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てんかんと精神症状

最近私の臨床はもっぱらこのテーマで悩まされています。調べると用語の統一などもいまいちであり、なかなかsolidな議論をしにくい内容ではありますが、調べたことをまとめさせていただきます(ほとんど自分用の知識整理で恐縮です)。報告により様々ですがてんかん患者さんに精神病合併は2-7%と報告されています。

ictal psychosis 発作時精神病

■臨床像
・部分(焦点)発作の症状(ictal)として精神症状(不安、恐怖、気分障害、性格変化など)を呈するもの。起源としては側頭葉内側由来が多い(脳波での確認が必要)。自動症、上腹部不快感や離人症(depersonalization)を伴うこともある。
*具体例”In some cases, it resembles a real-life experience such as suddenly finding a stranger standing close behind, and may also be associated with an unpleasant psychic hallucination of past events.”  引用元:”Ictal Fear: Semiologic Characteristics and Differential Diagnosis with Interictal Anxiety Disorders” J Epilepsy Clin Neurophysiol 2006; 12(2):89-94
*一般的にてんかんに合併する精神合併症として不安障害やうつは15-25%と報告されている。
・持続時間:数秒~1,2 分単位(短いことが特徴
・「発作的な精神症状」を呈するため、パニック障害(死の恐怖・予期不安などがポイント)との鑑別が重要(下図)。当初精神疾患と誤診され抗うつ薬や抗精神病薬で治療が開始されてしまうと、逆に発作頻度が増加する点もポイント。
・ictal psychosisとしては、てんかん発作らしく「毎回同じ症状を繰り返す」という点に着目することが重要。

■治療
・てんかん発作のコントロール(つまり抗てんかん薬投与)が最優先
・抗精神病薬は不要

*管理人の疑問:ictal psychosisを呈する場合の発作コントロールの抗てんかん薬は精神症状に悪影響を与えない薬剤の方が望ましいのか?それとも発作と割り切って気にしなくてよいのか?

post-ictal psychosis 発作後精神病

■臨床像 てんかん精神病全体の25%を占める
・発作の後(単回の発作後のことはまれであり、発作が群発した後などが多い)、清明期(lucid interval:ほぼ必ずあり 8~72時間)を経て発症する、症状の持続時間は平均約9日(長いと3か月程度)
・精神症状は幻覚、妄想、宗教的なものなどさまざま
*95%が1か月以内に精神症状が寛解する
てんかん発症(初回診断)から10~20年後に発症することが多い
・原因としては側頭葉てんかんに多い
・約1/3は最終的に慢性精神病に伸展する

*post-ictal psychosisの持続時間に関して Epilepsia, 48(8):1531–1537, 2007
・58人、全151回のpost-ictal psychosisのエピソードに関して
・背景:側頭葉てんかん46例、前頭葉てんかん7例、後頭葉てんかん2例、その他3例、発症年齢平均17.3歳(1-60歳)、精神症状発症平均34.1歳(16-69歳)
・持続時間:平均9.2日(中央値6日)
・47.7%は5日以内に改善し、61.6%は7日以内、71.5%は10日以内、80.8%は14日以内、96.7%は30日以内に症状消失

■診断基準 参考:Br J Psychiatry 1998:152:246-252.
・発作後に精神状態が一度正常に戻ってから1週間以内に生じるもうろう状態・精神病状態
1:持続時間は最低24時間、最高3か月
2:以下の精神症状を呈する
・意識混濁、見当識障害、せん妄
・意識清明下での幻覚、妄想
・上記の混合状態
3:以下の要因が否定できること
・抗てんかん薬の副作用・中毒
・発作間欠期精神病の既往
・てんかん重積
・頭部外傷、アルコール依存、薬物依存

■ILAE”The classification of neuropsychiatric disorders in epilepsy: A proposal by the ILAE Commission on Psychobiology of Epilepsy”  引用元:Epilepsy & Behavior 10 (2007) 349–353

“Postictal psychosis follows clusters of seizures (rarely single seizures) usually after a 24- to 48-hour period of relative calm (the lucid interval). These episodes can last from a few days to several weeks, but usually subside in 1 or 2 weeks. Confusion and amnesia may be present. The content of thought is paranoid, and visual and auditory hallucinations may be present. Manifestations are often polymorphic, with affective features and a strong religious theme.”
Include cases with a clear history of a cluster of seizures or an isolated single seizure (in a patient who has been seizure free). The first manifestation of abnormal behavior should occur within a 7-day period from the last seizure.
Exclude postictal confusion and nonconvulsive status with psychiatric manifestations.

■鑑別
・ictal psychosis:脳波で鑑別
・抗てんかん薬の副作用としての精神症状:これの鑑別が難しい(今まで有用な解答を得られていません)
*参考:抗てんかん薬による精神症状 引用元:「てんかんと精神障害」山田了士先生 Jpn J Gen Hosp Psychiatry Vol. 26 No. 1 (2014)

■治療
・抗精神病薬(~3か月)

interictal psychosis 発作間欠期精神病

・明確な定義がなくあいまいな概念であり、発作との時間的関係はないとされている。統合失調症との鑑別が問題。
・感情が保たれる点が統合失調症との鑑別点として記載がある。
・持続期間は数か月から数年単位であり、てんかん発症(診断)後10年以上経過してから発症することが多い。

下図は Pract Neurol 2018;18:106–114. より引用。

鑑別疾患

・辺縁系脳炎:感染症・自己免疫性
・薬剤、アルコール、中毒
・代謝性疾患:低血糖、ビタミンB1欠乏
・せん妄

てんかん患者の抗精神病薬 注意点

1:抗てんかん薬との薬剤相互作用

・カルバマゼピン、フェニトイン、バルビツール系などの酵素誘導の抗てんかん薬は抗精神病薬の血中濃度を下げるため注意が必要。
・特にクエチアピンはCYP3A4の影響を受けるため、これらの抗てんかん薬を併用することでクエチアピンの血中濃度が大幅に低下してしまう場合があるため注意。
・これらの代謝に影響を及ぼさない新規の抗てんかん薬は使用しやすい。
・逆に抗精神病薬が抗てんかん薬の血中濃度に影響を与えることはない。

2:抗精神病薬によるてんかんリスクの上昇に関して

クロザピン>オランザピン・クエチアピンが発作誘発リスクあり注意
リスペリドンは発作上昇リスクなしとされている
*上記は”Antipsychotics and seizures: higher risk with atypicals?””Seizure 2013;22:141-143より引用

参考文献
・Pract Neurol 2018;18:106–114. てんかんと精神症状に関するreviewとして秀逸
・Ther Adv Psychopharmacol 2019, Vol. 9: 1–10 これもよくまとまっていて秀逸
・「てんかんとその境界領域 鑑別診断のためのガイドブック」 監訳:吉野相英先生 出版社:医学書院
・J Epilepsy Clin Neurophysiol 2006; 12(2):89-94 “ictal fear”に関しての症例報告とpanic disorderとの鑑別に関して