1955年にイギリスの精神科医John Toddがこの名称が提唱されました。確固たる基準がある症候群ではないので(病態も解明されておらず、独立して扱って良い症候群なのかどうかもわかっていない)、あいまいなところも多いですがまとめます。

臨床像

ポイント:知覚のゆがみ perceptual distortionである(幻覚 hallucinationや錯覚 illusionとは異なる)
*つまり統合失調症や幻覚を来す症候群とは別である
・症状(報告多い順に記載):micropsia(実物よりも小さくみえる) 58.6%>macropsia(実物よりも大きく見える) 45.0%>teleopsia(実際よりも遠くに見える) 23.1%>dysmorphopsia(輪郭や線がゆがんで見える) 20.1%>kinetopsia(動いているように見える) 8.9%>pelopsia(実際よりも近くに見える) 6.5%>achromatopsia(色彩の認知ができない) 5.3% など多数あり
・持続時間:分~日単位が多い(年単位やずっと持続する場合もある)

microsomatognosia(下図)

macrosomatognosia(下図)

literature reviewによる169例の検討 Neurol Clin Pract 2016;6:259–270.
・年齢:平均15.5歳(132/169例は≦18歳以下)、男性 55.6%
・原因(若年者):脳炎が最多(若年 21.7% vs 成人~高齢者 1.2%,特にEBV感染が脳炎の68.4%を占める)
・原因(成人~高齢者):神経疾患 16.8%にあり 片頭痛が最多 9.6%(全体 27.1% 若年17.5%)
*既報では片頭痛患者の15%に有するともされている(大規模な疫学研究はなし)
*その他の原因:全体のてんかん3%、精神疾患3.6%、薬剤6.0%、違法薬物6.0%
・予後:寛解 47.6%, 部分的または一時的な寛解 11.3%
*てんかんや片頭痛を随伴する症例では寛解はまれ

検査・診断

・診断基準はない(ICD, DSMなどでも記載なし)→基準がないため疫学研究などもすすまない現状
・幻覚と錯覚を除外する

治療

・自然寛解することも半数程度であり期待できる
・治療は背景疾患の治療を行う(背景疾患が悪化するときにAlice in wonderland syndromeの症状が増悪することも多い)

参考文献:Neurol Clin Pract 2016;6:259–270. Alice in wonderland syndromeに関するreview

余談:村上春樹の短編「象の消滅」の中で不思議の国のアリス症候群に似た現象が生じます(「パン屋再襲撃」という短編集の中に収載されています)。ご興味ある方は是非読まれてください。