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低血糖脳症 hypoglycemic encephalopathy

  • 2024年3月18日
  • 2024年3月22日
  • 神経

脳症(encephalopathy)の総論に関してはこちらに解説がありますのでご参照ください。低血糖脳症に関して調べた内容をupしていきます(これから追加していきます)。最後に管理人の一言を記載しています。

画像所見

・低血糖脳症に特異的な所見はなし

①白質
②灰白質:皮質,基底核 *視床・脳幹・小脳は障害されない傾向

*参考:DWI皮質高信号の鑑別(鑑別は比較的限定的なので重要)
・脳血管障害:塞栓性梗塞
・感染:CJD、ヘルペス脳炎
・炎症:血管炎、CNS vasculitis
・代謝性:MELAS、低酸素性虚血性脳症(HIE:hypoxic-ischemic encephalopathy)、低血糖脳症、急性高アンモニア脳症
・てんかん重責・PRES・外傷(contusion)

文献: AJNR Am J Neuroradiol. 2010 Mar;31(3):559-64. PMID: 19875472

・11例(発症72時間以内)検討(おそらく低血糖脳症に関するMRI所見をcase report以外でまとめた初めての報告)
・血糖値平均 19.6 mg/dL (3-36 mg/dL) 8/11例は糖尿病を有する
・半卵円中心 n=9, 大脳皮質 n=8, 放線冠 n=7, 内包後脚 n=6, 海馬 n=4, 基底核 n=1
・考察:低血糖脳症病態①energy failure, ②excitotoxic edema(グルタミン酸), ③asymmetric cerebral blood flow
*アスパラギン酸が細胞外へ放出され、特に皮質や基底核、海馬の細胞障害を呈する。しかし、小脳や脳幹、視床下部などはグルコーストランスポーターの働きが大きいため蛋白合成が保たれる。
*excitotoxic edemaはcytotoxic edemaと異なり、神経障害を示唆するとは限らない(グルタミン酸はグリア細胞の浮腫を誘導するがミエリンが保護的に働く、またグルタミン酸の回収機構は低血糖では障害されたないため)→このため通常は一過性の障害になる

文献:DWIと低血糖脳症に関して Neuroradiology. 2009 Oct;51(10):641-9. PMID: 19533113.

・低血糖脳症でDWI異常所見のある17例の検討
・障害のパターン:①灰白質+白質障害 n=8, ②灰白質のみ障害 n=4, ③白質のみ障害 n=5
*ほぼ全て両側性・左右対称性の病変 n=16/17
*白質:半卵円中心、脳室周囲白質、内包、脳梁、中小脳脚
*灰白質:白質(動脈還流領域と合致しない)、基底核 *視床と小脳は障害されない
・上記障害パターンの血糖値の関係性はなし(また予後と来院時血糖値の相関関係なし)
・予後:①両側性の病変→持続性の植物状態 n=14, 中等度~重度の障害 n=1、②その他(片側性白質例 n=1、脳梁病変 n=1) 後遺症なく改善
*白質障害が過去に考えられていたよりも多い(the most interesting finding in this studyと記載)

画像と予後の評価

文献:AJNR Am J Neuroradiol. 2012 May;33(5):904-9. PMID: 22268090

・36例の低血糖性脳症(昏睡状態, Glu=40-69mg/dlも含む)での発症1日以内の頭部MRI検査DWIと1週後の神経予後を”前向き”コホートで検討
・分類
1:信号変化なし 13例→1週間後意識改善
2:片側内包後脚などの局所病変 13例→1週間後意識改善
3:広範囲白質病変 10例→1週間後改善なし(2例死亡、5例植物状態、3例介助必要)

まとめ
血糖値と画像パターンの関係性は指摘できず *既報で血糖値と機能予後の相関関係も指摘なし(低血糖の持続時間が重要なのではないかと推察されるが検証が必要)
・予後は1週間の短期予後で評価している(長期予後に関してではないため、長期経過で徐々に改善してくる可能性はある)
・画像所見は基本的には白質病変主体 灰白質が障害されることもあるが
・病変なし、片側局所だけはブドウ糖投与により1日以内にcomlete recoveryする
・広範囲の群では意識改善しない
画像所見は低血糖性脳症の予後予測に使える可能性がある

予後因子

Diabetes Res Clin Pract. 2013 Aug;101(2):159-63. PMID: 23820485

・165例(75%は基礎疾患に糖尿病あり、誘因最多は薬剤 n=123>消化管疾患 n=37>アルコール乱用 n=26)の低血糖脳症(血糖値≦50 mg/dL, 昏睡 38%または混迷 62%)の予後不良因子(GOS *glasgow outcome scale≦4と定義)を後ろ向きに検討
・予後不良は23%(n=38) *GOS 1 死亡, GOS 2 植物状態, GOS 3 重度障害, GOS 4 中等度障害
・因子:①低血糖が重度(median 18 vs 24 mg/dL)、②低血糖持続時間が長い( 16 vs 9 hr)、③体温高い(37.0 vs 35.5℃)、④乳酸値低い(1.0 vs 2.2 mmol/L)
*治療後高血糖は両群間で有意差なし(265.5 vs 240.0 mg/dL, 200mg/dL以上 61.4% vs 66%, 300mg/dL以上 32.3% vs 34.2%)
*その他年齢、性別、低血糖の背景疾患は相関関係なし

考察
①なぜ体温が高いと予後不良なのか?:低血糖における低体温はエネルギー消費を抑える防御機能の可能性があるかもしれない(つまり therapeutic hypothermiaになっている可能性・動物モデルでは体温依存性に低血糖では神経障害を生じる)
②なぜ乳酸値が低いと予後不良なのか?:乳酸がアストロサイトから産生され代謝されることでエネルギー供給源になる
③なぜ治療後高血糖を検討したのか?:動物モデルでは低血糖後に高血糖になることは酸化ストレスが増大して神経細胞死を呈することが指摘されているため

Limitation
・低血糖を繰り返すことが予後不良になるか?に関しては検討できていない

管理人の一言

・まず管理の観点からは低血糖を補正するだけといえばそうなのですが(その他効果が証明された治療方法はない)、文献での高体温の場合に神経学的予後が悪い相関性がある点は注目すべきかと思います。やはり”Secondary brain injury”を抑える必要があるため、きちんと中枢神経における”Do no harm”を低血糖脳症でもすべきと言えるかもしれません(低血糖脳症でここの管理が甘いケースは多いので)。
・もちろんこれはあくまでも「相関関係」であって体温をコントロールすることで神経学的予後を改善することができる「因果関係」が証明されている訳ではないのですが。ただ低血糖脳症でRCTを組むのは症例数を集めるのが相当大変なので今後でてくるのか分かりません。現状はsecondary brain injuryに注意しながら管理することが良いと個人的には思います。

・低血糖脳症の実臨床で最も問題・議論となるのは神経学的機能予後をどう見積もるか?という点かと思います。代謝性脳症の多くがそうですが、かなり長い時間をかけてじわじわ改善していく場合があります。このため「1週間様子をみて判断しよう」または「1か月様子をみて判断しよう」といった予後評価のためのタイムスパンの設定をどうするか?はかなり悩みます。
・正直文献を読んだ限りここの結論はでていないです。
・このように曖昧な点はまだまだ多い低血糖脳症ですが、単一の指標で予後不良と断定はせずに1-2週間程度は経過をフォローしながらACPを積み重ねることが重要なのではないかなと個人的には思います。