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脳脊髄液減少症/脳脊髄液漏出症

先日久しぶりに脳脊髄液減少症の確定診断例を経験しました。この疾患は緊急性はそこまで高くないのですが、primary care医は知っておくべき疾患です(一見不定主訴にみえるため)。改めて勉強した内容をまとめました。

病態

病態の本質は「硬膜破綻による脳脊髄液の漏出」です。

ただ脳脊髄液が減少している様子を直接観察することが出来ません。ここで重要なのが「モンロー・ケリーの法則 脳 実質+脳脊髄液+血液=一定 」で、これによって脳脊髄液以外の容積に変化が生じ(=脳実質拡張→下垂体で分かりやすい、静脈拡張、硬膜拡張、場合によっては硬膜下水腫や血腫)この所見を造影MRI検査で観察することで間接的に髄液圧減少を推定するという診断プロセスをとります。ここをまず理解しないと病態がなかなかイメージしづらいかと思います。

「平成22年度厚生労働科学研究費補助金障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野)脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究班」を参考にして上図作成

では「どこから脳脊髄液が漏出しているのか?」という点が次の疑問になりますが、この点に関しては近年の画像診断技術の進歩により相当進化しており、シンチやミエログラフィーで評価を行います(この病態と画像検査の対応関係をきちんと理解することが重要です)。

最も多いとされているのは硬膜腹側部の欠損(特に胸椎領域)による脳脊髄液の漏出です(下図参照)。

その他の部位としては以下の指摘があります。

リスク因子としては結合組織が脆弱になるマルファン症候群、Ehlers-Danlos症候群、ADPKDなどが挙げられます。

こうした背景があり、誘因として外傷やバルサルバ負荷(いきむ、くしゃみ)などの刺激または医原性(腰椎穿刺、腰椎麻酔、硬膜外麻酔など)が加わると硬膜欠損を起こして脊髄液が漏出することで臨床像を呈するとされます。しかし、明らかな誘因を指摘できない場合も多く誘因がないからといって否定することはできません。

疫学

40歳前後が年齢のピークで、女性の方が男性よりも多いとされています。

臨床像

■起立性頭痛(orthostatic headache)
・発症様式:突然発症の場合もあり、発症日を明確に特定できる場合もあります。
・起立後15分以内に起こることが多いですが、数時間後に認める場合もあります。
・臥位後15-30分以内に改善する場合が多いとされています。
・部位/性状:いろいろ(片側性は少なく、両側性が多いとされています)・性状は「頭を首の方へひっぱられる感覚」など様々な表現があります
*当初は起立性が明瞭であっても、年月の経過と共に起立性の変化が明瞭ではなくなる場合が多い点に注意が必要です。(逆のパターンはほとんど認められない つまり頭痛が徐々に起立性に変化することはなし)
全ての症例において起立性に変化する要素があるわけではない(また逆に起立性頭痛であれば本疾患というわけではない
・間欠的な場合あり:間欠的なCSF leakの機序が関係しているかもしれない
*その他の症状もあり、不定愁訴として扱われてしまう場合が多い(本当に一見不定愁訴にみえてしまう場合が多く、特に慢性経過例では診断が難しくなります)

*参考:脳脊髄液漏出症での起立性頭痛の機序
1:硬膜の疼痛受容器に伸展が加わる
2:静脈周囲の疼痛受容器に伸展が加わる
→つまり低髄圧そのものよりも、「モンロー・ケリーの法則」により代償的に硬膜や静脈が伸展することで侵害受容器に伸展が加わることが機序なので、低髄圧自体と頭痛に相関関係はないとされています。

*参考:「立位で具合が悪い」の鑑別
自律神経障害:起立性低血圧による僧帽筋への血流低下によりcoat hanger headacheという後頚部痛~頭痛を呈することがあります(これは特に自律神経障害が強い患者さんでしばしば認めますが知らないと診断できない)
POTSこちらを参照)
副腎不全:なかなかこれも不定愁訴的になる場合があり疑わないと診断できない疾患です

その他の随伴症状(伴う場合が多い)
■耳鳴り・めまい  ”echoing” “being underwater”と表現される
・機序はリンパ婁への圧力の影響もしくは脳神経の位置がずれる(displacement)によるものが想定されています
頭痛が目立たずめまいが臨床像として目立つ場合もあります(自験例でも耳鼻科を最初に受診するケースや、「めまい」が症状として目立ち複数のめまい専門外来を受診するも数か月診断がつかず、紹介されてきて脳脊髄液漏出症であった症例の経験があります)

髄液検査

point:腰椎穿刺による髄液圧低下は診断に必須ではない!(むしろ「髄液圧正常の症例の方が多い」ことに注意)
→髄液では診断精度は変わらないとされている
*つまり先ほどの「モンロー・ケリーの法則」によって他の臓器が代償的に拡張することによって圧が保たれると、結果脳脊髄圧は低下しないためです。
*初圧6cmH2O以下:34-55%
逆に髄液検査によって低髄圧を助長して症状が増悪してしまう場合もあるため注意が必要。この点でまずは画像検査が1st choiceになると思います。

画像所見

■「低髄圧症」の画像診断

造影MRI検査(必ず造影が必要)が「低髄圧」を証明するための”gold standard”です。
*前述の通り「モンロー・ケリーの法則」による代償性変化を観察することで間接的に低髄圧症を証明します。

1:造影MRIでのDA patternの硬膜造影効果 80%
・基本的にDA patternであり(PA patternではなく:硬膜病変に関してのまとめはこちらを参照)、leptomeningesは障害されない傾向にあります
一様な造影効果(smooth  not nodular or bumpy lumpyと教科書には表現されています)・テント上/下いずれも
硬膜下血管が引き延ばされ、充血することによって起こるとされています
*CPAまで造影効果を認める場合あり、耳鳴りといった症状との相関関係も指摘されている

2:静脈拡張 venous engorgement 75%
・モンロー・ケリーの法則(脳 実質+脳脊髄液+血液=一定)により脳脊髄液 が減少すると代償性に血液が増加し、静脈が拡張する
*何mm以上を拡張とするか?といった明確な基準が存在しないため、「何をもって静脈拡張とするか?」の判断が難しい欠点があります

3:両側性硬膜下血腫・水腫  50%
画像診断のpoint:両側性硬膜下血腫を認める場合は低髄圧症を考慮するべき

4:脳実質の下垂(saggital sag) 60%
・脳室の狭小化、視床が互いに近づく
・視交叉のbowing(扁平化)
・橋前槽の狭小化(橋底部の斜台での)
・脳梁の下垂
・小脳扁桃の下垂

5:下垂体拡張 pituitary gland hyperemia
・脳実質の拡張を最も画像上確認しやすいのが下垂体です。

*注意点:脳静脈洞血栓症の合併
・これもよく指摘されている点で自験例でも皮質静脈の一部に塞栓症をきたした例を経験しました。静脈拡張により静脈うっ滞をきたすことが機序として想定されていますが画像では注意です。私はそれ以降脳脊髄液漏出症の診断では一応MRVも撮像するようにしています。

■「脳脊髄液漏出」の部位同定のための画像検査

・MRI FIESTA, CISSなど:CSF leak部位同定
・CT/MR myelography:CSFleak部位同定
・脳槽シンチグラフィー:硬膜外のRI集積 なかなか本検査の有用性には限界があります

治療

古典的に「脳脊髄液漏出症の治療=安静臥床+ブラッドパッチ」と思っていらっしゃる方が多いかもしれませんが、近年は画像診断の進歩により漏出部位の同定が可能な場合があり、その場合は整形外科での硬膜修復手術が根本治療として注目されています。たまたま私が前に勤めていた大学病院はこの領域に非常に力を入れていたため、患者さんをよく拝見しましたが確かにブラッドパッチよりも圧倒的な治療効果を臨床的に感じました。なので治療のRCTはまだ存在しませんし、ガイドラインなどではまだそこまで反映されていない点かもしれませんが専門的にきちんと脳脊髄液漏出部位の同定を画像検査で行い(これも慣れた施設の方が望ましいかもしれない)、専門的治療につなげることが重要ということをあえて強調させていただきます。

1:硬膜欠損部を同定できる場合→外科的縫合術を検討(整形外科で慣れた施設へ紹介)
2:上記同定できない場合→自己血硬膜外ブラッドパッチ(EBP: epidural blood patch)

保存的療法として安静臥床・補液・カフェイン摂取なども効果は限定的ですが行われる場合があります。報告によってはまずこの保存的療法で様子をみるとしている例もありますが、個人的には慢性化するとかなり治りにくくなるので早期から上記の治療を考慮するべきではないかと考えています。

自己血硬膜外ブラッドパッチ(EBP)は自己血が硬膜外に広がることで、それが器質化すると漏出部位を塞いでくれる(「のり」の様な役割を担う)ことを期待する手法です。とりあえず硬膜外を広がるのでleak pointがわからないでも行うblindの方法とleak pointが推定される場合に同部位を中心に注射をするtargetの方法があります。病院によって何科がブラッドパッチ行うか?は違うと思います(麻酔科の場合や脳外科の場合など)。

参考文献
・JAMA 2006;295:2286 おそらくreviewとして最もわかりやすいのではないかと思います。
・Curr pain headache rep 2017;21:37
・World Neurosurgery 2017;101:343 「低髄圧症」の間接的証明に用いる造影MRI検査所見を分かりやすくまとめている文献です。

PS:今年(2021年)のキングオブコントは本当に神回でしたね!個人的には「蛙亭」が最も好きで応援しています!(管理人)