体内異物がadjuvantとなり異常な免疫反応が生じる病態です。豊胸術で使用するシリコン乳房インプラントで生じることがあり先日考慮する必要がある例があったため調べた内容をまとめます。今まで豊胸術の病歴は全く確認していなかったですが(患者さんも自ら話してくれるものではないですが・・・)、こういう病態があることを知るときちんと確認する必要があるなと感じました(ただまた同時に因果関係の証明が難しい領域だなと思いました)。
ASIA
“ASIA” 提唱されている診断基準
Shoenfeld Y, Agmon-Levin N. ‘ASIA’ – autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants. J Autoimmun. 2011 Feb;36(1):4-8. doi: 10.1016/j.jaut.2010.07.003. Epub 2010 Aug 13. PMID: 20708902.
Major criteria
・刺激物への暴露(感染、ワクチン、シリコン、アジュバント)
・典型的な臨床像
筋肉痛,筋炎,筋力低下
関節痛,関節炎
慢性疲労,睡眠障害
神経症状(脱髄との関連)
認知機能障害,記憶障害
発熱,ドライマウス
原因を除去すると改善
障害臓器の生検
Minor criteria
・自己抗体
・その他臨床症状
・特定のHLA HLADRB1, DQB1
・自己免疫疾患は依存(多発性硬化症,強皮症など)
臨床像
300例のまとめ Watad A, Quaresma M, Bragazzi NL, Cervera R, Tervaert JWC, Amital H, Shoenfeld Y. The autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants (ASIA)/Shoenfeld’s syndrome: descriptive analysis of 300 patients from the international ASIA syndrome registry. Clin Rheumatol. 2018 Feb;37(2):483-493. doi: 10.1007/s10067-017-3748-9. Epub 2017 Jul 25. PMID: 28741088.
・女性86.7%
・年齢(平均):37.6歳(4-82歳)
・インプラントから臨床像発症までの期間:平均31カ月(1-60か月)
・自己免疫既往:7.7%, 家族歴 13.3% *アトピーまたはアレルギー歴あり 15.7%
・インプラント:化粧品に使用される充填剤 38.8%, 金属インプラント 43.7%, 豊胸術シリコンインプラント 17.5%
・臨床症状:関節痛61%, 慢性疲労 59%, 筋肉痛 49%, 睡眠障害 37%, 発熱 34%, 全身脱力 33%, 関節炎 29%, 神経症状 26%, 認知機能障害 21%, Sicca 18%, レイノー現象 16%, 慢性皮疹 16%, リンパ節腫大 14%, 光線過敏 11%, 口腔内潰瘍 6%, POTS 4%, 筋炎 2%
・自己免疫疾患:診断 89%
内訳 undifferentiated CTD 26%, Fibromyalgia/CFS 15.6%, SLE その他 13%, 神経自己炎症性疾患 12%、血管炎 5.3%(GCA>ANCA n=2, Behcet n=1, HSP n=1, PN n=1)
・検査項目:抗核抗体 51.7%,
抜去による改善するか?
留置期間に依存する BMJ Open 2022;12(6):e057159.
・挿入後10年以内に抜去:59%が改善
・挿入後10年以降に抜去:33%が改善
シリコン豊胸術インプラントによる合併症
・上記ASIAの他に免疫不全、悪性リンパ腫(ALCL: anaplastic large T cell lymphoma 乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL))の報告がある.
*Plast Reconstr Surg 2016; 137:1117–1122.
・病態:シリコンは剖検例では全身の臓器に広がっており,中枢神経にもありそれらが慢性炎症を惹起する可能性がある *Clin Med Rev Case Rep2016; 3:087–096.
* シリコンジェルがミクロにシリコンを透過する現象”gel bleed”が知られている
*シリコンがadjuvantとして作用するため、背景に自己免疫疾患や家族歴がある場合に生じやすい
・臨床像:関節痛(関節炎)90%(RAに似た臨床像を呈することもある), ドライアイ/ドライマウス 75%(Sjogren症候群に似た臨床像も),レイノー現象 30-50%(強皮症に似た臨床像を呈することも),アレルギー50-80%(一度寛解した食物アレルギーなど、ニッケルによる接触性皮膚炎)
・検査所見:非特異的、抗核抗体陽性 20%、
・挿入から発症までの期間:中央値10年(2-24年)
・60-80%の症例で抜去により症状が改善する
参考文献:Curr Opin Rheumatol 2017, 29:348–354