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胸郭出口症候群 TOS: thoracic outlet syndrome

胸郭出口症候群に関して悩む症例が外来でありました。胸郭出口症候群という疾患名自体は有名ですが、概念が非常に幅広いです。この点に関しては日本では園生先生が第一人者で多くの著作があり、調べるとほぼ全て園生先生の記載にたどり着くため正直ただ書き写してまとめているだけになってしまう感じもあります・・・。詳細は特に園生先生の記載(「脊椎脊髄・神経筋の神経症候学の基本―日常診療での誤診を防ぐ初めの一歩」p.260 胸郭出口症候群)をご参照ください(素晴らしい書籍です)。

1956年:Peetら それまでさまざまな名称で呼ばれていたものを胸郭出口症候群と名称 その後色々な提唱あり、以下のTN-TOSのみが確立した疾患概念。

真の神経性胸郭出口症候群 true neurogenic TOS(TN-TOS)

解剖/病態:第一肋骨よりも頸肋から第1肋骨への線維性索状物に腕神経叢の下神経幹が下から圧迫され折れ曲がり,Th1主体(>C8)の下神経幹障害を呈する(軸索障害であり伝導ブロックではない)
*腕神経叢の解剖に関してはこちらをご参照ください。

*背景:1970年の9例報告(頸肋またはC7横突起による母指球を中心とした筋萎縮の症例 JNNP 1970;33:615-624.)→1985年Wilbournが確立した疾患概念としてTN-TOSと命名

臨床像運動障害が主体・母指球主体の筋萎縮 感覚障害は主体ではない(主訴にはならない)
*手根管症候群もAPB萎縮を呈するが、感覚障害が主体であり運動障害が前景に立つことは通常ない
*下図はJNNP 1970;33:615-624.(前述文献)よりfree accessのため引用

電気生理Th1髄節の障害を電気生理的に捉えることがポイント
・運動神経:APB(Median, Th1) CMAPamp低下
・感覚神経:MACN(内側前腕皮神経) SNAP消失
*普段MACNの神経伝導検査はroutineで実施しないがTN-TOSの診断上有用(こちら参照)
*正中神経のSNAPは示指でC7髄節に該当するため、SNAPは保たれるためCMAPとの解離がある

背景文献:32例のTN-TOSの電気生理所見の検討(Cleveland Clinic) Muscle Nerve 2014;49:724-727.
・患者背景:平均40.7歳(17-77歳), 女性94%, 右利き97%, 利き手 81%
<運動神経>
正中神経(APB) CMAPamp:左右差低下 97%, 絶対値低下 91%
・尺骨神経(ADM)CMAP amp:左右差低下 38%, 絶対値低下 3.1%
<感覚神経>
内側前腕皮神経(MAC) SNAP amp:左右差低下 95%, 絶対値低下 84%, 導出不能 68%
・尺骨神経(小指) SNAP amp:左右差低下 78%, 絶対値低下 6.3%, 導出不能 6.3%
・正中神経(示指)SNAP amp:左右差低下 0%, 絶対値低下 0%, 導出不能 0%
・外側前腕皮神経(LAC) SNAP amp:左右差低下 0%, 絶対値低下 0%, 導出不能 0%
→この結果からもTh1>C8の障害が示唆される

治療:線維性索状物の切除(第一肋骨切除は不要)
・運動障害の回復は厳しい