先日既報のTEAと臨床像がほぼ合致し、脳波上もcomfirmできた症例を外来で経験しました(確定診断例は実ははじめてです)。TGAの方が臨床像遭遇する機会は圧倒的に多いですが(TGAに関してはこちらのまとめをご参照ください)、重要な対立鑑別なので勉強した内容をまとめます。
臨床像
・TGAと同じく発作性の前向性健忘+逆行性健忘が臨床上の特徴でその他の高次脳機能障害は伴いません。また自動症などを伴う場合があります。
・逆行性健忘は日単位、年単位までさかのぼって障害される場合があります。
・TGAは発作中以外は認知機能障害の進行はないですが、発作間欠期に“accelerated forgetting”と“autobiographical amnesia”を認める点がポイントです。
*”accelarated forgetting”は数分前のことは覚えているが、日~週単位のことを忘れてしまう現象で、通常のMMSEなどで評価する前向性健忘の評価ではもれてしまう点が問題です。この点に関しては後述します。
・以下に臨床上の特徴をまとめた論文を紹介します。
■TEA50例のまとめ Ann Neurol 2007;61:587–598
・年齢62.1歳、性別(男性34例、女性16例)
・発作の特徴:発作頻度12回/年(つまり月1回)、発作の持続時間:30~60分(70%は1時間以内)、抗てんかん薬による発作頓挫96%
・誘因:起床時の発症74%(その他の誘因は指摘できず) *20%は非特異的な不動感や嘔気を健忘症状の前に訴えている
・症状:質問を繰り返す(「私はどこにいるの?」「私は何をしているの?」「今日は何日?」)50%、幻臭42%、自動症36%、短時間の無反応24%
・発作間欠期の特徴:自分の過去に関しての部分的な記憶喪失70%、”accelerated forgetting” 44%
・脳波異常:37%(側頭領域または前頭側頭領域)
鑑別点
・発作時間:短い(<1時間) TGAは半日程度持続する
・状況:起床時から認める この点も病歴上特徴的
・頻度:月1回程度 TGAは基本的に人生で繰り返すことなし
・発作間欠期の記憶障害:あり TGAでは通常認めない
治療
・抗てんかん薬の反応性は良く、通常は部分発作に対しての薬剤(ラモトリギン、レベチラセタム、ラコサミドなど)を使用する。
・ただinterictalの認知機能低下に関して逆行性健忘に関しては治療できないとの報告もある(accelerated forgettingはtreatableであるとされているが)。
Accelerated long-term forgetting
・MMSEなどの外来で行う簡易的な高次脳機能検査では検出することができない健忘として注目を浴びているのがこの”accelerated forgetting”という概念です。TEAのinterictalで指摘されることが端緒となり、その後その他の病態(特に側頭葉てんかん)でも認めることが知られるようになってきました。
・物忘れとして受診して、「MMSE」の前向性健忘の項目が満点だと私たちは「うん物忘れ大丈夫ですよきっと」と突き返してしまいそうになりますが、このような分~時間単位の記憶ではなく、日~年単位の記憶が障害されるため簡単な検査では検出できない点が問題です。最近この概念に注意が必要と感じています(患者さんと家族は困っているが、医療者が検査して問題ないと突き返してしまう可能性がある)。
・特に睡眠中(interictal, non-REM睡眠)のてんかん性活動が記憶に干渉する機序が想定されています。昔から「睡眠と記憶の関係性」に関しては指摘されていますが、この重要なテーマにも関与してくる概念でおそらく今後いろいろ検討がされているテーマと考えています。
参考文献
・Epilepsy & Behavior 31 (2014) 243–24 TEAに関してまとめたreviewで短く(3ページ!)よくまとまっていて読みやすいです。
・Epilepsia. 2021;62:563–569. ALFに関してのまとめ