先日椎骨動脈閉塞からの脊髄梗塞の症例を経験しました。左椎骨動脈閉塞があり、左小脳梗塞+椎体高位C3からの脊髄灰白質に両側性T2強調像高信号病変を呈している症例でした。脊髄梗塞の全体像に関してはこちらにまとめているためご参照ください。
背景知識
・脊髄梗塞の最も好発部位は胸髄領域
・脊髄梗塞の原因の4-10%は椎骨動脈解離と報告されている(最も多い原因は大動脈手術)
・脊髄の血管支配:①中心部(灰白質)からの遠心性の灌流はASAが担う,②辺縁部(白質)の周囲からの求心性の灌流はPSA>ASAが担う
椎骨動脈と脊髄動脈の解剖関係
*上図は後輩のN先生が作成したものを拝借させていただきました。
①前脊髄動脈:椎骨動脈から起始して灌流
→実際の剖検例検討では古典的(教科書的)な左右対称性に椎骨動脈から前脊髄動脈が起始することはなく、片側優位などvariationが非常に多いことに注意が必要(Spinal Cord 2008; 46: 45–49.)
②C3-C4 radicular artery:片側(または左右でどちらかがdominant)の椎骨動脈から起始
→片側椎骨動脈の閉塞により両側性の脊髄梗塞を呈しうる
下図引用元:Stroke. 2018;49:e314-e317.(free article)
上論文での症例報告の画像 椎体高位C3を主体として前角主体の信号変化
*参考:頸髄血管支配の知識 ”Blood supply of cervical spinal cord in man. A microangiographic cadaver study.” J Neurosurg 1966;24:951-965. 古典的超重要文献で43の頸髄病理に関して検討
・radicular arteryのC7, C8, Th1は鎖骨下動脈の分枝からも血流が供給される(4/43で同部位のradiular arteryが欠損)
→片側椎骨動脈が閉塞したとしても鎖骨下動脈などからの側副血行が同radicular arteryの血流を担う
・radicular artery: 脊髄を灌流するものは前(anterior radicular artery)が1-6本(左右差なし)、後(posterior radicular artery)が0-8本
・中心動脈(central artery):1本が頭尾方向0.4-1.2cmを灌流、頭尾方向1cmあたり5-8本存在する
・中心動脈(central artery):長軸では上下の中心動脈と灌流域がoverlap, 横断像ではpial plexusからの灌流とoverlapがある
・横断面の灌流:①central system(中心動脈 central arteryが中心部から同心円状に灰白質を主体に灌流する)と②peripheral system(pial plexusから脊髄内に求心性に白質を主体に灌流する)は両者 overlapしている(overlapが下図灰色部分) *両者の脊髄内での吻合はない
症例報告
椎骨動脈解離による片側後脊髄動脈梗塞 Jiang Q, Tian D, Jing J. Posterior Unilateral Spinal Cord Infarction Caused by Vertebral Artery Dissection. Ann Neurol. 2023 Nov;94(5):871-872. doi: 10.1002/ana.26767. Epub 2023 Sep 7. PMID: 37605322.
小脳梗塞と両側後脊髄動脈梗塞の合併 Cerebrovasc Dis 2003;15:143–147
椎骨動脈解離による脊髄片側梗塞(Brown Sequard症候群) BMC Neurology 2019;19:321
両側椎骨動脈解離による片側後脊髄動脈梗塞 Neurology ® 2022;99:473-474.
椎骨動脈解離111例のうち2例で脊髄病変を呈する:NEUROLOGY 2000;55:304–306