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GFAP astrocytopathy

2016年Fangらが報告した疾患概念で近年報告が非常に増えています(JAMA Neurol. 2016;73(11):1297-1307.)。まだまだ途中なので追記していきます。

背景に関して

・腫瘍合併:約1/5の症例に認める 最多は卵巣腫瘍 teratoma
・自己抗体合併:NMDAR>AQP4
・感染先行:約30-40% 上気道症状など parainfectiousの可能性あり

臨床像

先行症状:40%
症候群:髄膜脳炎 55%, 髄膜脳脊髄炎 40%, 脊髄炎 5%
せん妄 60%, てんかん発作 20%, 精神症状30%(うつ・不安・精神症状・不眠・悪夢), 頭痛項部硬直嘔吐 60%, 視野異常 30%(乳頭浮腫), 振戦 40%
脊髄障害 25%
失調 40%, 自律神経障害 20%, 末梢神経障害<5%

GFAP astrocytopathy 102例の検討 ANN NEUROL 2017;81:298–309

・発症年齢:44歳 女性54%
・臨床像:脳炎 42%, 髄膜脳炎 12.5%, 脊髄炎 10.5%, 脳脊髄炎 8%, 末梢神経障害 8%, 髄膜炎 5%
・髄液:細胞数上昇(>5/μL) 88% 中央値 78.5(13-550), 蛋白上昇(>35mg/dL) 83% 中央値80(44-205), 糖低下(<40 mg/dL) 18% 中央値 37mg/dL, OCB≧4+ 54%
・Mayo clinic 38例の検討:
・MRI画像(頭部):Gd造影→perivascular radial enhancement 53%(血管炎に似るがDSAは全例陰性), leptomeningeal enhancement 22%, epndymal 9% DWI→全例正常 
*18%はMRI画像正常
・MRI画像(脊髄 n=8):長大病変≧3椎体 75%, linear-appearing central canal enhancement 21%
・腫瘍合併:34% 腫瘍のうち66%は発症2年以内に発見 最多は卵巣teratoma
・感染:29%はインフルエンザ様の症状が神経症状に先行あり
・抗体共陽性:NMDAR 22%, AQP4 10%

GFAP astrocytopathy 46例の検討 Neurology ® 2022;98:e653-e668.

発症年齢中央値:43歳(6-84歳*小児8例) 男性65%
先行感染症状随伴:82%
他の自己免疫疾患随伴:22%(抗体11%) 腫瘍合併:24% T細胞機能障害:23%
臨床像:髄膜脳炎 85%, 小脳障害 57%, 脊髄炎 30%, 視野障害35%, 末梢神経障害 24%
急性または亜急性経過 85%
造影MRI:periventricular radial enhancement 32%, 点状高信号T2 41%, 脳幹障害 31%, 軟髄膜造影効果 26%, 脳梁膨大部病変可逆性 4例

GFAP astrocytopathy 14例報告(日本)  J Neuroimmunol. 2019 Jul 15;332:91-98.

炎症性中枢神経病態全体の6.2%(14/225例)で抗体検出
発症年齢 44歳(18-66歳)、女性43%
臨床像:初発症状 発熱93%, 頭痛79%, 嘔気 29%, 食思不振 21%, 倦怠感 14%, 頸部痛 14%
発症から入院までの時間:9.5日(4-22日)
神経所見:意識障害 79%, 髄膜刺激徴候 71%, 振戦(またはミオクローヌス) 64%, 腱反射亢進 57%, 自律神経障害 57%, 失調 43%, 精神症状 36%, 呼吸障害 29%, 記憶障害 21%, けいれん 14% 低Na血症 57%
腫瘍:卵巣腫瘍(ovarian teratoma)2例
髄液:細胞数 148/μL(25-378), 蛋白195 mg/dL(71-286), ADA 13(7-16.2)*最高値
*細胞数上昇は月単位で遷延あり
脳(実施14例):T2異常信号 64%, 基底核 57%, 視床43%, 大脳白質 36%, 脳幹 36%, 内包 14%, 視床下部 14%
脳造影(実施9例):異常造影効果78%, linear radial enhancement 44%, 脳幹表面と頚髄 19%, 左側頭葉髄膜 11%
脊髄(実施8例):異常信号 25%
脊髄造影(実施7例):異常造影効果6例 表面5例・髄内1例
治療:ステロイド(13/14例) 発症からステロイド治療開始までの期間14日(8-71日)*抗結核薬投与は11例あり ステロイドパルス療法 中央値2回(1-4回) 開始量PSL 60mg/日(中央値)
予後:入院期間48日(21-148日)  ここでは再発症例なし

検査・診断

GFAPα抗体(IgG):髄液で測定する(CBA法)

結核性髄膜炎との鑑別に関して

・GFAP astrocytopathyと結核性髄膜炎は髄液所見・臨床像が似ることが報告あります(以下に報告を列記します)
・髄液所見は単核球優位の細胞数上昇+糖低下+ADA上昇を認め(糖低下の症例やADA上昇の症例も多い点が自己免疫機序としては珍しくポイントなのかと思います)、これは結核性髄膜炎の典型的髄液所見と同様です
・OCBが陽性になれば結核性髄膜炎として合わない点ですがGFAP astrocytopathyでも必ずしも陽性とならないため陰性の場合は判断が難しいです
・特に抗結核薬を開始する際はステロイドも併用するためGFAP astrocytopathyとしてもステロイドに反応してしまい症状が改善する場合がある点で治療効果判定からも判断が難しいです(この点も既報からかなり特徴的です)
・その他の随伴所見として乳頭浮腫・脊髄病変・不随意運動などを認める場合はGFAP astrocytopathyとの鑑別上有用かもしれません
・個人的に気になるのが過去に報告されていた培養陰性の結核性髄膜炎とされている症例に多くこのGFAP astrocytopathyが含まれているのではないか?という点です

髄液ADA上昇に関して Intern Med. 2021 Sep 15;60(18):3031-3036.

1:GFAP astrocytopathyでのADA上昇症例報告:29歳男性既往なし
現病歴:1週間経過の発熱で受診・意識清明・項部硬直あり
採血:CRP 0.29 mg/dL, Na=127 mEq/L
髄液:初圧240mmH2O, 細胞数 46/μL(lymph33, neutro 13), 蛋白 108 mg/dL, 糖 44mg/dL(血液 92mg/dL)・ADA=23.0 IU/Lと著増, 結核菌陰性, OCB negative
その後尿閉と便秘出現・ミオクローヌスが上肢に出現
*ADAは無治療期間も自然と低下している
画像:最初は発症10日後脳梁膨大部病変→その後発症15日後深部基底核病変と発症25日後橋病変が出現
2:既報literature review :21例の中枢神経疾患での結核以外ADA上昇 14例がGFAP astrocytopathy, 3例がirAE

結核性髄膜炎と似た臨床像を呈したGFAP astrocytopathy2例の報告 Multiple Sclerosis and Related Disorders 45 (2020) 102350

症例1:40歳男性(既往なし) 40.5℃の発熱、頭痛、嘔吐で受診 5日後に排尿障害出現 1週間後にNeurology受診そ項部硬直あり(意識状態保たれる)
髄液:初圧>330mmH2O, 細胞数225(mono94%), 蛋白205 mg.dL, 糖低下 28.8 mg/dL 各種培養陰性 *ADA記載なし
頭部MRI:側脳室周囲に線状造影効果あり 脊髄MRI:陰性
ステロイドパルス療法:劇的に改善あり
症例2:23歳女性(既往なし) 39.8℃発熱、2日後頭痛、発症9日後意識消失あり、項部硬直あり
髄液所見:初圧168mmH2O, 細胞数300(mono97%), 蛋白155 mg/dL, 糖27mg/dL *ADA記載なし
当初はウイルス性髄膜炎考慮され治療も改善せず
造影MRI:放射状造影効果あり

結核性髄膜炎との鑑別を要したGFAP astrocytopathy症例報告 BMJ Case Rep . 2022 Nov 18;15(11):e252518.

70歳代男性 10日間持続する発熱+頭痛で近医受診 2か月間倦怠感+1か月食思不振あり
髄液所見:細胞数23/μL(mono99%), 糖52mg/dL(血糖138mg/dL), 蛋白112mg/dL, ADA 9.6 IU/L
IGRA +
転院後 体温38.0℃ 項部硬直なし 採血CRP0.34mg/dL
髄液所見2:細胞数32/μL(mono100%), 糖49mg/dL(血糖136mg/dL),蛋白105mg/dL, ADA 10.0 IU/L
転院後10日間倦怠感と食思不振増悪、食事経口摂取困難でベッド臥床状態に
12日後抗結核薬開始 デキサメタゾン開始 ゆるやかに改善
26日後髄液:細胞数39/μL(mono100%), 糖61mg/dL(血糖136mg/dL), 蛋白 63mg/dL
40日後造影MRI:右前頭葉に造影効果ある微小病変 その後髄液OCB+で帰ってくる 抗GFAP抗体提出 その後陽性と判明

結核性髄膜炎と類似したGFAP astrocytopathy症例のcase series International Journal of Infectious Diseases 124 (2022) 164–167

症例1:56歳男性 発熱・頭痛・吃逆 項部硬直・企図振戦あり
髄液:細胞数151, 蛋白150mg/dL, 糖54mg/dL(血糖値113mg/dL)
造影MRI:脳幹周囲の軟髄膜に造影増強効果あり
抗結核薬とステロイド開始 2週間後改善あり
デキサメタゾン終了とともに症状再燃 造影MRIでperiventricular radial enhancement 髄液GFAP抗体陽性

症例2:43歳男性 発熱・意識混濁・項部硬直
髄液:初圧29cmH2O, 細胞数 287, 蛋白 237, 糖低下 1.8mmol(血糖4.7mmol)
造影MRI:軟髄膜造影効果 diffuse
経過:全般性てんかん発作でけいれん 挿管管理
抗結核薬とステロイド開始へ 脊髄造影効果あり その後抗GFAP抗体陽性判明

症例3:59歳女性 発熱・頭痛・意識障害・嘔吐
髄液初圧:21.2 cmH2O, 細胞数 505, 蛋白119, 糖2.2mmol/L(血糖値5.4mmol/L)
MRI:軟髄膜造影効果あり
抗結核薬とステロイド開始 2週間後軟髄膜造影効果は消失 その後抗GFAP抗体陽性判明

画像所見が遅れて出現する eNeurologicalSci. 2022 Apr 30;27:100403.

39歳男性既往なし 発熱上気道症状2週間持続 意識障害あり上肢の不随意運動あり
髄液:細胞数93/μL(mono 92%), 蛋白296.1 mg/dL, 糖 45 mg/dL, ADA 14.9 IU/L, OCB-
頭部MRI:3日後は左頭頂葉の造影効果
抗結核薬とステロイドで治療開始 改善
頭部MRI:11日後に基底核・小脳・視床・橋に異常信号出現(遅れて出現)
結核培養・DNA陰性 抗GFAP抗体髄液陽性判明 抗結核薬は47日で終了
髄液フォロー(40日):細胞数9/μL, 蛋白 46.4 mg/dL, 糖 47 mg/dL, ADA 3.0 IU/L

メッセージ:典型的画像所見は遅れて出現する場合があるため注意が必要

治療・経過

・ステロイド治療反応性良好とされている 前向き研究はなし・観察研究のみ
・単相性の経過が多いが、約20-50%は再発する経過で長期免疫治療が必要となる

*Curr Opin Neurol 2019, 32:452–458での記載
・ステロイド PSL 60mg/day 3か月→Δ10mg/月ごとに減量し10mg/日まで減量→その後はΔ1mg/月で減量していく方法
・免疫抑制剤併用:MMF1000mg 1日2回 または アザチオプリン2.5mg/kg/day