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Stiff person syndrome

Stiff person syndromeは1956年に14例の報告を契機に提唱された、成人発症、全身性の筋痙攣と硬直を呈する慢性進行性の症候群です(歴史的変遷を下図にまとめています)。以下の記事内容はそのほとんどをPractical Neurology 2011;11:272より引用させていただきました。

病態

病態としてはGABA作動性ニューロンが抑制されることで、運動ニューロンの興奮性が高まる背景が指摘されています。また病態には自己免疫性、傍腫瘍性症候群としての関連も指摘されており、自己免疫機序としては抗GAD抗体の関与が有名です。

■抗GAD抗体:GAD(Glutamic acid decarboxylase)はGABA産生の酵素で、GAD65,67があり(SPS,DMではGAD65が中心)、シナプス前ニューロン、β細胞(膵臓)で産生されます。SPSの60-80%で抗GAD抗体陽性です。SPSに特異的なマーカーではなく(1型糖尿病・小脳失調でも認める)、抗体価としてはbaselineから比較して50倍以上上昇することが多いとされています。髄液中で産生されるとされていますが、抗体価は病勢を反映しない(髄液中の抗体価も)とされており、病勢の評価には使えず、経時的に測定することの意味はないとされています。

その他の合併としては1型糖尿病:35%、自己免疫甲状腺疾患:5-10%、てんかん:10%、小脳失調:10%を認めるとされています。その他のSPSと関連する自己抗体を下記にまとめます。

■抗GABA(A) receptor associated protein抗体
・SPS患者の70%で陽性
・GABA-A受容体関連蛋白はGABA介在シナプスのpostsynapse蛋白で、GABA-A受容体の安定性に関与し、GABA-A受容体をgephyrinに結合させクラスター形成をする作用を持つとされています。clustering形成をする

■抗Amphiphysin抗体
・SPS患者の5%で陽性となり、傍腫瘍症候群に関与することが多いとされています
・GABAのexocytosis後のendocytosisに関与するとされています

■抗gephyrin抗体
・SPS患者の一部で傍腫瘍症候群としての報告があります
・抑制性神経伝達物質(脊髄のグリシン受容体、脳内GABA-A受容体)のclusteringに必要な蛋白とされています

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疫学

発症年齢は41.2歳(29~59歳)、男女比は1:2と報告されています。

臨床症状

上記の病態により持続的な主動筋、拮抗筋の収縮(without reciprocal inhibition)による筋緊張亢進とそれに伴う姿勢異常、疼痛などが主の臨床症状となります。

頸部、傍脊柱起立筋、腹筋といった躯幹筋から始まり、緩徐進行性の経過(数週間~数か月)で四肢近位筋・全身へ伸展していく経過をとります。発症様式は左右非対称性のことも30%程度あるとされています。傍脊柱起立筋と腹筋の筋緊張が高まることで、hyperlordosis(脊柱前彎)を呈すことが特徴とされています(下図参照)。この姿勢は臥位でも認めますが、睡眠中は認めない点がIsaacs症候群との鑑別点として重要です(Isaacs症候群に関してはこちらをご参照ください)。

聴覚・触覚刺激、精神的要素、受動的もしくは能動的運動で誘発される場合があることがあります。自律神経症状を伴うことがあり、またsevere spasmによって転倒、骨折や脱臼を伴う場合もあるとされています。

筋力は保たれますが、深部腱反射亢進(錐体路徴候や錐体外路徴候は認めない)を認め、感覚正常範囲内、認知機能障害を認めないことが一般的です。精神症状伴うこと多く診断がつかず精神的なものと誤診されてしまう場合もあるため注意が必要です。

SPSは病型として以下のものが指摘されています。

Stiff limb syndrome:一側の下肢から症状が進展する場合
progressive encephalitis with rigidity and myoclonus (PERM)
■paraneoplastic variants 5%:上肢と頸部に特にstiffnessが著明である

以下にSPS関連で抗GAD抗体、抗Gly抗体、抗体陰性の症例ごとの症状、検査結果をまとめた論文をそのまま結果を掲載させていただきます(JAMA Neurol. 2016;73(6):714-720)。

先ほどの合併のところで少し触れましたが、小脳失調を合併する例もあります。38例のSPS症例のうち5例において小脳症状を伴い、いずれの症例でも頭部MRI検査は正常であった(小脳萎縮は認めず)ことから、器質的な障害よりは機能的な障害を示唆するとされています。また抗GAD抗体の抗体価と小脳症状の相関は示すことが出来なかったとされており、ベンゾジアゼピン系薬剤も小脳症状には効果がなかったとされています(Neurology 2006;67:1068)。

診断

診断までの遅れは1-18年あり(平均 6.2年)、診断がなかなかつかず”underdiagnosed”であり、多く誤診されている疾患だとされています。以下に診断基準として最も有名なDalakas criteraを掲載します。

躯幹筋の筋硬直(特に腹部、傍脊柱起立筋)、脊柱前弯をきたす場合もある
■有痛性のスパズム、音・感情ストレス・触覚などで誘発される
主動筋と拮抗筋の持続性収縮を筋電図で確認
■硬直を説明できるその他の神経学的・認知的問題がない

以下は必須項目ではない
(■抗GAD65抗体もしくはその他の関係ある抗体の検出)
(■ジアゼパムへの反応性)

治療

治療は大きく1:対症療法2:免疫治療に分けられます。

1:対症療法

GABA受動態作動薬ベンゾジアゼピン系薬剤バクロフェンの2つが治療の基本となります。

ベンゾジアゼピン系薬剤:ベンゾジアゼピン系薬剤は対症療法の中心として重要です。症状コントロールのために投与量がどうしても多くなってしまい、過鎮静の副作用が懸念事項としてあります。

・Diazepam:第1選択、5-100mg/日、3~6時間毎、平均20-60mg/日程度

バクロフェン:バクロフェンはベンゾジアゼピン系薬剤の次に対症療法として有用な方法です。バクロフェンは髄液移行性が悪いため、バクロフェン髄注の治療がされる場合もあります。SPS3名に対してバクロフェン髄注射を施行した研究では投与群でPlacebo群と比較し電気生理学的所見で改善がありましたが、臨床的な改善はごくけいど1例に認めるのみという結果でした(Neurology 1995;45:1893)。

2:免疫治療

上記の対症療法で効果が乏しい場合に免疫治療を実施します。

IVIg:免疫治療の中では最も報告が多く確立している第1選択で、RCTで有効性確認されている唯一の治療方法です(SPS16例に対しての研究 N Engl J Med 345:1870-1876,2001)。有効性は1~4か月程度持続するとされています。その一方30%程度は効果がほとんど認められず、その他の治療法が必要とされています。

血漿交換療法:40%程度に効果を認めるとされています。

以下に治療法の一覧をまとめます。

参考文献

・Practical Neurology 2011;11:272:Stiff person syndromeのreviewとしてまとまっていて非常に参考にあります。

・Current Treatment Options in Neurology 2009, 11:102–110:Dalakas先生がSPSの治療に関してまとめた論文です。