髄液蛋白の基礎
・蛋白とは?:アルブミン+免疫グロブリン
・髄液蛋白=①血液からの移行分(blood-CSF barrierを超えるもの)+②中枢神経産生分
髄液蛋白上昇の原因
1: “blood-CSF barrier”破綻(例:髄膜炎, ギラン・バレー症候群など)
・一般的に血液:髄液=200~400:1で蛋白は移行するとされています
・ここの”blood-CSF-barrier”の破綻/障害の程度を評価するものがQalbで血液中と髄液中のAlbを比較した値です。こちらを参照ください。
・ギラン・バレー症候群では神経根部の炎症により同部位のBNBが破綻することで髄液中の蛋白が上昇します。神経根部は髄液内に位置するため、同部位の炎症では髄液蛋白が上昇します。
2: 中枢神経で独自に免疫グロブリンを産生(例:多発性硬化症、自己免疫性脳炎など)
→IgG index, OCBで評価する(こちら)
3: 髄腔内にそもそも血液が存在(例:くも膜下出血)
4: 髄液の循環が阻害される場合(turn over障害)(例:高齢、脊柱管狭窄症など)
正常値に関して
・正常値:15~45 mg/dL(教科書により基準はさまざま)
→ただこの基準は本当に正しいのか?という点に関して近年報告がいくつかある
663例の髄液検査を検討(重要文献) Mayo Clin Proc. 2023;98(2):239-251.
・平均±SD 52.2±18.4 mg/dL(中央値49mg/dL)
・上昇リスク因子:高齢, 男性, 糖尿病, (脊柱管狭窄症)
・高齢:60歳以上 53.5mg/dL vs 60歳未満 46.4mg/dL(平均) 10歳上昇ごと Δ3.0 mg/dL多変量解析
・性別:男性 57.1 mg/dL vs女性 45.3mg/dL(平均) Δ10.8 mg/dL多変量解析
・糖尿病:あり 60.5mg/dL vs なし50.5mg/dL(平均) Δ 9.0mg/dL多変量解析
・年齢別髄液蛋白の値(下表)
年齢別 髄液蛋白 | 30-50歳 | 51-60歳 | 61-70歳 | 71-80歳 | ≧81歳 | 全体 |
平均(mg/dL) | 44.3 | 46.3 | 47.9 | 55.3 | 58.1 | 52.2 |
中央値(mg/dL) | 39 | 45 | 46 | 52 | 53 | 49 |
結論:髄液蛋白は非常に幅が広く、患者背景(年齢、性別、糖尿病)の影響を受ける
→既存の基準値だと髄液蛋白の偽高値と判断してしまう可能性があり注意が必要である
*別の報告
蛋白細胞解離 albuminocytological dissociation
•蛋白細胞解離は初学者にとっては危険な用語である。上記の通り蛋白は生理的に上昇することがあるため、そもそも偽陽性でることが多く注意が必要である。
・また蛋白細胞解離=ギラン・バレー症候群という短絡的な認識は捨てるべきである。
・まず病巣が末梢神経で、機序が急性経過となると臨床鑑別がいくつか挙がる。そこから鑑別を絞るにあたって髄液所見が参考になる。ここでいきなり蛋白細胞解離に飛びついてギラン・バレー症候群という病名を挙げると必ず誤診する。基本に忠実に診断する必要がある。
・私は今までも頚椎症性脊髄症であるにもかかわらず、髄液で蛋白細胞解離があり、病巣をつめないままギラン・バレー症候群という診断に飛びついた例をいくつかみている。
・このような経緯から正直蛋白細胞解離という言葉にほぼ意味はなく、むしろKeywordとして飛びついてしまうくらいなら忘却した方が良いと私は考えている。