注目キーワード

抗リン脂質抗体症候群と脳梗塞

臨床をほそぼそと続けていると勉強してこなかったテーマにぶち当たります。恥ずかしながら今まで抗リン脂質抗体症候群と脳梗塞に関して文献を読んでいなかったため勉強します。まだ少ししか調べられていないですが、少しずつ追記していきます。

脳梗塞の原因

・SLE合併例は心内膜損傷によるLibman-Sacks心内膜炎、非細菌性疣贅などによる心臓からの塞栓機序が多いが、非合併例も同様に心原性塞栓症を呈することが多い。若年性脳梗塞の原因として重要。

参考:APS患者の経食道心エコー検査での心臓評価 Stroke. 2005;36:592-596.
・31例のPrimary APS(SLE合併なし) 内:12例は動脈塞栓、17例は静脈塞栓既往あり
・心臓障害 83.8%, 僧帽弁閉鎖不全症 77.4%が最多
・弁の器質的障害 58%: 弁肥厚, 結節*僧帽弁の前尖 脳梗塞症例は全例弁障害あり
・心内塞栓源 5例(右心耳2, 右室1, LAA1, LV1)
・左心耳は障害なし

心臓の塞栓源精査のためにAPSの脳梗塞症例は全例経食道心エコーするべきと記載あり(Curr Rheumatol Rep 2012;14:99–106.).

急性期治療

・一般的にはワルファリンへつなぐためヘパリン→ワルファリンとするが、通常の心原性塞栓症のように出血性梗塞のリスクを考慮した抗凝固薬開始時期にするべきなのか?に関しては良い文献を見つけられない。急性期の動脈塞栓再発と出血性梗塞のリスク/ベネフィット評価は既報で十分でなし。

2次予防(再発予防)

ワルファリン:推奨 目標 INR=2.0-3.0 *(場合によっては3.0-4.0考慮)

■ワルファリン目標値INR=3.1-4.0 vs INR=2.0-3.0 double-blinded RCT N Engl J Med. 2003;349:1133–1138.
・塞栓症既往あるAPS患者114人(動脈塞栓既往 14例・静脈塞栓既往 42例) 2.7年追跡
・塞栓症再発 10.7% vs 3.4% HR3.1 (0.6-15.0)
*動脈塞栓症既往の場合 HR3.1(0.3-30.0)
・ ワルファリンのINR目標を>3にすることの優越性示せず。 *動脈静脈いずれも含む

ワルファリン目標値INR=3.0-4.5 vs INR=2.0-3.0 open-label RCT(WAPS) J Thromb Haemost 2005; 3: 848-53.

・塞栓症既往APS109例 動脈塞栓既往 38.9%/41.8%*実際のINR 3.2 vs 2.5
・塞栓症再発 11% vs 5.5% HR 1.97(0.49-7.89)
*脳梗塞発症 2例 vs 2例, TIA 2例 vs 1例
・出血 27.8% vs 14.6% HR 2.18(0.92-5.15)
・優越性示せず

上記2つのRCTまとめ(下図)
・INR=2.0-3.0推奨
・ただ上記研究はいずれも約70%は静脈塞栓症であり動脈塞栓症は数が少ない点に解釈上注意が必要

DOAC:使用しないことを推奨

リバロキサバンはワルファリンと比較して血栓症多く出血リスク高い:高リスク群(抗体LA+Cardiolipin+β2GPI陽性)のAPS患者リバロキサバン vs ワルファリンINR=2.5のRCTでリバロキサバンの方が血栓症多い結果でearly terminationになっている(塞栓症 リバロキサバン 12% vs ワルファリン 0例, 出血合併症 7% vs 3%)Blood. 2018;132:1365–1371.

・APS塞栓症既往190例でのリバロキサバン vs ワルファリン(INR=2-3, or 再発繰り返している場合は3.1-4目標)塞栓症再発に関しての非劣性試験(non-inferiority margin=1.40)。3年間フォローアップ塞栓症再発 DOAC 11.6% vs Warfarin 6.3% RR 1.83(0.71-4.76), 脳梗塞は 9例 vs 0例, 出血は6.3% vs 7.4% RR 0.86(0.30-2.46)。非劣性証明できず、むしろ有意差ないが塞栓症増加の傾向あり。Ann Intern Med. 2019;171:685–694.

・アピキサバンでの臨床試験(ASTRO-APS) 

・Meta-analysis(既報DOAC282例, Warfarin 294例)ではAPS塞栓症既往での動脈塞栓症再発に関してDOAC vs Warfarin OR 5.17(1.57-17.04)と上昇、静脈塞栓症再発に関して OR 0.69(0.23-2.06)と有意差なし。出血はリスク上昇なし。Autoimmun Rev 2021 Jan;20(1):102711.

ガイドラインでの記載(動脈性塞栓)

AHA/ASA 2021 Guideline for the Prevention of Stroke Stroke. 2021;52:e364–e467.

・2a: APSと確定し何している例ではワルファリン治療・目標INR=2-3 *>3は出血リスクが上回る
・3 Harm: APS+血栓症の既往または抗体3つ陽性(LA, aCL, β2GPI)の場合はリバロキサバンは使用しないことを推奨(ワルファリンと比較して血栓症増加)

EULAR Recommendations Ann Rheum Dis 2019;78:1296–1304.

初回の動脈塞栓症
A:ワルファリン>低用量アスピリン 2b/C
B:INR=2-3 or 3-4推奨(個別の出血と塞栓再発リスク評価により) 1b/B
*ワルファリンINR=2-3 +低用量アスピリンは考慮されうる 4/C
C:リバロキサバンはtriple aPLの動脈性塞栓症で使用するべきではない 1b/B
*動脈塞栓症のAPSでDOACを使用するべきではない 5/D

再発性動脈塞栓症(ワルファリン治療にも関わらず)
・その他の原因を考慮した後、INR=3-4目標・低用量アスピリン追加・LMWHへの変更が考慮される 4-5/D

参考文献
・Curr Rheumatol Rep 2012;14:99–106. APSでの脳梗塞managementのreview ただ2012年と少し古いことが難点で上記臨床試験が含まれていないもの多いです