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悪性リンパ腫と末梢神経障害

・稀ではあるが重要 悪性リンパ腫の診断に先行する場合がある
・悪性リンパ腫治療中に出現してくる場合もある
NHL(非ホジキンリンパ腫)のB細胞(約90%)が圧倒的に多い high gradeの場合は神経障害6.5-17.5%, B細胞性約90%
・HL(ホジキンリンパ腫)はNHLと比して稀・背景の免疫異常による障害が多い GBS/CIDPの報告もあり Hu抗体の報告あり HLの早期の段階でparaneoplastic機序で起こる 直接浸潤は稀
・悪性リンパ腫の8%が臨床的neuropathy, 35%が電気生理的(または病理的)neuropathyを合併 J Neurol Neurosurg Psychiatry 1971;34:42–50.
・直接的な原因ではないものとして、帯状疱疹合併、放射線治療、化学療法の副作用が原因としてあげられる

悪性リンパ腫による末梢神経障害の機序 

直接浸潤 (neurolymphomatosis)

非ホジキンリンパ腫がほとんど ホジキンリンパ腫はめったに浸潤しない
・浸潤する機序は完全には解明されていない(以下可能性指摘)
 ・中枢神経は脳神経や神経根を経由してアクセスを得ている
 ・末梢神経は周囲のリンパ節を経由してアクセスを得ている(特にBNBがないDRGを経由している可能性がある)
・病理的にはepineuriumの血管を囲うようにリンパ腫細胞が集簇しており、血行性播種の可能性もある(fibrinoit壊死や血管壁への浸潤がない点が血管炎との鑑別)。endoneuriumにしばしば浸潤し、これは固形腫瘍ではuncommonである。
・病理診断が確定診断であるが、できない場合に画像により代替する方法も提唱がある Neurooncol 2003;5:104–115.
・臨床像:単神経障害、多発単神経障害、馬尾症、CIDP/GBS

免疫学的機序 (CIDP, GBS)

・HLも多く報告されている(HLは免疫異常を引き起こしやすい)
・浸潤性のリンパ腫は免疫学的機序に似るため神経生検が必要になることが多い
・自己抗体との関連指摘なし
・悪性リンパ腫の診断に先行する報告が多い  

血行性転移(血管浸潤による虚血):血管内リンパ腫

血管炎のような多発単神経障害を呈することが多い

HIV感染関連

その他:血管炎, クリオグロブリン血症, アミロイドーシス, M蛋白関連, POEMSなど

傍腫瘍神経症候群

1:特徴
①非典型的な臨床像を呈することが多い(古典的なsensory neuronopathy, LEMSなどではなく)
②抗神経抗体は陰性のことがほとんど *Tr抗体(PCD)とmGluR5抗体(LE)がありうる(背景HL)→この点からdefiniteと判断しづらい
③腫瘍細胞自体に抗原は発現していない(腫瘍自体が傍腫瘍神経症候群のトリガーとなっている訳ではない可能性)
④予後不良ではない(他の固形腫瘍とは異なり)

2:症候群と抗体, 腫瘍の対応関係

3:末梢神経障害の場合
・脱髄性ニューロパチー(GBS/CIDPの診断基準を満たす)腫瘍診断に先行する場合が多い
・亜急性経過・抗神経抗体は陰性
・HLの方がNHLよりも多い
・HLとGBS関連性指摘あり
・large B細胞性はneurolymphomatosisが多い

*参考:Neurology ® 2011;76:705–710
・悪性リンパ腫に合併したPNSまとめ(53例 HL24例、NHL29例) *ホジキンリンパ腫が多い
・PCD最多(21例 HL16例, NHL5例) 抗Tr抗体, 末梢神経障害(脱髄性)はNHLに多い
・神経合併症の治療反応性:ホジキンリンパ腫は50%化学療法に反応, 非ホジキンリンパ腫は24%化学療法に反応

臨床像ごとの違い

神経根症 radiculopathy

・VZV感染が最多:リンパ腫の約3-10%に帯状疱疹感染を併発する zoster paresisを呈する場合もある
・NHLがほぼ全例で背景に腫瘍の指摘がなく初発症状になる場合がしばしばある
・神経根症、多発神経根症、馬尾症候群を呈することがある
・髄液検査の細胞診で得られる場合がある
*多発神経根症(polyradiculopathy)に関してはこちらを参照

神経叢障害 plexopathy

・機序:直接浸潤、免疫機序、放射線治療の影響
・腕神経叢:下神経叢障害・同側ホルネル症候群随伴が多い・疼痛を呈する
・より近位の神経根に近い部分が障害されることがしばしばある
・放射線の場合は疼痛が少ない・6か月程度以上後に生じる・高線量・初発症状は異常感覚で月単位で緩徐に進行していき運動障害を呈していく・上神経叢がより障害されやすい(他の組織によるprotectionが弱いためと推定)・EMGではmyokymic dischargeを呈する(特異性が高い)
・画像でneurographyが有用かもしれない
・免疫機序ではNeuralgic amyotrophyに類似した症状を呈することがある
*神経叢障害一般に関してはこちらを参照

多発神経障害 polyneuropathy

・広範囲の浸潤(CIDPに似ることがある)または免疫機序により生じるGBS/CIDP(その他血管炎やクリオグロブリン血症)
・非対称性の場合は浸潤や血管炎の機序を示唆する
・NCSでは軸索障害と脱髄の混在した病像を呈する場合がありCIDPとややこしい
・MRI neurographyが参考になる 腫瘤形成や造影効果は浸潤を示唆する
・神経生検が有用 多くの症例は剖検で診断されており、臨床医はaggressive aproachをこれらのケースでは取るべきかもしれない

文献

■32例のNHLと末梢神経障害のまとめ報告(重要論文) Brain. 2013; 136(Pt 8):2563-2578.
・全例NHL B細胞26例(DLBCL 20例), T細胞6例
・多発単神経障害パターンの分布 23例, ポリニューロパチーパターンの分布 9例
・腫瘍に先行して診断:45%
・検査所見:sIL2R上昇 71%, 髄液細胞数増多12/29例(平均 21.0/μL), 蛋白上昇20/29例(平均116 mg/dL), 細胞診陽性 6/28例, 抗神経抗体7例検索いずれも陰性
・分類
①neurolymphomatosis:計15例(病理証明 9例 B細胞=7例 DLBCLほとんど,T細胞=2例+FDG/PET-CT 6例) 、臨床経過慢性~亜急性、分布多発単7例, polyneruopathy2例、神経伝導検査3例はEFNS/PNS(2010)のCIDP電気生理診断基準をdefiniteで満たす
②Paraneoplastic:計5例(CIDP3例 内2例はT細胞リンパ腫, sensory ganglinopathy 1例, vasculitic neuropathy 1例*全例polyneuropatnyの分布)
③不明 12例(多発単神経障害10例)
・neurolymphomatosisでのNCS上脱髄を呈することがしばしばある
・11/32例でCIDPの基準を満たす(うち5例はneurolymphomatosis) neurolymphomatosisの症例でもIVIgやステロイド反応性を占める症例あり
・neurolymphomatosisをCIDPと勘違いする理由として①脱髄、②免疫治療反応性が挙げられる

参考文献
・Muscle Nerve 2005; 31: 301–313. 悪性リンパ腫と末梢神経障害に関する最も重要なreview articleで必読
・Blood. 2014;123(21):3230-3238 悪性リンパ腫と傍腫瘍神経症候群の最も重要なreview articleこちらも必読