1:作用機序
■心臓への作用
心臓の刺激伝導系や作用することで“rate control”に作用します。房室結節を抑制することで寝室のrateをコントロールする作用があります。房室結節に作用する薬はβ-blockerと非ジヒドロピリジン系カルシウム受容体拮抗薬の2種類が重要です(カルシウム受容体拮抗薬に関してはこちらをご参照ください)。
■なぜ心不全でβ-blockerなのか?
一見心不全でβ-blockerというと「心臓の収縮を抑えるため逆なのでは?」と考えるかもしれません。なぜβ-blockerを心不全に使用するのか?を解説します。心不全では心拍出量が減少しているため、代償機構として神経は交感神経を活性化させることで心収縮力を増加・心拍数を上昇させることで心拍出量を増大させ、ホルモンはRAAS(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)により体液を貯留させることで心拍出量を増大させようとします。
このシステムは短期的には心臓に頑張ってもらうために有用かもしれませんが、裏を返すと心臓への負担が増加するため長期的には心臓がへばってしまう欠点があります。つまり、心臓に短期的に頑張ってもらうことを目標とするか?長期的にもちこたえてもらうことを目標とするか?心不全の急性期と慢性期では管理の目標が異なる点に注意が必要です。
β-blockerはこの交感神経が頑張り過ぎるのを抑えることで、心臓に負担がかかりすぎなくする働きがあります。つまり、しっかり心臓を休ませることで長期予後を良くする作用があります(短距離走ではなく、長距離走の走り方をするようなイメージです)。
2:内服薬
β-blockerの中で心不全、虚血性心疾患で使用することがあるのはカルベジロール、ビソプロロール、メトプロロールの3種類です。ここではこのうち使用する機会が多い、カルベジロール、ビソプロロールについて解説します。
■カルベジロール
・商品名:アーチスト® 製剤:1.25mg, 2.5mg, 5mg, 10mg
・開始量:1.25~2.5mg 1日2回投与(つまり2.5~5mg/日)
・最大投与量:20mg/日
ちょっと本題と逸れますが、カルベジロールがなぜ心不全で予後を改善するのかに関して機序を解説します。心不全患者さんでは交感神経刺激によって心筋細胞内のCaを含む筋小胞体からCaがだらだらと漏れている状態になっています。これによって細胞質のCa濃度は上昇しますが、Caは2+の陽イオンなので細胞膜が脱分極状態になるため不整脈が起こりやすくなります。このCaがだらだら漏れる出口が筋小胞体のRyR(リアノジン受容体)です。
カルベジロールはRyRからCaが持続的に漏れ出るのを抑制する効果があることが指摘されています。これによって細胞質Ca濃度が上がりにくく、不整脈が起こりにくくなります。これが心不全での心室性不整脈を予防することで予後を改善する機序が考えられます(下図はNature medicine 2011;17(8):923より引用)。
■ビソプロロール
・商品名:メインテート® 製剤:0.625mg, 2.5mg, 5mg
・開始量:0.625mg 1日1回投与
・最大投与量:5mg/日
よりβ1選択性が高いとされており、喘息患者さんにも使いやすい(β2が問題)とされていますが実際にこのβ1選択性がどの程度臨床的意義を持つかは分かりません。カルベジロールと並んで心不全、虚血性心疾患で重要な薬剤です。
ビソプロロールは貼付剤(ビソノテープ®)があることが特徴で、これはモニターで徐脈傾向になれば「ぱっと剥がせば良い」ため大変使いやすいです。ビソノテープ貼付薬®4mg=ビソプロロール内服薬®2.5mgと用量の対応関係にあります。
以下に内服薬をまとめます。
3:静注薬
■プロプラノロール
・商品名:インデラル® 製剤:2mg/2ml 1A
・希釈方法:インデラル®1A + 生理食塩水 18ml
・投与方法:0.1mgずつ静注(上記の希釈法の場合は1mlずつ静注)
昔からあるβ-blockerの静注薬です。問題点は持続静注が出来ない点で、細かい容量調節が出来ない点が挙げられます。基本は静注での管理となります。急性大動脈解離でとりあえずHRと血圧を抑えたい場合などが良い適応かもしれませんが、それ以外はなかなか使用しづらさがあります。(私は急性大動脈解離の初療以外で使用したことはありません・・・。)
■ランジオロール
・商品名:オノアクト® 製剤:50mg/1V
・希釈方法:オノアクト®3V + 生理食塩水 50ml (体重50kgの場合 1γ=1 ml/hr)
・投与方法:正常心機能:5~40γ 低心機能の場合:1γから投与開始
持続静注で微妙な投与量の調節ができる新しいβ-blockerの静注薬です。薬剤が大変高価なので基本的にはICUもしくは手術室での使用となりますが、投与量の微調整が出来るので確かに非常に使いやすい印象があります。上記のオノアクト®3Vに生理食塩水50mlで希釈する方法が最もγ計算がしやすため一般的です。心機能正常の場合は5γから、低心機能の場合は1γから使用と添付文章では記載されています。
以下に静注薬をまとめます(エスモロールは手術室のみでの使用適応のためここでは解説しません)。
4:副作用
・心機能、冠攣縮性狭心症はないか?
・不整脈(洞不全症候群、房室ブロック)
・気管支喘息、COPD
・ASO
・内分泌代謝:脂質、糖尿病
・薬剤:並存にてCCBなどで徐脈性不整脈生じないかどうか
*上記併存疾患があった場合も禁忌ではない→注意して使用するという点が重要
以上β-blockerに関してまとめました。個人的にはβ-blockerは循環器専門の先生だけでなく、一般内科医もその使い方と副作用、注意点に習熟する必要があると思います。