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胸腔ドレーンの原理

私が胸腔ドレーンの原理を初めて勉強したとき理解するのにものすごく時間がかかりました・・・。理解するためのポイントとしては「連続する空間の圧は同じになる」という物理原則と「自分で胸腔ドレーンを一から組み立てる」気持ちで考えてみることかと思います。少しでも理解の促進になればと思いここで解説させていただきます。

1:胸腔からどう空気を抜くか?

気胸の患者さんと想定してどのようにすれば胸腔の空気を安全に抜くことが出来るか?というテーマのもと考えてみます。まず胸腔内の空気と外に誘導しないといけないので、胸腔にチューブをつなぐことから考えます。しかしこれだけでは大気と連続しているため、空気が胸腔に簡単に入ってしまいます。

そこで、チューブの先にドレーンバッグをつなぐことで空気が簡単に胸腔内へ入らないようにします。しかしこれでは、
問題点1:ドレーンバッグが故障してしまうと簡単にまた空気が入ってしまう
問題点2:実際空気がどのくらい抜けているのか分からない
という問題が生じます。

そこで、上記問題点の対策として
1:空気が逃げないために封をすること
2:空気が出てきていることが観察者に分かる仕組み
の上記2点が必要になります。
漬物石のような重たいもので封をすれば空気が逃げないかもしれません。しかし、それだと空気がどのくらい出てきているか?は全く分かりません(漬物石は微動だにしないため)。

そこで「水」で封をすることを考えます。水なら重さを利用して封もできますし、比較的比重が軽いため水の動きで空気の動きを確認することや、空気の漏れを水中のバブルで確認することが出来ます。これが水での封:水封(通称 Water seal)です(下図)。

2:水封 Water seal

そもそもどのような必然性を持って水封(water seal)というシステムが生まれてきたのか?をこれまで解説してきました。これからはこの水封の仕組みを更に解説していきます。前提条件として「連続する空間で圧は同じになる」ため、「胸腔内圧 = ドレーンバッグ内圧」となります(下図緑色で表現された部分が該当)。

■呼吸性変動

胸腔内圧が変化するとそれに伴ってドレーンバッグ内圧も変化します。そうすると水封部の液面にも圧力がかかることで、水封部の高さが変化します。呼吸の吸気・呼気で胸腔内圧が変化し、それに伴い水封部の水面が上下し、これを「呼吸性変動」と表現します。
「吸気」では胸腔内圧が下がるため、ドレーンバッグ内圧も下がります。そうする胸腔側の水封部の液面は上昇します。逆に「呼気」では胸腔内圧が上昇するため、ドレーンバッグ内圧も上昇します。そうすると胸腔側の水封部の液面を押すことで液面は低下します。
まとめ
・吸気:水栓部液面上昇
・呼気:水栓部液面低下

では「呼吸性変動が消失」する場合はどのようなときでしょうか?
今までの原理から以下のパターンが考えられます。
・肺が拡張して胸腔内の空気がほとんどない状態
・ドレーンチューブの閉塞(折れ曲がり・詰まり・先当り)

■リーク

次に「リーク(漏れ)」がどのような状況で生じるかを考えてみます。下図で考えると、水封部の右のコンパートメントの水面が下極に達すると左のコンパートメント部分にバブルが発生します。つまりバブルが発生するのは水面が下がるのと同じ機序であり、あくまでその延長線上にある現象だということです。胸腔内圧が上がることで水面が下がる延長線上にあるため、バブルは胸腔内圧が非生理的に高くなることで起こります。
具体的には胸腔内で空気の漏れがある場合、怒責などの強い胸腔内圧が上がる行為をとる場合が挙げられます。 これも病態の評価に役立ちます。

上記までの水封部をいかに理解できるかが胸腔ドレーン理解の鍵になります。

3:吸引圧

吸引圧は今までの水封の理解に比べるとおまけのような位置付けです。胸腔内圧により陰圧をかけたい場合に外的に陰圧をかけることができ、この圧力を「吸引圧」と表現します。このためには更にドレーンバッグに吸引部を付け加えます。

吸引圧を正確にコントロールできる機械であれば問題ありません。そうでない機械も多くあり、その場合はかけたい吸引圧に応じた高さまで吸引部に水を入れます(下図では濃い黄色で表現)。この状態で吸引部に吸引圧をかけると、設定した水の分だけ(吸引圧の分だけ)吸引圧をかけることが出来ます(下図左の大気と連続した部位から空気が吸入され、吸引部のバブルとして観察される)。連続する空間は同じ圧になるので(下図薄い黄色部分)、その圧で水栓部の水を引く(下図黄色上向き矢印)ことで間接的にドレーンバッグ内圧=胸腔内圧を引くことが出来ます。

これが胸腔ドレーン原理の全てです。今までの原理をすべてまとめると胸腔ドレーンの出来上がりです(下図)。

ここでは細かい設定に関しては解説しませんが、胸腔ドレーンの原理を理解していないと細かい設定や病態が良くなっているか?悪くなっているか?の評価は不可能です。水封部の理解がきもになってくるので是非理解したいです。