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脳梗塞におけるプラスグレル

プラスグレル(エフィエント®)は心筋梗塞で使用されますが、脳梗塞で有用かどうか?は結論が出ていませんでした。近年複数の臨床試験が発表されています。なぜ海外で承認されていけれど日本のみで承認されているのか?あえてプラスグレルを使うべき状況はあるのか?そもそも解釈の間違いが多いのではないか?などいろいろ気になるところがあり調べた内容をまとめます。

心筋梗塞領域でのガイドライン記載

“TRITON-TIMI 38” N Engl J Med. 2007;357(20):2001-2015.

・ACSでのプラスグレルとクロピドグレルの比較検討RCT
・primay composite outcomeの心血管死+心筋梗塞+脳卒中はプラスグレル群 9.9% vs クロピドグレル群 12.1%と有意差あり(心筋梗塞が引っ張っている)
・大出血はプラスグレル群2.4% vs クロピドグレル群 1.8%と有意に上昇
→post hoc解析で75歳以上, 体重60kg未満は有意に出血合併症上昇
・脳卒中またはTIA既往患者で脳卒中はプラスグレル群で6.5% vs クロピドグレル群 1.2%と有意に上昇

“2021 ACC/AHA/SCAI Guideline for Coronary Artery Revascularization” J Am Coll Cardiol . 2022 Jan 18;79(2):e21-e129.7.

3: Harm B-R “In patients undergoing PCI who have a history of stroke or transient ischemic attack, prasugrel should not be administered.”

→つまりTIAや脳卒中既往患者にプラスグレル使用は禁忌(PCI実施する患者において)

PRASTRO-Ⅰ Lancet Neurol 2019; 18: 238–47.

簡単に概略:非心原性脳梗塞(75歳未満・体重50kg以上)で発症1週間以降の患者において、プラスグレル3.75mg と クロピドグレル75mgによる再発予防効果を検証する非劣性試験

サブグループ解析:病型・CYP2C19遺伝子多型・年齢(65歳前後)・性別・体重(60kg前後)などでいずれも有意差は指摘できませんでした
*特に着目すべきはCYP2C19遺伝子多型に関しても有意差は認めませんでした

まとめ
・前提条件として非劣性試験である点に注意:primary endpointの複合outcome(脳梗塞+心筋梗塞+その他血管障害による死亡)に関して非劣性は示せず *だからといって「同等である」ということ言えない(必要でも十分でもない)
・サブグループ解析でCYP2C19遺伝子多型でも有意差は指摘できず

管理人の気になった点
・複合エンドポイントですがそのほとんどが脳梗塞の再発
・平均約62歳と日常臨床で最もよく遭遇する患者よりはやや若いイメージがある
・薬剤は超急性期から導入した訳ではなく、1週間後からの導入である そしてプラスグレルのloadingは行っていない

PRASTRO-Ⅱ Cerebrovasc Dis 2020;49:152–159.

簡単に概略:上記PRASTRO-Ⅰから今後は出血リスクが高い高齢者または低体重患者に的を絞ってプラスグレルの安全性を検討

まとめ
・出血合併症・複合エンドポイントいずれも有意差なし

管理人の気になった点
・プラスグレル3.75mgで脳梗塞発症が0%であった点がdiscussionで強調されているが、そもそも統計学的有意差は指摘できていない点とそんなこといったらクロピドグレル群は致死的出血が0%であったことにもスポットを当てるべきであり非常に違和感を感じる

PRASTRO-Ⅲ J Atheroscler Thromb, 2022; 29: 000-000.

簡単に概略:今までの試験結果からプラスグレルが有効であろう群を抽出して(具体的にはラクナ梗塞・アテローム血栓性に絞る・またリスク因子をゆする)検討

すみませんsupplementary figureがダウンロードできず inclusion/exclusion criteriaが十分でないすかすかな内容です

まとめ
・統計学的有意差はいずれの項目もなし

管理人の気になった点
・discussionを読んでいてかなり混乱しました 同等性を証明しようとした臨床試験でなくともこのような表現が可能なのでしょうか・・・・?

結局のところどうなのか?(私見)

以下は上記臨床試験を読んで管理人が思った私見です。施設によって考え方の違いや情報の重みづけが違う点があると思いますので絶対的なものではなく、あくまで個人の意見として参考にとどめてください

問題なのはそもそもプラスグレルはクロピドグレルに対して非劣性も一度も証明できていないという点です
・現状のエビデンスからはクロピドグレルに対して再発予防のありとあらゆる状況でプラスグレルが1st choiceになる状況はないと思います
・またこれはACS/PCIでのデータですがそもそも脳卒中またはTIA既往はガイドライン上プラスグレル禁忌となっています
そもそもなぜ本薬剤が脳梗塞再発予防において承認に至ったのかすら全く理解できません
・そもそも急性期治療で有用かどうかはわからないし、アスピリンとの2剤併用で有用か?どうかに関しては全くデータがありません(この点を拡大解釈されてしまっていないか懸念があります)
・また上記の急性期のことと関係していますが、loadingをしていない点も注目すべき点であり、この点に関しては全く分からないです(ACSではloadingを行う)
・もちろん代謝機序の面からはプラスグレルの方がクロピドグレルよりも良いことが期待されますが、臨床試験の結果からはあえて初手からクロピドグレルの代わりにプラスグレルを使用する根拠はないと個人的には考えます

ではいつプラスグレルを使用するのか?
・個人的には臨床試験の結果からはいつ使用すべきという状況を示すことが出来ておらず「使わない方が良い」と思います
・CYP2C19遺伝子多型の解析はあくまでもサブグループ解析なので、最初のinclusion criteriaとしてこの遺伝子多型を組み込むことでクロピドグレルと比較するのが個人的には最も実臨床での疑問と基礎的背景を答える試験になるのではないか?と思います
・個人的に懸念することは承認されたことで「プラスグレルを脳梗塞の再発予防に使っても良い」と勘違いが生じることです。非常に危ない状況で危機感を抱いています。