1:P代謝
P(リン)は解糖系(glycolysis)・ATP産生などの重要な生体機能で担っています。Pはそのほとんどが細胞内に存在し(そのほとんどが骨:85%、その他肝臓・筋肉などの細胞内:15%)、血液中には0.1%しか存在していない。血液でPはは有機リン(ATPなど):10mg/dL程度、 無機リン(PO4):4mg/dL程度(こちらを血中濃度として測定している)として存在しています。
P正常値:2.5~4.0mg/dL
Pが代謝を理解する上で重要な解剖とホルモンを挙げます。
・解剖部位:消化管・血液・骨(細胞内)・腎臓
・ホルモン:PTH・活性型VitaminD・FGF23
P代謝の調整は上記の解剖・ホルモンの関係をまとめると、
・腸管から吸収(活性型VitaminDが促進)
・細胞内シフト
・尿細管からの再吸収調整(活性型VitaminDが促進・FGF23が抑制・PTHが抑制)
となります。このなかでも腎臓が最終的なP代謝調節を担うため最も重要です。腎臓でのP再吸収は近位尿細管で80-90%程度行われ、それ以降の尿細管はP調節への関与が乏しいことが特徴です。P摂取はほとんどない状況ではほぼ100%再吸収することが出来、摂取不足単独では低P血症になることはまれとされています。
これらの関係を下図にまとめます。
血中P濃度が上昇すると、先の3つのホルモンには下記の様に作用します。
1:FGF23亢進→尿細管再吸収抑制
2:PTH亢進→尿細管再吸収抑制
3:活性型VitaminD抑制→消化管からのP吸収抑制
これら総合して血中P濃度を低下させる流れに働き、血中P濃度を正常に保ちます。
2:原因
上記のP代謝の点から低P血症になる機序としては
1:細胞内シフト *頻度として最も多い
2:消化管吸収低下・喪失
3:腎尿細管再吸収抑制
の3つの機序が考えられます(以下に原因を網羅的にまとめます)。このなかで実臨床では細胞内シフトが最も多く重要な機序になります。
以下で代表的な原因に関して解説します。
■解糖系促進
解糖系で細胞外のPを利用するため、解糖系が促進される状況(インスリン分泌・飢餓後食事開始 refeeding・DKA治療)などで細胞外P濃度は低下します。特に背景の栄養状態がわるい患者(アルコール依存・神経因性食思不振症)ではそのリスクが高いです。これも入院中患者の低P血症の原因としてとても重要です。
■呼吸性アルカローシス
pHが上昇すると解糖系が促進され、上記の機序からP濃度が低下します。PaCO2<20mmHg以下となると正常でもP<1mg/dL以下になることが指摘されており、入院患者の低P血症の原因として重要です。
■摂取不足
基本的にはほぼすべての食べ物にPは含まれており、摂取不足になりうる状況はそもそも食事摂取が出来ていない低栄養状態が考えられます。また先の述べたようにP摂取が低下している場合は腎臓尿細管がほぼ100%再吸収することで喪失を防ぐため、摂取不足単独で低P血症になることはまれです(もちろん低栄養でビタミンD不足も合併していれば容易に低P血症になりますが)。
■薬剤
アルミニウム、マグネシウム含有制酸剤はPと結合することで、低P血症をきたします(一般的なH2RA、PPIではまれとされています)。
3:症状
通常はP<1.0mg/dL以下になるまで無症候性です。ATP産生低下に伴う症状として、
・筋肉:脱力・横紋筋融解
・呼吸:呼吸筋低下・呼吸不全
・心臓:心不全
・神経:意識障害・痙攣
などの症状が挙げられます。
特に重要なのは人工呼吸管理中の低P血症で、人工呼吸器離脱に影響をきたす可能性があるため注意が必要です。
4:検査
低P血症は下記の通りに分類します。
・mild: 2.0~2.5 mg/dL
・moderate: 1.0~2.0 mg/dL
・severe: ~1.0 mg/dL
低P血症の原因は上記で解説しましたが、一般的に病歴からすぐわかる場合が多いです。それでも分からない場合に腎排泄が増加しているか?それ以外か?を鑑別するためFEPO4を利用します。
■FEPO4
・FEPO4:5.0%以上:腎排泄亢進
・FEPO4:5.0%以下:腎以外からの排泄亢進
5:治療
■治療開始基準
P<2.0 mg/dL以下を治療開始基準とすることが多いです。
■点滴製剤
一般名:リン酸水素Na水和物・リン酸2水素Na水和物
商品名:リン酸Na補正液® 0.5mmol/ml
製剤:10mmol/ 20ml/ 1A
処方例:リン酸Na補正液® 1A + 生理食塩水250ml 6時間かけて点滴 など
(解説)症候性かつ1.0 mg/dL以下の場合は点滴での補正を検討します。参考までにICUでの補正方法の1例を載せます。
組成:リン酸Na20ml/1A(P=10mmol) + NS100ml
・P<1.0mg/dL→80ml/hr 4本
・P=1.0-1.5mg/dL→40ml/hr 2本
・P=1.5-2.5mg/dL→20ml/hr 1本
■経口製剤
一般名:リン酸2水素Na-水和物・無水リン酸水素2Na配合
商品名:ホスリボン®配合顆粒
製剤:0.48g/1包(P: 100mg含有) *参考:リン酸1 mmol = 0.5mEq = 31mg
投与量:20~40mg/kg /日(体重50kgだと1~2g/日) 最大投与量:3g/日まで
処方例:ホスリボン® 3~6包3x
(解説)無症候性の場合は基本内服での補正が安全です。症候性であってもP 1.0mg/dLまでは経口補正を優先します。
参考文献
・Annu Rev Med 2010; 61:91 P代謝の生理学的背景に関してまとめている
・Am J Med 2005;118:1094 低P血症の臨床的に最もよくまっていてるreview
・Up to date (2020/4/12閲覧)