Isaacs症候群

病態

Neuromyotoniaとは「末梢神経の過剰興奮(PNH: peripheral nerve hyperexcitability)に由来する筋の自発的かつ持続的の収縮」を表す表現です。これは筋収縮(随意・不随意問わず)により誘発される特徴があります。1961年にIssacsが報告してからneuromyotoniaをきたす疾患の理解が深まってきています。原因としては免疫介在性のものと、非免疫介在性のものがあります。Isaacs症候群はこのうちVGKC複合体抗体が関連した症候群を表します。BNB(blood nerve barrier)が脆弱な神経終末や神経根で、自己抗体によりVGKCの機能異常が惹起され、末梢運動神経の過剰興奮が起こるとされています。

VGKC複合体抗体が関与する疾患スペクトラムは末梢神経から中枢神経まで幅広く(下図参照:ANN NEUROL 2014;76:168–184より引用)、一部overlapする部分もあります。このなかでIssacs症候群は末梢神経の病型をとるものです。”Cramp-fasciculation syndrome”は下肢に限局して認めるもので、Isaacs症候群と病態は同じで比較的軽症のものを指した疾患概念として捉えられています。

ここで一度言葉がややこしいので整理します。文献によって記載が異なりますが、ここではJ Neurology 2004;251:138の記載を参考にさせていただきます。”neuromyotonia”, “myokymia”はいずれも末梢神経の過剰興奮により自発的、持続的に筋活動の亢進をきたす病態を表しています。”neuromyotonia”は臨床像として持続的な筋収縮により誘発されるのに対して(収縮後弛緩障害)、”myokymia”は蛇が皮下を這っているように筋収縮が波打つ不随意運動を表現しています。

また電気生理的な用語で”neuromyotonic discharge”と”myokymic discharge”がありますが、臨床的な”myokymia”と電気生理の”myokimic discharge”が対応関係にある訳ではない点に注意が必要で、それぞれあくまで臨床と電気生理で独立した用語です(neuromyotoniaでmyokymic dischargeを認める場合もあるということです)。以下にまとめます。

臨床症状

Brain and Nerve 2018;70(4):315には「覚醒・睡眠中を問わず筋肉がピクピクと勝手に動き、四肢(特に下肢)に強いしびれと痛みが生じ、筋硬直と手指の開排制限で日常生活に支障の出る」疾患と記載があり、非常に分かりやすいone sentence summaryと思います。

筋弛緩障害を反映した”grip myotonia”を認めますが、”percussion myotonia”は認めず、これを”pseudomyotonia”と表現することもあります。(ミオトニア”myotonia”は筋強直性ジストロフィーで認める呼称。)

自律神経障害 発汗過多:自律神経の過剰興奮もしくは持続性の筋収縮による熱産生が原因として推察されています。このほかにも皮膚色調変化や高体温を呈する場合があります。

感覚障害(異常感覚・痛み):今までは主に運動神経の過剰興奮を反映した症状ですが、感覚神経の過剰興奮も関与している可能性が示唆されています。

以下に既報での臨床症状の頻度、障害部位の分布のまとめを掲載します。

検査

抗VGKC抗体

神経伝導速度検査:F波に続いて反復する放電活動、SIRD(stimulus-induced repetitive discharge)を認める場合があります(下図右C:臨床神経 2013;53:1067-1070より参照させていただきました)。F波の後ろに普段なかなか注目しないので、測定記録範囲(時間)を意識的に長く設定することが重要です。

筋電図:安静時の状態で”myokymic discharge”や”neuromyotonic discharge”を認めることが重要な所見です。先ほど用語整理のところで解説しましたが、これはあくまで電気生理現象の用語であり、臨床的に”myokymia”が電気的な”myokymic discharge”と1対1対応の関係にある訳ではありませんので注意が必要です。

“F-Wave Hyperexcitability”に関する報告もあります(Am J Phys Med Rehabil. 2008 Apr;87(4):339.)。

診断

以下が日本での診断基準です。臨床症状+電気生理検査+抗体の3つで診断します。難病情報センターからそのまま掲載させていただきます。

鑑別診断としてはStiff person syndromeが重要です(まとめがこちらにありますので、もしよければご参照いただければと思います。)

治療

軽度の場合は末梢神経の過剰興奮を抑制するためにNaチャネル遮断薬(カルバマゼピンなど)を使用します。重症の場合は免疫治療(血漿交換療法、IVIG、ステロイド)を行います。

参考文献

・Brain and Nerve 2018;70(4):315 渡邊修先生の記事になります。

“Isaacs症候群” への3件の返信

  1. Stiff-personとの鑑別が問題になることがありますが、睡眠による発作抑制の有無で鑑別可能ですよね。不眠や不安が強い症例などMorvanとの境界例もありますかね。
    難しいのがseronegativeな症例ですかね…通常の対症療法で反応が悪い場合、ステロイドパルスを試験的に行うと症状がとても良くなって驚くことがあります。CK値上昇例も多く、病勢を反映して下がっていくイメージですかね。
    とても分かりやすくまとめて頂き有難うございます。またご教授ください。

    1. コメントいただき大変ありがとうございます。
      抗VGKC複合体抗体も30%程度の陽性率でseronegativeの場合難しいですね・・・。
      CKの病勢との関係性に関してもご経験をご教授いただき大変ありがとうございます。
      症例が非常に少ないので、先生の御経験を共有していただい大変ありがたいです。
      また色々ご教授いただけますとありがたいです!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。