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非外傷性脳出血患者への急性期予防的抗てんかん薬投与 “PEACH” trial

ずっと気になるテーマであった臨床試験がついに発表されざわざわしています(私だけ・・・?)。脳血管障害患者で急性期に抗てんかん薬を予防的に投与することに意味があるのか?というRCTはこれまで存在せず、ガイドラインでも推奨するに根拠が薄いとされてきたためとても重要なテーマです。”PEACH (Prevention of Epileptic seizures at the Acute phase of intraCerebral Haemorrhage) trial” Lancet Neurol 2022; 21: 781–91読んだ内容をまとめます。「脳血管障害とてんかん」に関しては過去こちらにまとめたのでご参照ください。

背景

・脳血管障害での”early seizure”は発症後7日未満の定義
・脳出血患者の6-15%に臨床的な”ealry seizure”を認め、ほとんどは発症後72時間以内に認める
・持続脳波でsubclincal seizureも拾うと30%に達し、臨床的には認識されていないが持続脳波検査によってのみ検出される発作がほとんど
・過去の後ろ向き研究では急性症候性発作が神経学的悪化や予後不良因子になる or ならないという報告がどちらもあるが、これらの研究はいずれも臨床的に発作を検出したものであり、持続脳波検査で検出するものではない
予防的抗てんかん薬投与が予後改善に寄与するのかという疑問に答えるRCTはこれまで存在せず、現行ガイドラインも予防的抗てんかん薬投与を推奨していない

方法・結果

・Secondary outcome: 神経学的予後には有意差なし

考察

*前提:recruitmentが48%でunderpowerである点に以下全て解釈注意が必要
・本研究では”72時間以内”の発作は全てelectrographic seizuresであり臨床的発作は認めなかった
・既報の研究は多くが持続脳波モニタリングが出来ていないため、解釈に注意が必要である(臨床的発作のみに着目するとunderestimatedになる)
・神経学的予後を改善するかどうかはわからない
・既報では実臨床で-30%の医者が脳出血患者に予防的抗てんかん薬投与を行っている
・出血の体積拡大は両者で有意差なし
・抗てんかん薬は種類によっては(フェニトインとフェノバルビタール)機能予後に悪影響を与える可能性が指摘されており、新規抗てんかん薬のレベチラセタムやラコサミドはneuroprotectiveに作用するのではないかとされるが、この点はcontroversialである

limitations

・early termination(持続脳波の導入が一番のネック) それによって患者背景にばらつきが生じた
・画像検査のmodalityが統一されていない
・持続脳波でのビデオ情報は実施されていないため軽微な臨床症状を伴っていた可能性を検討できていない
・持続脳波以外の時間でどうかわからない
・レベチラセタムの投与量は年齢や体重併存薬によって調整していない(血中濃度測定していない)ため、投与量が少なすぎた可能性も
・脳出血の軽症~中等症患者なので重症患者でどうかは分からない

余談・個人的に気になる点や思ったこと

*ここでは管理人が論文を読んで思ったことや気になったことを気ままに記載しています。根拠ある内容ではないのでご了承ください。

・確かにseizureはレベチラセタムで減るのかもしれないが、おそらく結局seizureを抑えることで神経学的を良くすることができるのか?が問題であり, 今回はおそらくその前段階としてそもそも発作を抑えられるか?というsurrogateな結果をprimary outcomeに置いているのだろう
・なのでこの結果のみをもって予防的抗てんかん薬を投与するというpracticeにはならず、追加の検討が必要と思う(underpowerでもあるし、次につなげるための臨床試験という感じになるか?)
・また気になる点として「てんかん重責がclinicalにもelectrographicalにもどの程度あったのか?」が記載されておらず気になる(こちらの方が神経学的予後悪化に寄与するのでは?と個人的に思うが)
・こんなにsubcliniaclなseizureが多いのは意外で知らなかった!(きちんと本症例では急性期をstroke unitで管理されているためclinicalな発作を見逃している可能性は低そうであるし)今後の予防的抗てんかん薬の臨床試験はやはり持続脳波でのsubclinical seizureを検出しないといけなくなるであろうが、実臨床ではかなり大変である. 特に日本ではまだ持続脳波検査が十分に普及しているとは言い難く, なかなか実臨床上難しそう.