過去の神経学会の地方会で初めてこの病態を知りました。前に一度まとめようと思いそのまま忘れてしまっており、今回疑う症例があったため勉強した内容を簡単にまとめます。
病態/臨床像
・原因不明脳梗塞の原因として重要です。FMD(fibromascular dysplasia)の一種で内頚動脈近位部の後壁から線維組織が突出して棚のような形態”shelf-like”を呈します(動脈硬化や石灰化を認めない)。FMDの一種ということですが、他の全身性の血管障害(腎動脈狭窄など)を合併する例は報告されていないようです。先天的ではなく後天的な形態異常の可能性もあります。
・遠位に血流がうっ滞して、同部位に血栓が形成され、それが塞栓子となり梗塞をきたす機序が考えられています。石灰化を呈することはなく、血行動態に影響を与えるような強い狭窄を呈することは稀とされています。
・若年者での脳梗塞(特に同一血管支配領域に繰り返す場合)ではcarotid webの可能性を考慮する必要があります。
・内頚動脈に病変を呈する他の原因との鑑別(下図)が重要です。
Carotid web | 動脈硬化 | 動脈解離 | 血栓 | |
狭窄 | まれ | あり | あり | あり |
部位 | ICA近位の後壁 | 物理的負荷が高い部位 | ICA近位から遠位へ波及 | どこでも |
形態 | 棚の様・整 血栓があると不整 | 不整 | 不整 Spiralの場合あり | 不整 浮動性の場合あり |
石灰化 | なし | あり | なし | なし |
時間による変化 | なし | あり(伸展または消退) | 改善 | 改善 |
その他 | 両側性の場合あり | 他血管の動脈硬化 | 真腔と偽腔の存在 | 形態が変化する |
・再発率は24-40%と高く報告されています(参考:ESUSは5%/年くらい、症候性頸動脈狭窄は20%?年くらい)。内科治療抵抗性の場合も多いとされています。
検査/診断
・CTAが第1選択(エコー検査では描出しきれない)
*左図DSAで血流のうっ滞を示している(B)。また右図は血流動態を可視化したもので、carotid webの遠位に血流のうっ滞を認めている(A)
*Liang S, Qin P, Xie L, Niu S, Luo J, Chen F, Chen X, Zhang J, Wang G. The carotid web: Current research status and imaging features. Front Neurosci. 2023 Feb 13;17:1104212. doi: 10.3389/fnins.2023.1104212. PMID: 36860618; PMCID: PMC9968728.より引用(free閲覧可能)
治療
・エビデンスの集積が十分ではなく確立していないです。
・内科的管理の場合は病態が血流うっ滞なので抗凝固薬を使用する場合、またはエビデンスが十分ではないことを踏まえてESUSに準じて抗血小板薬を使用する場合など様々です。
*抗血栓薬により組織がremodelingすることはない(動脈硬化性の病変と異なり)
・CEAやCASといった外科的介入を行う場合もあります。
・
参考文献
・J Neurol Neurosurg Psychiatry 2020;91:1283–1289. carotid webに関するreview article
*最初の報告 Rainer WG, Cramer GG, Newby JP, et al. Fibromuscular hyperplasia of the carotid
artery causing positional cerebral ischemia. Ann Surg 1968;167:444–6.