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神経ベーチェット病 Neuro-Behcet’s disease

一般論・前提知識

ベーチェット病一般
①再発性口内アフタ性潰瘍,②皮膚症状,③外陰部潰瘍,④眼病変を主症状とする症候群
・トルコの皮膚科医Behcet先生が1937年に3例報告が端緒→神経ベーチェット病は1941年に最初の報告、名前は1954年から
・HLA-B51との相関関係が指摘・Silk rodのアジア圏に疫学上多い
好中球主体の炎症・血管炎が主病態 *特異的な自己抗体や自己抗原反応性T細胞は存在しない

神経ベーチェット病
・中枢神経病変合併は報告によりまちまち 6.7%や10-20%など様々(ただの頭痛などを含んでしまっているか?といったinclusionの問題も大きい)
・具体的には①中枢神経実質の炎症,②血管障害が代表的であるが、日本では①の方が多い(日本のレジストリでは神経ベーチェット病144例中 CVTは1例のみであり諸外国の報告よりも極めて少ない Mod Rheumatol 2012; 22:405–413)
・特徴としては男性、20-40歳代、喫煙者に多い
・末梢神経病変や筋病変は極めて稀
・通常は全身症状が先行するが、3%は神経症状が他の全身症状に先行する

*臨床症状の経過・出現する順番 412例(日本) Medicine 2011;90: 125-132. PMID: 21358436.
・全体像:診断年齢36.9±11.9歳(mean±SD)
・症状全体:口腔内潰瘍 100%, 陰部潰瘍 73%, 眼病変 65%, 皮膚病変 88%, 関節炎 48%, 消化管病変 10%, 中枢神経病変 13%, 血管病変 6%
・初発症状:口腔内潰瘍 70%(最多)>皮膚病変 24%>陰部潰瘍 16%>眼病変 14%
・初発症状の数:1つ 78%>2つ 13%>3つ 7%>4つ 3%
診断と症状が出現する時期の関係について(本文中にはとても分かりやすいFigureがあります)
 ①診断前:口腔内潰瘍 -7.5±10.2年(最も早期)>皮膚病変 -1.7±5.7年>陰部潰瘍 -1.5±5.4年>眼病変 -1.1±4.6年
 ②診断後:関節炎+1.3±8.0年<消化管 +1.9±5.0年<血管病変+2.2±8.4年<中枢神経病変 +4.0±7.1年

神経ベーチェット病の分類
1:実質型(parenchymal)→①急性型 or ②慢性進行型
2:非実質型(non-paranchymal)→CVTなど

臨床像

経過による分類

①急性型
・髄膜脳炎を呈する

・約10-30%が慢性進行型へ移行する
カルシニューリン阻害薬は急性型神経ベーチェット病を誘発する可能性があり禁忌(使用している場合は中止) *急性型神経ベーチェット病の34.2%がシクロスポリン使用あり(日本のレジストリ Mod Rheumatol 2012; 22:405–413)
・治療:ステロイド導入→コルヒチン併用→効果乏しい場合はインフリキシマブ使用

②慢性進行型

・治療抵抗性の認知機能障害や失調など(急性型が先行した後に出現し進行する場合または急性型の発作が同定できない場合もある*急性型の先行は必須項目ではない)
*日本レジストリではHLA-B51陽性と喫煙が相関関係あり Mod Rheumatol 2012; 22:405–413
髄液IL-6の持続高値が特徴とされている(特に日本からの報告では)
・日本からの診断基準では髄液IL-6の持続高値または脳萎縮が条件に組み込まれている
・鑑別診断:SPMS
・治療:メトトレキサート→効果不十分の場合はインフリキシマブが有用である可能性
ステロイド、アザチオプリン、シクロフォスファミドはいずれも無効
*シクロスポリン禁忌(急性型神経ベーチェット病の発作を誘発する)

参考文献:BRAIN and NERVE 73 (5):560-567, 2021 BRAIN and NERVE 73 (5):568-575, 2021

以下病変部位による分類

脳幹障害

・50%で脳幹障害を認める(最も代表的な病変)
中脳が最多で、間脳の片側へ進展する病変を呈することが多い
・臨床像としては失調、眼球運動障害、錐体路障害、感覚障害
・脳幹全体が障害されることは稀である
*脳幹部病変と寛解・増悪を繰り返す場合は多発性硬化症に臨床像が類似する場がある

大脳病変

・30%で認める

tumefactive lesion

・症例報告レベルの頻度

不随意運動

脊髄障害

・10%で認める
・bagel sign: 脊髄中心灰白質主体のT2高信号病変(中心部がT2低信号)など様々

末梢神経障害

・報告自体極めてまれで、また特徴的所見というものもはっきりしません。(過去に悩んだ症例があります)
・神経症状がないベーチェット病患者も含めて神経伝導検査を実施した研究では14.28%に異常所見を認めた(コントロールは2.8%)と報告されていますが、これがどの程度臨床的意義を有するのかは分かりません。 Clin Rheumatol (2007) 26:1240 – 1244
・F波の異常が鋭敏であるという報告もあります。Electromyogr Clin Neurophysiol 2000;40:45 – 48.
・病態自体も血管炎によるものか?解明されていません。
Birol A, Ulkatan S, Koçak M, Erkek E. Peripheral neuropathy in Behçet’s disease. J Dermatol. 2004 Jun;31(6):455-9. doi: 10.1111/j.1346-8138.2004.tb00531.x. PMID: 15235183.

脳静脈血栓症(総論はこちら

・合併18% 日本、中国、韓国からの報告では1-3%と報告
・障害部位:上矢状静脈洞 64%, 横静脈洞 61%, sigmoidと直静脈洞はまれ 60%以上が単一ではなく複数の病変を呈する J Neurol 2011;258:719–27.
・10%は外転神経麻痺併発(頭蓋内圧亢進に伴う)
・静脈性梗塞 10-20%に生じる
・脳実質病変と併発する3.3-9.5%
*頭蓋内圧亢進(静脈血栓症が画像上指摘できない) 3.4% 

動脈性病変・脳卒中

・ベーチェット病全体の1.5%に脳卒中を認める

検査

髄液

・細胞数:<500/μL 急性期は好中球主体で、数日でリンパ球主体へ変化する Brain 1999;122:2183–94.
*脳静脈血栓症だけでは髄液は正常(髄膜脳炎を伴わない場合)
・OCB:陰性のことが多い *髄液好中球+OCB陰性→MSとの区別上重要な髄液所見
・IL-6, 8:上昇することが多い

画像

中脳~間脳にかけて進展する病変(片側または両側・左右非対称) *cascade sign: 冠状断で滝の様にみえることから
・時間経過と共に信号強度が低下し、構造は萎縮してくる
・ADCmapは高値を呈し、vasogenic edemaを反映している

65例の神経ベーチェット病の画像病変分布の評価 AJNR 1999;20:1015 ★重要文献(画像)

・急性/亜急性期 80%, 慢性期 20%
・臨床像:頭痛 85%, 麻痺 57%, 脳幹±小脳 50%, 認知機能障害 16%, 意識障害 7%
・部位:中脳~間脳病変 30 (46%), 橋/延髄 26 (40%), 視床下部/視床 15 (23%), 基底核/内包 12(18%)(尾状核/前脚 1, 後脚 4, 被殻 3, 淡蒼球3),頸髄(postero-lateral) 3, 小脳 3, その他 5
・中脳~間脳病変:錐体路に沿って病変が広がる、赤核は障害を免れる(浮腫を反映しているのかもしれない)
Koçer N, Islak C, Siva A, Saip S, Akman C, Kantarci O, Hamuryudan V. CNS involvement in neuro-Behçet syndrome: an MR study. AJNR Am J Neuroradiol. 1999 Jun-Jul;20(6):1015-24. PMID: 10445437; PMCID: PMC7056254.

神経ベーチェット病200例検討 Brain 1999;122:2171-2181. ★重要文献

疫学
・男性155, 女性45例 年齢33.4±9.1歳(中央値33歳)
・ベーチェット病発病年齢 25.8歳、神経症状発症 31.5歳、インターバル 5.6年
・7.5%は神経症状をベーチェット病発病時に随伴
・3%(6例)は神経症状がベーチェット病発病に先行
・臨床像(全体):再発性アフタ口内炎100%, 陰部潰瘍 94%, 皮膚病変 84%, 眼病変 66%, 関節炎 56%, 血栓症 33%, 動脈病変 3.5%, 肺病変 7%, 消化管病変 3%
・臨床経過:①急性寛解 41%,②二次性進行性 28%,③一次進行性 10%, ④無症候性 21%

臨床像の内訳

①parenchymal CNS: 81%(162例)
・部位:脳幹 51%, 脊髄 14%, 大脳半球 15%, 錐体路障害 19%
・経過:数日から亜急性経過 63%, 緩徐進行性 37%
・臨床:錐体路徴候 96%(両側性>2/3),半身麻痺,行動障害 54%(1/3 apathy, 2/3 脱抑制), 膀胱直腸障害 48%
・髄液:約60%で異常所見 neutro優位 or neutrophil+lymphocyte 54%, lympho優位 46%
 好中球:中央値10, 平均98 range 0-1100, リンパ球:中央値30, 平均63, 0-485
 IgG index上昇 73%, OCV+ 16%

②その他 secondary or non-parenchymal CNS: 19%(38例) 髄液通常は正常、圧上昇
・頭蓋内圧亢進 34例(脳静脈血栓症からの二次性のものが多い) *純粋なaseptic meningitisは1例のみであり(多いと勘違いされているが) Adams 1997
・頭痛 95%>乳頭浮腫 89%>外転神経麻痺 57%
・髄液:4例完全に正常 20例初圧亢進のみ 2例は細胞数増多 全例IgG index上昇やOCB陽性はなし
*末梢神経と筋の病変は1例もなし

神経心理検査:記憶障害が最も障害 70%>注意障害 60%>前頭葉機能障害 52% *視空間認知障害 9%(障害されてもmild) 見当識、言語、行為に関してはは全例正常
予後因子
①予後良好:髄液正常、non-parenchymal involvement、attackの回数<2回、受診時ADL自立
②予後不良:髄液異常、paranchymal involvement、attack回数≧2回、受診時ADL非自立、ステロイド漸減中の再燃、進行性の経過