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発作(seizure)の誘因となる薬剤

ここではてんかん患者さんにおいて発作(seizure)の誘因となる(閾値を下げる)薬剤を文献から調べまとめます。発作(seizure)へのアプローチで「発作の誘因があるか?」は最も重要なポイント点です。誘因があればまずは誘因を除外して抗てんかん薬は増量または導入しない選択肢をとりますし、「誘因がない」場合は抗てんかん薬を増量または導入する選択肢を考慮します。この誘因の原因として「薬剤」は常に注意が必要です(特に高齢者)。ちょっとずつ書き加えていくので頻回に更新されるかもしれませんがご容赦ください。

発作(seizure)の誘因となる薬剤まとめ

抗菌薬:βラクタム系抗菌薬(ペニシリン系・セフェム系)・カルバペネム系・フルオロキノロン系
抗結核薬:イソニアジド
抗マラリア薬:メフロキン・クロロキン
メチルキサンチン:テオフィリン・アミノフィリン
抗精神病薬:クロザピン(3-6%)>その他の抗精神病薬 *アリピプラゾールは閾値を下げない
抗うつ薬*確立していない
抗てんかん薬:中断する場合の離脱・高用量で逆説的に閾値を下げる
鎮痛薬:リドカイン(低用量では抑制するが、高用量では閾値を下げる)
オピオイド:モルヒネ、フェンタニル、トラマドール
NSAIDs:アスピリン、ジクロフェナク・インドメタシン *イブプロフェンは閾値を下げない
吸入麻酔薬:セボフルラン(低濃度の場合)
参考:Adverse Drug React Bull 2016; 298:1151.
*どの薬剤が特にリスクが高いか?どの薬剤は別の薬剤よりもリスクが高いか?という点は解明されていない

各論

抗菌薬

こちらにまとめがあるためご参照ください
βラクタム系:GABAの作用を用量依存性に抑制することが機序とされており、高用量投与や腎機能障害で多いとされています
カルバペネム系:イミペネムの報告が多いですが、これはイミペネムが昔から使用されていたことを反映しているにすぎず、イミペネムとメロペネムの両者で比べると差がなかったとも報告されています ”The risk of seizures among the carbapenems: a meta-analysis.” Journal of Antimicrobial Chemotherapy 2014;69:2043-55.  またカルバペネム系はバルプロ酸の血中濃度を下げる(数日以内)ことが有名で(併用禁忌)注意が必要です
キノロン系:GABA受容体と拮抗することが機序とされている
マクロライド・テトラサイクリン・アミノグリコシド・グリコペプチド系は発作閾値を下げることはないとされている

オピオイド

・全てのオピオイドがリスクになるとされている
・薬剤の種類、投与量とも関連性がはっきりしない(薬剤を変更すれば解決するかどうかは分からない)
・in vitroではモルヒネは低用量では発作閾値を上げるが、高用量では発作閾値を下げるとされている Neuropharmacology 1994;33:155-60.
・トラマドールは高用量だけでなく通常量でも発作を誘発することが報告されている 機序は色々と指摘されているが、まだ解明されていない Journal of Medical Toxicology 2007;3:15-9.

NSAIDs

・Epilepsy Research 2001;46:251-7.

メチルキサンチン(テオフィリン)

・機序はアデノシンA1受容体に拮抗する作用が指摘されている
・またベンゾジアゼピンと拮抗する可能性も指摘があり、かつフェニトインは効果に乏しいため発作時の対応の薬剤選択で注意する推奨がされている Acta Neurologica Scandinavica. Supplementum. 2007;186:57-61.

抗精神病薬

クロザピンが最も発作閾値を下げる(3-6%にseizure)>その他の第2世代抗精神病薬
・アリピプラゾールは特殊でむしろ発作閾値を上げる可能性が示唆されている

抗うつ薬

・従来発作閾値を下げると思われていたが、近年そうではないことが示されている(精神疾患患者にてんかん合併が多いことは充分指摘されており、必ずしも発作を起こすことが薬剤に起因するとは限らない点に注意するべきである)。
・TCA, SSRI, SNRI, MAO-A阻害薬などは治療域であれば発作頻度を上昇させないことが示されている(むしろ発作頻度が減少する)
*例外はclomipramine, bupropion, amoxapine, maprotilineが発作閾値を下げることが指摘あり
*参考meta-analysisの結果:Biol Psychiatry 2007;62(4):345–54.
・以下はplaceboとの比較
抗うつ薬全体 SIR(standardized incidence ratio) =0.48 95%CI(0.36-0.61), Bupropionのみ SIR=1.58 95%CI(1.03-2.32)
抗精神病薬全体 2.05 95%CI(1.74-2.40), クロザピンのみ 9.50 95%CI(7.27-12.20), オランザピンのみ 2.50 95%CI(1.58-3.74), クエチアピンのみ 2.05 95%CI(1.21-3.23)
・中毒量の内服ではTCAなどで多い

抗てんかん薬

・抗てんかん薬の中断は離脱として発作誘発のリスクとなる

麻酔薬

リドカイン:リドカイン濃度と発作閾値の関係は二相性で、低濃度では発作を抑制するが(実際に新生児の発作抑制薬として使用されている)、濃度が8 mg/Lを超えると発作閾値を下げて誘因となる。リドカイン誘発性の発作は通常短時間で自然頓挫することが多い。Therapeutic Drug Monitoring 2000;22:320-2.
吸入麻酔薬(セボフルラン):低濃度では発作閾値を下げるが、高濃度では発作閾値を上げることが指摘されている。

参考文献
・Adverse Drug React Bull 2016; 298:1151. ほとんどの内容をこの論文から引用しました