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悪性症候群 NMS: neuroleptic malingnant syndrome

怖い病名ランキング個人的に1位の「悪性症候群」ですが、診断のバイオマーカーがなくワンポイントでは診断には悩むことが多い疾患です。ダントロレンは決して特効薬ではないため、supportive careを継続しながら他疾患の除外に努めるというアプローチが現実的と思います。

病態/原因

中枢神経でのドーパミン伝達減少
原因1:ドーパミン受容体拮抗薬の開始/増量(抗精神病薬:第1世代>第2世代・メトクロプラミドなど)
原因2:ドーパミン作動薬の中断(抗パーキンソン病治療薬)

臨床像

イメージとしては「40度以上の感染症としては高すぎる熱ががんがん出ており、意識が悪く、汗をかなりかいて、同性頻脈で体がかたい」という感じです。後で鑑別にも記載しますが重度熱中症、細菌性髄膜炎、甲状腺クリーゼなども似たようなimpressionを呈するため注意が必要です(特にこの3者は特異的な治療法があり、早期の治療介入が予後改善に重要であるため)。

意識障害(当初興奮状態から徐々に混迷や最終的には”akinetic mutism”を呈する場合が多い)・高体温(熱産生の亢進・40℃以上の高い熱を呈する場合も多い)・筋固縮(錐体外路症状)・自律神経障害(血圧変動・発汗)。
・臨床経過:緩徐発症から激烈な経過までさまざま
 内服からの時間:24時間以内 16%, 1週間以内 66%, 30日以内全例
 80%は精神症状や神経所見がsystemicな症状よりに先行する
 経過:改善 平均7-10日程度、63% -1週間以内、全例30日以内
・検査:白血球数増加CK値上昇が特徴的(セロトニン症候群との鑑別点でもある)。
・セロトニン症候群との鑑別が問題となるが、「臨床経過」のスピード感が重要な鑑別点となる。セロトニン症候群は発症・改善が時間~日単位と素早いが、悪性症候群は日~週単位で緩徐な発症・改善を認める場合が多い(セロトニン症候群に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください)。
*参考:悪性症候群自験例のバイタルサイン推移(青字が発熱を表しており、発熱が遷延していることがわかると思う)

*参考:セロトニン症候群と悪性症候群の鑑別点

診断基準

・診断基準はないが、参考となる所見をまとめたスコアリングを掲載する(何点以上で診断という基準ではない点に注意)
・鑑別では特に甲状腺クリーゼ・髄膜炎・熱中症・アルコール離脱・カタトニアなどが重要。
・診断に特異的なバイオマーカーはないため、最終的に除外診断になることが多く頭部MRI検査・髄液検査・脳波検査などひとしきり必要となることが実臨床では多いです。
・カタトニアとの鑑別は私もまだまだ自信がなく、精神科の先生のご意見をうかがうことが多いです。

治療

1:原因薬物を中止
2:全身状態の安定化・ベンゾジアゼピン
±
3:特異的薬物治療(ダントロレン・ブロモクリプチン)検討 *必須ではありません

ダントロレン 商品名:ダントリウム
作用機序:筋小胞体でのCa放出阻害(リアノジン受容体阻害作用)
製剤:20mg/V
*生理食塩水や5%ぶどう糖と混注禁忌(単独投与する必要ある)
(処方例)ダントロレン40mg + 注射用水60ml 30分かけて点滴静注
その後臨床症状改善しない場合は20mgずつ追加投与可
最大投与量: 200mg/日 7日間まで
副作用:呼吸抑制による呼吸不全・肝機能障害(予後を改善するデータには乏しい:Crit Care. 2007;11(1):R4.)

私も悪性症候群に対してダントロレンは使用経験がありますが、「ダントロレンを投与してよくなったという使用感」を得たことは正直ありません・・・・。教科書には悪性症候群の特効薬のようにかかれている場合がありますが、実際には予後を改善するデータにも乏しく(前向き研究はなし)、また副作用にも注意が必要であり全身管理とsupportive careが最重要であることに変わりはありません。

ブロモクリプチン 一般名:パーロデル
作用機序:ドーパミン受容体作動薬
製剤:2.5mg/錠 投与量:2.5-10mg/日 *経口薬のみのため、経口摂取できない場合は経鼻から投与する

*参考:抗精神病薬の再開に関して
・再発リスク 30%
・改善してから最低2週間は間隔をあけるべき
・再開する場合は抗精神病薬を少量から徐々に漸増していくべき