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ataxic hemiparesis

先日右下肢に強い失調の患者さんが受診され、構音障害や注視誘発性眼振などがなく、「うーん絶対小脳性の失調なんだけどな・・・その他の支持する所見が弱いな・・・」と思った症例が左内包後脚の梗塞による”ataxic hemiparesis”でした。この例から分かるように個人的には「片側上下肢の失調を認め、脳神経領域で小脳失調を示唆する所見(構音障害や注視誘発性眼振)を認めない場合」に積極的に考慮するようにしています。ataxic hemiparesisの失調所見を小脳失調の失調所見と神経所見上から鑑別することは不可能と個人的には感じます。脳梗塞診療ではしばしば遭遇する病態です。

解剖学的には錐体路が障害されているが、麻痺よりも失調の臨床像を呈するものを”ataxic hemiparesis”と表現し(1978年Fisher先生が言葉を導入しました)、古典的なラクナ梗塞の症候としても取り上げられています。しっかりと麻痺があるとそもそも失調は評価困難ですが、この「麻痺の程度に比してさすがに失調が強すぎ」という臨床像がポイントと思います。

*参考:古典的ラクナ症候群
・pure motor hemiplegia
・pure sensory stroke
・”ataxic hemiparesis”→今回取り上げるのはこちら
・dysarthria- clumsy hand syndrome

機序

病態としては錐体路と小脳を連絡するcortico-rubral pathway, cortico-ponto-cerebellar pathway, cerebello-thalamo-cortical pathwayなどの経路が障害されることによって小脳失調を呈するとされています。

この小脳の障害を血流の点から証明した報告もあります(下図:Stroke. 2006;37:e1-e2.)が、これは必ずしも一対ー対応の関係にはなく、純粋な麻痺のみでも血流が低下することは指摘されている点に注意が必要です。このように実際に障害された部位と繊維連絡がある部位が遠隔的に障害されることを”diaschisis”(ダイアスキシス)と表現します。diaschisisの中でも特にこの対側小脳の遠隔的な障害はCCD(crossed cerebellar diaschisis)と呼ばれ有名です。CCDは通常機能障害のみで、小脳皮質の細胞脱落を伴うことはないとされています。

障害部位

部位:内包後脚、放線冠、視床、脳幹(橋・中脳)、大脳皮質など多くの部位で報告されています。

自験例1:左内包後脚 *自験例の”ataxic hemiparesis”を確認してみたのですが、ほとんどが「内包後脚」の梗塞でした。

自験例2:内包後脚~放線冠にかけての病変 右上下肢の失調>麻痺・顔面の症状を認めない

自験例3:右放線冠 これも顔面を含まない左上下肢に限局した失調>麻痺

参考文献
・Eur Neurol 2015;73:106 最もataxic hemiparesisに関してよく考察された文献と思います。