注目キーワード

酸塩基平衡:血液ガス 練習問題1

練習問題1:50才女性 主訴:下痢

pH=7.31, PaCO2=31 (mmHg), HCO3-=16, Na=142, K=2.2 , Cl=114 (mEq/L)

Step通りに考えていく。

Step1はpH=7.31<7.35なのでアシデミア。アシドーシスではないことは前回解説した通りで注意したい。

Step2は1次性変化、今回はHCO3-=16 mEq/Lであり、代謝性アシドーシスがあると考える。 この時点では 代謝性アシドーシスがAG開大性かAG正常かは判断できない。

Step3は代償性変化。ここが難しいところである。予想されるPaCO2=HCO3-(実際)+15 =16+15=31となる。実際のPaCO2=31であり合致するため、代償性変化以外の病態はないと判断する。

Step4はAGを計算する。AG=142-(114+16) =12であり正常範囲内。ここではじめて、Step2の代謝性アシドーシスはAG正常代謝性アシドーシスと判断することが出来る。

Step5はStep4でAG正常の場合は省略するため、今回は省略。

以上まとめると下図となる。


練習問題1の結果をまとめると下図になる。病態はAG正常代謝性アシドーシスのみ。結果としてpH=7.31のアシデミアを呈している。

血液ガスの結果をプレゼンテーションする場合の表現は「血液ガスはアシデミア、AG正常代謝性アシドーシスです。」とシンプルに表現しても良いし、「pH=7.31のアシデミアを呈しており、AG正常代謝性アシドーシスの病態があります。」とより詳しく表現してもよい。

よくある間違いを1つ挙げると、「血液ガスはアシデミア、AG正常代謝性アシドーシス、呼吸性アルカローシスで代償されています。」というプレゼンだ。前にも述べたがアシドーシス・アルカローシスは病態を表現している。つまり、病的な状態以外には使用しない。代償変化はあくまでも体のpHを出来るだけ正常にたもとうとする体の生理的な反応のため、アシドーシス。アルカローシスとは表現しないのだ。

今回の症例は主訴下痢であり、腸液中HCO3-喪失により、AG正常代謝性アシドーシスを呈し、結果としてアシデミアになっていると解釈出来る。繰り返しになるが、アシドーシス・アルカローシスという表現は病態を表しており、今回のAG正常代謝性アシドーシスは下痢の病態と対応していることが分かる。正確に評価をしたうえで、背景の病態を解釈するのは臨床的判断となる。

今回は血液ガスの解析としては単純なものを提示した。単純なものであっても、上記のステップを全て正確に、かつ表現を正しく行うことは難しいと思う。血液ガスは救急・集中治療などの初期評価として非常に重要であるため、正確に理解し評価できるようにしたい。

練習問題は「極論で学ぶ腎臓内科」から多く引用させていただきました。