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重症筋無力症の周術期管理

NeurologistのConsultationとして重要なテーマの1つは重症筋無力症患者の周術期管理についてです。重症筋無力症クリーゼの原因としては感染症をはじめとした身体への侵襲があり、手術もその代表的な原因です。確固たるものがないところではありますが、調べた内容をまとめていきます。Up to dateの”Anesthesia for the patient with myasthenia gravis”が非常によくまとまっているため多くを参考にしています。

簡単なまとめ

1:術前チェックポイント
・術前に重症筋無力症の病勢を出来る限り安定化させる(最重要)
リスク因子を考慮(後述)
使用薬剤に注意
・状態不良の場合(例:球症状や呼吸不全症状ある場合)は事前の血漿交換療法検討(具体的な基準なし)

2:麻酔
・麻酔に関して吸入麻酔薬管理、TIVAいずれも管理可能(鎮静薬は短時間作用を少量から使用)
・コリンエステラーゼ阻害薬は当日まで継続(術後いつから再開するか?は色々意見がある 即再開派は純粋に状態改善のため、48時間開ける派はコリン作動性クリーゼを避けるため)
*個人的にはピリドスチグミン180mg/日以内でクリーゼになるリスクは低いため再開しても良いかもしれないと思う(ただ気道分泌物増加は注意)
・筋弛緩の使用はできるだけ避ける→筋弛緩使用する場合はロクロニウムとスガマデックスでの拮抗

3:クリーゼ発症の場合
・既報では幅あるが、10-20%くらいの報告が多い。
・管理に関しては別記事(こちら)を参照。

リスク因子

・COPD既往
・BMI<28
・罹病期間>2年
・球症状または呼吸器症状
・全身性の中等度以上の筋力低下
・過去のクリーゼ既往あり
・ピリドスチグミン>750mg/日 *日本ではありえない
・VC(vital capacity)<2-2.9L
・AChR抗体価<100 nmol/L
・反復神経刺激試験でのCMAPamp減衰>18-20%

増悪させる可能性がある薬剤

・抗菌薬:アミノグリコシド系、キノロン系、(クリンダマイシン、バンコマイシン)
・循環作動薬:β遮断薬、(カルシウム受容体拮抗薬)
・ステロイド:初期増悪の観点から、ただクリーゼではIVIgまたは血漿交換療法と併用する場合がある
・造影剤:注意して使用(経験上は安全に使用できることがほとんど)
・マグネシウム製剤:静注製剤は注意(神経筋伝達の阻害作用あり)
・抗発作薬:フェニトイン増悪の報告あり
・スタチン:注意
・プロカインアミド、D-ペニシラミン

文献

J Thorac Cardiovasc Surg 2004;127:868-76

122例の重症筋無力症胸腺摘出術の検討(日本からの報告)
クリーゼ発症:14例(11.5%)
*クリーゼを48時間以上の人工呼吸管理とここでは定義(横隔神経麻痺による呼吸不全は除外)
術前:血漿交換療法(状態不安定10例で実施*抗体価が高いだけで神経症状が安定している患者では実施していない *ちなみにここの論文中の英語記載おそらく間違い)、コリンエステラーゼ阻害薬は継続、免疫治療の事前導入例はなし
麻酔管理:挿管は全例筋弛緩使用なし・吸入麻酔管理(TIVAではない点に注意)
クリーゼと相関する因子:①術前の球症状、②クリーゼの既往、③抗AChR抗体価>100 nmol/L、④術中出血量>1000mL

Clincal Question

術前に予防的な血漿交換療法を導入すべきか?(または免疫治療を導入すべきか?)

・ここ(予防的治療の適応基準)が正直最も知りたいところであるが、この疑問に関する明確な答えは調べた限りない。
・またそもそも血漿交換療法は事前に1回のみで良いのか?2回必要なのか?に関してもはっきりしていない。

参考文献
・Daum P, Smelt J, Ibrahim IR. Perioperative management of myasthenia gravis. BJA Educ. 2021 Nov;21(11):414-419. doi: 10.1016/j.bjae.2021.07.001. Epub 2021 Aug 19. PMID: 34707886; PMCID: PMC8520038. 全般的な周術期管理に関するreview article