昨今のCOVID19流行により、私も現在救急集中治療のお手伝いをさせていただいております。そこでVV-ECMOの管理があり、必要最低限の知識は知っている必要があるため、勉強している内容を体裁させていただきます(なのでやや不完全な内容であったり、耳学問のところもありすみません)。2009年のH1N1インフルエンザによる急性呼吸不全でVV-ECMOが活躍した様に、今回のCOVID19でもVV-ECMOが活躍する場面が多いのではないかと思います。
0:ECMOの分類・呼称
ECMOは”extracorporeal membrane oxygenation”の略称で、日本語では「体外式膜型人工肺」と表現します。ECMOは本来この人工肺を指す言葉で、ECMOを使った生命処置のことをECLS(extracorporeal life support)と表現します。しかし、実際の現場では医療処置のことを含めてECMOと呼んでいることが多いです。ECMOは以下のVV-ECMOとVA-ECMOの大きく2つに分類されます。
1:VV-ECMO
静脈から脱血、酸素化して再度静脈へ送血する方法です(veno-venousでありVVと表現します)。心機能は保たれており、肺機能が悪い場合に、肺の代わりに体外の人工肺で酸素化した血液を全身循環に戻す方法で、呼吸不全に対して使用するため”respiratory ECMO”とも表現します。
2:VA-ECMO
静脈から脱血、酸素化して大動脈へ送血することで全身に酸素化された血流を送る方法です(veno-arterialであり、VAと表現します)。VV-ECMOでは心機能は保たれていることが前提でしたが、VA-ECMOは心機能が悪い場合使用します。PCPS(Percutaneous cardio pulmonary support:経皮的心肺補助)とも表現されますが、ほぼ同じ意味です。
1:VV-ECMO 原理
肺の状態が悪い場合、私たちが取る戦略としてはまず人工呼吸管理が挙げられます。人工呼吸管理の欠点としては、人工呼吸は陽圧換気(外から空気を肺へ押し込む呼吸様式)のため(普段私たちは呼吸筋で胸郭を広げることで空気を吸い込む陰圧換気をしている)、肺への負担が大きく肺が自然と改善してくるのを邪魔してしまう可能性があるという点が挙げられます。肺が改善するまでの時間をつなぐための治療としてVV-ECMOは基本的に肺に負担をかけないため、”lung rest”(肺を休ませる)ことが出来る点で優れています。
つまり、「体外循環は人工呼吸器でだめだったから行うもの」というイメージがありますが(実臨床ではそうなんですが・・・)、「肺を休ませることが出来る」という人工呼吸器にはないメリットがVV-ECMOにはあるということです。ただあくまで、肺が良くなるまでの時間稼ぎなので現病が改善しないことには予後は改善しないことになります。
基本的な構造としては静脈血をポンプの力で体から脱血して、それを体外の人工肺を通して酸素を与え、再度静脈血として体に送血するという流れになります(下図参照)。
具体的にどこから脱血するか?送血するか?は施設ごとの基準や好みもあるようですが、NEJMのreviewでは右内頸静脈脱血、右大腿静脈送血を推奨していました。私の現在勤めている施設ではその逆の右大腿脱血、右内頚送血の場合もあれば、両側の大腿静脈から脱血と送血をしている場合もあります。その他にも1つのカニューレで脱血と送血を両方できるデバイスもあるようです。脱血のカニューレがある程度の太さがあることが重要な印象があります(21Fr以上)。
2:導入基準
これも厳密にどのくらいで導入するかが決まったものはないようです。心臓機能が保たれており、肺の状態が可逆的である条件で人工呼吸管理においても酸素化、換気、人工呼吸器による肺障害が改善しえない場合に導入する流れになります。
前提条件
・心機能が保たれている
・肺の状態が今後改善してくる可能性が見込まれる 具体的にはARDSなど
上記条件下で
人工呼吸器で改善に乏しい
・低酸素血症: P/F ratio <80
・高二酸化炭素血症によるアシデミア: pH<7.15
・VILI(ventilator induced lung injury)のリスクが高い状態:プラトー圧が35~45cmH2O以上必要
が適応として挙げられています。
Murray scoreという肺障害のスコアで評価する方法もあります(下図)。
3:VV-ECMOで設定する項目
以下の3項目をVV-ECMOでは設定します。
・Sweep Gas流量 (L/min)
人工肺には空気と酸素の混合したものを流しています。その流量を調節することが出来ます。通常の呼吸で換気は肺胞での換気量に依存するように、人工肺を通過する流量(圧:pressureではなく量:volume)で二酸化炭素の排出をコントロールすることができます。
・FDO2 (fraction of delivered oxygen)
FIO2ではなくFDO2と記載するべきとありました(inspireしていないため)。人工肺には空気と酸素の混合したものが流れており、そのうちの酸素濃度を調整することが出来ます。
・ECMO流量, Flow (L/min)
モーターを回転させることでその遠心力で血液を循環させるため、モーターの回転数(rbp/min)とそれによる血液の流量(L/min)が表示されています。回転数と流量が完全に一対一対応の関係にある訳ではなく、脱血状態や送血状態により回転数を上げても思うように流量が得られない場合もあります。体格から決定し、対表面積から求める方法と大まかに体重換算で60ml/kg/minの流量で設定する方法があります。
流量を上げれば上げるほど酸素化が改善するわけではありません。これは「リサーキュレーション(recirculation)」の問題があるからです。「リサーキュレーション(recirculation)」とは、人工肺で酸素を与えてきれいになった血液を再度脱血してしまうことで酸素化の効率が悪くなることです。これにはECMO流量や脱血、送血の位置の問題も関係してきます。
また流量を下げれば今後は回路内凝固などの問題もでてきます。このため、ECMO流量は体格に合わせてある程度一義的に設定してしまい大きくはいじらないという方針の施設もあるようです。
O2とCO2の観点からまとめると
・O2:FDO2, ECMO流量
・CO2:Sweep Gas流量
という対応関係になります。
・人工呼吸器の設定
もともと“lung rest”の状態にすることで肺の改善を促進することが目的なので、人工呼吸器の設定は低くします。
(設定) FiO2<40%, RR<10, 吸気圧<25cmH2O, PEEP:5~15cmH2O
PEEPに関してはある程度かけていないと肺が虚脱してしまうためかけておいた方が良いという意見と、完全に休ませるためにはそこまでかけなくても良いという意見もあるようです。
4:その他の項目
VV-ECMOの管理は1~2週間程度におよぶため、長期間使用に伴う血液凝固、感染症、体液量の管理などの全身管理が要になってきます。
・鎮静はどうするか?
導入時には深鎮静にして導入することが多いようです。その後も深鎮静で自発呼吸を落とすことで経肺圧がかかりすぎないようにする方法(lung restのため)もありますし、逆に覚醒させてVV-ECMOをつけながらリハビリテーションをする方法もあるようです。これも施設ごとにアプローチが異なると思います。
・抗凝固
回路接続前からヘパリン化し、APTT 1.5~2.5倍、ACT180-220程度でコントロールすることが多いようです。回路の凝固は大きな問題で、実際に血栓が見える場合もあります。基本的に抗凝固が禁忌となる病態ではVV-ECMOの導入は困難になります。
・Hbをどの程度に保つか?
これも統一された基準はなさそうです。10 g/dL以上を目標とすることがあるようです。
・抗菌薬の予防投与は行う?
これもevidenceはないようで、施設ごとに違うようですが感染した場合に回路交換を行うことが厳しいため予防的抗菌薬投与を行っている施設も多いようです。
調べた限り具体的にどのようにVV-ECMOを管理するかに関して統一された方法はないようです。実際には施設ごとに管理方法のプロトコルを決めて対応されているのだと思います。今後も勉強していき適宜up dateしていければと考えています。
参考文献
・ N Engl J Med 2011;365:1905 VV-ECMOのreviewとして少し古いですがよくまとまっていたため、図を含めてほとんどここから参照しました。