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転移性脊髄圧迫 metastatic spinal cord compression

腫瘍が椎体転移し硬膜外から脊髄を圧迫する病態で、神経救急の病態として非常に重要です。

背景知識

担癌患者の約5%に認めると報告されています(Neurology 1959;9:91-106.)。
・原因腫瘍:前立腺癌・乳癌・肺癌(それぞれ15-20%を占める)>非ホジキンリンパ腫・腎細胞癌・多発性骨髄腫(それぞれ5-10%を占める)
腫瘍の初期症状となる場合が約20%ある:特に肺癌の場合は約30%が同病態が初発症状となる場合がある Neurology 1997;49:452-56.

部位:胸椎60%>腰仙椎 25%> 頸椎 15% *複数部位に認める場合20-35%
椎体 85% > 椎体周囲 10-15% > 硬膜外腔:前方または前側方から圧迫することが多い

臨床像

背部痛が初発症状として最多95%
・背部痛から転移性脊髄圧迫の診断に至るまでの期間は約2か月
夜間・仰臥位/Valsalva負荷で増悪:硬膜外静脈叢に圧がかかることが機序とされている
*通常の椎体変性疾患では仰臥位により疼痛が改善する点が1つ鑑別点として重要
担癌患者の新規背部痛・頸部痛は必ず脊椎転移を考慮する必要がある

脊髄圧迫症状:運動障害・感覚障害・膀胱直腸障害
神経症状が出現すると時間~日単位で急激に増悪する “once a neurologic deficit appears, it can evolve rapidly to paraplegia over a period of hours todays.” N Engl J Med. 1992 Aug 27;327(9):614-9.

検査

MRI(gold standard):上記の通り複数部位に転移を認める場合があるためwhole spineでの撮像が望ましい・造影MRIが理想
・変形性腰椎症は高齢者になると無症候性に画像で指摘できる場合が多いため注意

治療

目的:神経障害の進行抑制(または改善)+疼痛管理

1:ステロイド
・決まったレジメンは存在しない

2:放射線治療

3:外科的手術
・椎体転移が多いため前方アプローチとなり、後方の椎弓切除術では除圧が不十分かつ椎体の不安定性が増す(椎体自体が転移で弱い状態で後方の椎弓も手術すると全体として不安定になる)ため有用性は確立していなかった。J Neurosurg 1980;53:741-748.
・その後手術で前方アプローチを放射線治療に追加することが放射線治療単独よりも効果があるRCTが発表され(Lancet 2005;366:643-648.)手術の選択肢も挙がっている。
*non-blinded RCT primary outcome: 歩行可能 手術併用群(n=50) vs 放射線単独群(n=51)= 84% vs 57% OR 6.2(95%CI 2.9-19.8)によりearly terminationとなっている。

*もちろん疼痛管理が重要なのは述べるまでもなし

その他
・IVR:腫瘍塞栓術による縮小効果を狙う方法
・化学療法:現病に対してはもちろん行うが、神経所見の進行スピードに対して腫瘍縮小効果が時間的に追いつかない

参考文献
・N Engl J Med. 1992 Aug 27;327(9):614-9. 古い転移性脊髄圧迫のreviewですが、さすがNEJMという素晴らしい内容で30年経った今でも臨床像を分かりやすく解説しています
・Lancet Neurol 2008;7:459-66. 素晴らしいreviewで良く引用されている
・Cancer 2017;123:1106. 素晴らしいreview 上記のよりも新しい内容なので治療法に関して新しい知見が多い